27.雑妖の退治
「ん? どうかした?」
「あ、あの、リーザ様にあれをやっつけろって言われたんですけど……」
隙間の暗がりを指差す。
トリアラームルスは、笑ってナイヴィスの肩を軽く叩いた。
「そんな怖がらなくて大丈夫だよ。日に当たっただけでも消えてしまう雑妖だ。落ち着いて、ちゃんと刃を当てればいい」
「えっ、でっでも……」
「君のことは、鎧が守ってくれる」
トリアラームルスが、ナイヴィスの背中に手を添え、そっと前に押し出す。
「あ、あの……」
「剣で何かを斬るのは、初めてかい?」
ナイヴィスは首を縦に振った。
トリアラームルスは頷き返し、ナイヴィスの肩を抱いて励ます。
「うん。そうだね。こんな大きな刃物、怖いよね」
〈何よ、失礼ね〉
「でも、君は文官だった頃、お城で追儺の為の大掃除はしてたよね?」
無言で頷くナイヴィス。
「あの掃除でも、雑妖は消えてる。使う物が違うだけで、同じことなんだよ」
近衛騎士のやさしい声に、ナイヴィスはぎこちなく首を縦に動かした。
トリアラームルスは、ナイヴィスの両肩をポンと叩き、言った。
「じゃあ、剣を抜いてごらん」
ナイヴィスが、柄に手を添える。
小刻みな震えが、鞘を鳴らす。柄をしっかり握り、思い切って引き抜く動作をした。
魔剣ポリリーザ・リンデニーに鋼の刃はない。
柄の先に菫色の光が凝集し、刃の形を成す。
〈あんなの、私に触れただけで消えちゃうんだから、さっさとなさい〉
「訓練は受けたんだろ?」
「は、はい。あの、剣の持ち方と、【盾】や【壁】の使い方を少々……」
「じゃあ、ちょっと振ってみようか」
トリアラームルスが、三歩ばかり離れる。
ナイヴィスは恐る恐る、手元を見た。
集まった光が、鋼の刃を模した実体を成して輝いている。その刃に重さは全く感じられないが、切れ味のよさそうな切先に足が震えた。
「教わった通りに持ってごらん」
言われるまま、柄に左手を添え、握り直す。
訓練所で、十代の少年に混じって受けた指導を思い出した。
背中を冷たい汗が流れる。
「うん。いい感じだ。じゃ、肩の力を抜いて、軽く振ってみて」
そう言われても、緊張に強張った身体は、そうそうほぐれるものではない。
目の前には、家と納屋の隙間。
その暗がりに、雑妖が蠢いている。
「ゆっくり息を吸って……そう……細くゆっくり吐き出して……ちょっと落ち着いた?」
トリアラームルスに言われるまま深呼吸し、小さく頷く。
「じゃ、思い切って振ってみよう」
強要ではない。ポリリーザ・リンデニーの強制もない。流れで自然に体が動いた。
正眼に構えた剣を右上に振り上げ、左下へ振り降ろす。
何の手応えもなく、空を斬る。
鋼の刃を備えた剣と魔剣では、必要とされる技が根本的に異なる。
鋼の刃は、その重量を使って叩き斬る。半ば鈍器のようなものだ。
物質の刃を持たない魔剣では、力技では斬ることができない。
魔剣と魔剣使いが一体となって、初めて本来の力を発揮する。
訓練所で、そう説明されたが、ナイヴィスには魔剣の「本来の力」がどういうものかわからない。それを質問できる雰囲気でもなかった。




