13.妥当な判断
一方、畑を監視するソール隊長とムグラーは、罠を張っていた。
燻製用の太い糸を木に括りつけ、森と畑の境に張り巡らせる。
糸は地面に這わせ、要所要所に呪符を付け、石を置いて隠した。
魔力を持つ者が糸を超えると、呪符が大音量で鐘の音を発し、その者はその場から離れられなくなる。
糸から呪符を外すか、呪符に籠められた以上の魔力で【跳躍】など、移動の術を使えば、脱出できる。
昼前に作業が終わり、森の奥を見る。
昼なお暗く、全く見通しが利かない。
「あいつら、大丈夫でしょうか?」
「なぁに、大丈夫だ。トルストローグとリーザ様がついている。さ、我々も監視を続けよう」
足跡の追跡組は、ひたすら森の奥へ向かっていた。
蜂や毒蛇、他の魔獣や狼などの野獣には、遭遇しなかった。跳び縞の姿も見えない。
薮を漕ぐ音に驚いて、足下からバッタや蛾が飛び出したり、鹿や兎が逃げただけだ。
「どこまで……逃げた……んでしょう……ね?」
ナイヴィスの体力は、早くも尽きかけていた。
何しろ、王都で生まれ育ったひ弱な都会っ子が、生まれて初めて、森の奥深くへ分け入ったのだ。
慣れない薮道は歩き難く、跳び縞とトルストローグの踏み跡を通っても、時折、草に足を取られて転んだ。
鎧の力で怪我はないが、魔剣には散々笑われ、精神的にはボロボロだった。
「長丁場になりそうだな。ちょっと早いが、飯にするか」
トルストローグは、苔むした岩にどっかり腰を降ろした。
堅パンと塩気の強いチーズを水で流し込む。
「結構、遠くから来てたのねー」
「そうだな。昨日のあれで警戒して、今日は畑に出ないかも知れんなぁ」
「……」
ナイヴィスは、喋る気力もない。
手を叩いてパン屑を払い、トルストローグが言う。
「これからの行動を確認しよう。小休止を挟みながら、できる限り追跡を続ける。日が暮れたら、その場所に印を付けて、村に引き揚げる」
〈妥当な判断ね〉
「妥当な判断ね、っておっしゃってます」
「ありがとうございます」
魔剣ポリリーザ・リンデニーの声は、ナイヴィスにしか聞こえない。
声に出して伝えると、トルストローグは、ナイヴィスと魔剣それぞれに礼を言い、話を続けた。
「もし、魔獣を見つけても、なるべく殺さない。悪意を持った奴に使役されてなきゃ、害はないからな」
〈そうね。私が術を解いてあげる〉
「えッ? どう言う風にですか?」
〈身体を貸してくれれば、呪文は私が唱えるから〉
大丈夫よ、とお気楽な声が、ナイヴィスの脳裡に響く。




