20.罪人待機室
烈霜騎士団の詰所は、王都南裁判所と隣接している。
入口の警備兵が敬礼した。
隊長は気さくに応じ、ナイヴィスは畏まって一礼した。
〈いちいち堅苦しいわ〉
……でも、そんな……
正騎士になって三カ月。
武官式の挨拶に慣れていない。そして、自分より警備兵の方がずっと強い。威張るどころか、彼らと対等に接することも畏れ多い気がした。
隊長は、老人を罪人の待機室に入れた。
「じゃ、係の者が来るまで、ここでお待ち下さい」
隊長とナイヴィスが待機室前に立ち、警備をする。
壁・床・天井の全てに【防護】と【消魔】の術が掛かっている。
この中で魔法を使っても、効力を発揮することは、ほぼ不可能だ。
〈悪いコトした王族なら、こんな部屋、軽くぶっ飛ばしちゃうんだけどね〉
魔剣が、実際に起きた事件をナイヴィスの脳裡で再現する。
ナイヴィスの眼は、現在の待機室を見ているが、その視界には、王族の男性が何かの術で壁を破壊する様子が、重なって見えた。
瓦礫の下敷きになり、何人もの兵士や罪人が巻き添えになる。
男性はそれに構わず、現場から去った。
部屋の防護は、術を上回る力を加えれば、打ち破ることが出来るのだ。
〈これね、【鳥撃ち】だったのよ〉
「えっ?」
【鳥撃ち】は【急降下する鷲】学派の初歩的な術だ。
魔法の矢で雀などの小鳥を落とす。
一般人ならどう頑張っても、鴉や鳩を撃ち落とす程度の威力にしかならない。
……あの、参考までに、この後、どうなったんですか?
〈仕方ないから、このお方よりも強い王子様にお出まし願って、取り押さえていただいたの。下手に騎士団が頑張っちゃうと、却って民にも被害が広がるから。覚えといてね。逆らわずに、他の王族に助けを求めるのよ〉
それには、心の中で強く同意した。
……王家のお方に逆らうとか、ムチャ言わないで下さい。
〈騎士なんだから、そんな状況だってあり得るのよ?〉
………………………………えっ。
ムルティフローラの王族は、桁違いに強い魔力を持っている。いや、強い魔力がなければ、王族とは認められない。
王家の血を引く者は、身体のどこかに王家の紋章である野茨の痣がある。
野茨の血族は、十歳になると試験を受ける。
城に聳える「右の塔」に登るのだ。
城の中庭に聳える左右の塔は、空調管理室の管轄外だが、ナイヴィスも常識として知っている。
塔の入口の扉は、王家の血筋に反応する。
野茨の血族でない者は、どれ程腕力や魔力が強くても、開けられない。
塔内には百枚の扉がある。
こちらは魔力に反応して開く。上層程、強い魔力を必要とし、七十枚以上開けられなければ、野茨の血族であっても、王族とは認められない。
野茨の血族は、他の者より遥かに魔力が強い。
王族と認められなかった者さえ、ナイヴィスの敵う相手ではなかった。




