17.霊的な相性
ナイヴィスは何の脈絡もなく、あの日の城青警備隊長の呆れた顔を思い出していた。
「空調制御室長殿から、何も聞いていないのか?」
「……はい」
一体、何が「めでたい」のか。
何故、いきなり文官から武官に転属させられるのか。
聞きたいことは山程あるが、何から聞けばいいのかわからない。
「うむ……まぁ、座れ」
隊長は、ナイヴィスに椅子を勧め、説明してくれた。
魔剣使い……退魔の魂の武器の使い手は、なりたいと思っても、なれるものではない。
退魔の魂が、使用者を選ぶからだ。
英霊の声を聞き得る霊的な相性も必要だ。
剣が気に入る性格の相性と、霊的な相性が第一で、剣の技量や術の系統など、戦闘に関する能力は二の次、三の次。
その為に、部署の文武を問わず、毎年持ち回りで退魔の庫の点検を行い、退魔の魂と顔合わせをさせる。
空調管理室長が、英霊の声に返事をするな、と言ったのは、職員が年度途中で急に転属するのが、面倒だからだろう。
「あのー……私は、剣を持つのも初めてで、魔物と戦ったこともないんですけど……」
「先程、霊的な相性があると言ったな。それは……」
霊的な相性が合う者ならば、一時的に英雄の魂をその身に受け容れることが可能だ。
いざという時には、その身を英霊に預け、代わりに戦ってもらう。
それ故、本人の戦闘能力は問われないのだ。
「あの、それって、ずっと……なんてことは……」
「それはない。極限られた時間だ。逆に言えば、その時間内に魔物を倒せなければ、君自身が戦わねばならなくなる」
「……」
ナイヴィスは、絶望を絵に描いたような目で城青警備隊長を見た。
「長生きしたければ、しっかり鍛錬することだ」
ナイヴィスが落ち着きを取り戻す頃には、完全に日が落ち、夜の闇に包まれていた。
村長の家へ入ると、村長の老妻に迎えられた。
「おかえりなさいまし。よくぞご無事で……お夕飯、温め直しますね」
隊長たちと村長の一家は、食べ終えていた。
夕飯を待つ間、トルストローグが報告する。
ナイヴィスの予報通り、激しい夕立が降り始めた。屋根を打つ雨音が、恐ろしい程だ。
「森の奥で丸木小屋を見つけました。そこに生えてた木を伐って建てた新しい奴です」
「案外、近くに潜んでいたのだな」
「それで、灯が点くかどうか、見張っていて遅くなりました」
「あまり無理するなよ。三人とも無事でよかったが」
「すみません」
「で、犯人、わかったんですか?」
ムグラーが食卓に身を乗り出す。
「居ました。木に跳び縞が繋いであって、戸の隙間から灯が漏れるのが見えました」
トルストローグは隊長とムグラーを交互に見て、人数など詳細は不明だと締め括った。
「今日は、畑には異常なかった」
「魔力に反応して音が出る罠を仕掛けたんだ」
「隊長、明日はどうするんですか? トルストが印をつけてくれたから、近くまで【跳躍】できますよ」
「明日は全員で森へ行く」
ワレンティナの質問に、隊長は即答し、作戦を説明した。




