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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

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28.恐れを断つ

 「うん、いいよ。そんな感じだ。そこ、狭いから壁を傷付けないように気を付けて、縦にまっすぐ振ってみようか」

 やさしい声で言われ、震える足を前へ踏み出す。


 〈あれは生き物じゃないし、そこに存在するだけで人に害を()すモノよ〉


 ……知ってます。


 〈攻撃することを恐れなくていいから、思い切って〉


 魔剣使いと魔剣は、心が繋がっている。

 魔剣ポリリーザ・リンデニーには、ナイヴィスが何を恐れているのかも、筒抜けだ。


 ナイヴィスは争いごとが苦手だ。

 自分が傷つくことよりも、誰かと争い、傷付けることの方が苦しい。


 雑妖(ざつよう)は、ナイヴィスがすぐ傍に立っても気付いていないのか、相変わらず、(うごめ)いている。


 ぐにょぐにょと捉えどころがなく、形も定かでない。

 虫や動植物に似た部分もあるが、この世の何にも似ていない部分の方が多い。


 何匹いるのか、個体の境さえはっきりしない。

 それどころか、これに個々の意思や知性があるのかすら不明だ。ただ、そこにいるだけなのか、それとも、何かをしているのか。


 雑妖はどこにでも発生するありふれた存在だが、その目的や行動原理は、謎に包まれていた。


 わかっていることは、この世の穢れや陰の気などから生じ、穢れを食って育つこと。

 穢れを生じさせる性質の人間と親和性があり、雑妖が雑妖を呼び増殖すること。

 個々の力は弱く、ちょっとした不運を呼び寄せるに過ぎないこと。

 定まった形を持たず、能力などの個体差が大きいこと。

 日の光を浴びただけで消える儚い存在だと言うこと。


 ……これは掃除、掃除。今持ってるのは(ほうき)、箒で隙間掃除……


 魔剣ポリリーザ・リンデニーは、ナイヴィスの()すがまま、家屋と納屋の隙間に降り降ろされた。


 何の手応えもない。

 刃と化した光が触れた瞬間、隙間を埋め尽くしていた雑妖が、消えた。


 日の射さない隙間に光が満ち、明るくなったように視えた。場の空気が軽くなって初めて、ここが濃密な穢れに満ちていたことに気付く。


 ナイヴィスは、呆然と立ち尽くした。

 音も悲鳴も、斬った感触も何もない。

 ただ、雑妖の存在だけが、消滅した。


 「初めてなのに、よくやった」

 トリアラームルスにポンと肩を叩かれ、我に返る。


 隙間の中央付近に鼠の死骸があった。夏場のせいか、既に腐敗して蛆虫がわいている。

 雑妖が居なくなったからか、肉眼で死骸を見たからか。ナイヴィスは今になって、やっと腐臭に気付いた。


 「あれが発生源だったんだな……あ、丁度いい。ちょっと、こっち来て」

 トリアラームルス副隊長が、通りすがりの村人を呼び止める。

 呼ばれた男は、副隊長が指差す場所を見た。


 「ひぇっ! これは気付きませんで……!」

 井戸端に走り、水を起ち上げて駆け戻る。

 死骸を流し、広い場所に出してから【焚火】で燃やした。鼠が完全に灰となり、風に散る。


 「あぁ言うの、そのままにしてると、雑妖がわくからね」

 「は、はい。騎士様、申し訳ございません」

 恐縮して低頭する男に、トリアラームルスは柔和な笑顔を向けて言った。

 「あぁ、別に怒ってるワケじゃないんだ。身を守る為に、ちゃんとしとかないと、危ない目に遭うのはこの村の人だから、気を付けるんだよ」


 その後は何事もなく、見回りを終えた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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