26.雑多な妖魔
〈あの家と納屋の隙間をご覧なさい〉
言われた方に目を遣る。
日の射さない隙間に、形の定かでない雑多な妖魔が犇めいていた。
自然にわいたモノなのか、穢れから生じたモノなのか。虫のようでいて、肉があるようにも視える。
同じ形は一匹もいない。
ナイヴィスは、思わず目を逸らした。
〈あれは、肉眼では視えない弱い雑妖。どこにでも発生するし、日の光を浴びれば消えてしまう。儚い存在よ〉
醜悪な姿に吐き気を催しながら、ナイヴィスは聞いた。
……結界の内側でわいたら、他所へは行けない、アレですよね?
〈そうよ。でも、普段は気付かないでしょ? 存在が希薄だから、意識してちゃんと視ないと、視えてこない。ずっと視えたままだと気が滅入っちゃうから、無意識に霊視力を閉じて、視ないようにしてるのよ〉
ナイヴィスと魔剣ポリリーザ・リンデニーは、心が繋がっている。
家の隙間をチラリと視たその一瞬で、質疑が交わされた。
「あぁ、ほら、例えばそこの家と納屋の隙間に、雑妖が居るだろ?」
トリアラームルスが、魔剣と同じ場所を示す。
「みんな、普段は気にしないけど、あぁ言うのとか、人の心の穢れとか、イヤなモノがずっと視えたままになるんだ。寝てても、三界の眼を閉じられないから……」
「あれが……ずっと……」
心の穢れがどう視覚化されるのか、想像もつかない。
二人に言われ青くなるナイヴィスに、トリアラームルスは、優しく微笑んだ。
「うん、まぁ、でも、醜くて怖いモノだけじゃなくて、とてもキレイなモノも視えるからね。人の心って、結構キレイだよ」
トリアラームルスが、花の咲く様子を真似て、顔の横で何度も手を握っては開く。
「喜びがお花みたいに、ふわって咲いて視えたりするんだ。まぁ、何が見えても、その人が何を考えているか、内容まで読める訳じゃないけど……」
三界の眼には、美醜、清濁、善悪、全てが入り混じった混沌が視えるのか。
「副隊長は、三界の眼を拝借されたことがあるんですか?」
「あるよ。毎年、夏になると、黒山羊の王子殿下にお供して、結界の保守と三界の魔物の討伐に行くからね」
王族を家紋で呼ぶと、全員が「野茨様」になってしまうので、呼称には個人の徽を用いる。
中でも、三界の眼の能力者は、徽に「黒」を冠する仕来りがあった。
黒は何物にも染まらぬ不動の色だからだ。巷に漂う種々の穢れや、三界の魔物の瘴気に中てられ、それらに染まることのないように……との願いが込められていた。
「今年も、来月にはお出ましになるよ」
「毎年……」
「まぁ、辛いだけの任務ってワケじゃないよ。慣れれば、キレイなモノを視る余裕も出るし、完遂したら、みんなの喜びが弾けて、凄くキレイなんだよ」
そう言って微笑むトリアラームルスの瞳には、翳りがあった。
討伐対象の三界の魔物は弱くとも、視界に入る穢れ……人間の心の闇は、深く恐ろしいのだろう。
新人魔剣使いに説明することすら、憚られる程に。
〈わかったら、視たついでに、始末なさい〉
「えっ?」
思わず、柄を見る。




