21.鵠しき燭台
魔剣の話に呆然としている間に、専門の係官による捜査が終わった。
魔法の鏡【鵠しき燭台】を使い、時を遡って犯行時の様子を記録する。
本人だけでなく、証拠品からも記録を採ることができる。
カボチャ泥棒の老人を拘置所に移し、詰所で報告書を作成する。
「あの、隊長、私に一人で飛び出すなって仰いましたよね?」
「言った。危ないからな」
「隊長は、今朝……」
「場数を踏めば、わかるようになる。それに、単騎ではない。ムグラーとトルストローグを待機させてたろう」
「はい」
二人は隊長の命令で、小屋の戸口に控えていた。
「目的は不明だが、カボチャの窃盗で、村人には直接、危害を加えていなかった。魔獣は草食が一頭。単独犯で、説得に応じた。……いや、応じさせた」
「なんと仰ったんですか?」
「まぁ、場数を踏めばわかる。それに必ずしも、抵抗する者ばかりでもない。正騎士の鎧を見て諦める者も多い」
「そう言うものなんですか?」
確かに、戦いの魔法を知らなければ、逃亡以外の抵抗は出来ないだろう。
仮に使えても、一般人の魔力では、鎧の防護を突破することは難しい。
「だから、気合い負けするなよ。相手に付け入る隙を見せるな」
「……努力します」
証拠保全を終えたトルストローグとワレンティナ、村への報告と罠の回収を終えたムグラーが帰還した。
隊長が口述し、ナイヴィスが記入。
三人も加わり、証拠品の品目と数量や、村からの被害届を伝える。
面倒な書類仕事だが、ナイヴィスにとっては得意分野だ。
水を得た魚の如く、活き活きとしてペンを走らせる。
「流石、元・文官だけのことはあるな。こんなに早く書類が完成したのは初めてだ」
「お兄ちゃん、すごーい。私、こんないっぱい書けって言われたら、それだけで頭痛くなっちゃう」
「……その辺も、慣れてもらわねば困るぞ」
ソール隊長はひとつ咳払いして、ワレンティナに釘を刺した。
烈霜騎士団は、主に犯罪の捜査や罪人捕縛の任務を行う。付随する書類仕事も、武官の中では比較的多い。
……書類仕事だけ、させてくれないかなぁ?
〈バカじゃないの? 何の為に転属したと思ってんの?〉
思考を読んだポリリー・ザリンデニーが即座に却下する。
……うぅっ……希望を思い浮かべることも許して下さらないなんて……
ナイヴィスはがっくりと肩を落とした。




