小林ちゃんと大林くんと
僕、小林幸には彼氏がいます。僕は一人称はこんなだけど一応女の子です。
彼の名前は大林修平と言います。名前の通り背は高く、最近2cm伸びてなんと189cmくらいあるそうです。しかもまだ伸びているというのだから驚きです。
「どうやったらそんなに背伸びるの?」
で聞いたら
「や、聞かれても困る。知らん」
って言われます。その時の表情のなんと渋かったことか。
これはそんな彼と僕のお話。
▽
「ねえ大林くん、今週の土曜ヒマ?」
「そこは「空いてる?」って言えよ。俺が可哀想に聞こえるだろ」
「細かいね。それで、ヒマ?」
「……はあ。ヒマだけど」
大きなため息を吐く大林くん。そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどなあ。
「じゃあデパート行こう。◯◯駅の」
「ん、わかった」
彼は面倒見がいい方でなんだかんだ僕の言うことを聞き入れてくれます。
「やったー」
「大袈裟だな」
「オーバーにやってるもん」
両手を挙げて喜ぶ僕の頭をポンポンと優しく撫でるように手を乗っけてくる。
「ポンポンすんなって言ってるだろ!」
「いてっ……。脇腹いてえ」
大林くんはよく僕の頭をポンポンし的ます。僕はそれがあまり好きではありません。なんか子供扱いされてるみたいで好きじゃないです。
だからポンポンされたら拳を大林くんに差し出しています。ポンポンと僕のグーは等価交換です。
「ちょっとは加減してくれよ」
「したらやめないじゃない」
「しなくてもやめない」
強情な大林くんは脇腹を押さえながら僕の隣でいらん決意を固めます。
「なら僕は殴るのをやめない」
「望むところっ……ではないな」
そうだね、望んじゃうと大林くんがちょっと特殊でアレな感じになっちゃうもんね。
脇腹を押さえてちょっと猫背気味になってもやっぱり大きい大林くんは帰り道落ちかけている西日を浴びて少し赤く見えます。
……てかまだ押さえるほど強く殴ったかな?
▽
駅前のロータリーに一際背の高い人影を見て、それが大林くんだとすぐにわかったので僕は小走りに駆け出した。
「お待たせっ」
「おお……、ん?」
大林くんは僕を、正確には僕の隣を見て少し止まります。
「小っちゃいのと、その隣にもっと小っちゃいの……、いてっ」
スネを蹴ってやりました。
「姉ちゃんはちっちぇけど俺はトシソーオーだかんな」
「小っちゃいは余計だ」
隣の弟の頭を小突く。
「なんだ、小林の弟か?難しい言葉知ってんな」
「どうしてだかね、ほら自己紹介」
「小林明。まだ5才だからちっちゃくねえ」
「ふーん。俺は姉ちゃんの友達の大林修平な。こう見えてお前の姉ちゃんと同い年だ……、ってぇ!」
「余計なこと言わない」
またスネを蹴ってやりました。
「でっけえのに弱えのな」
「お前の姉ちゃんが強いんだよ」
二人は会ったばかりなのにもう仲良くなりそうです。
「つかなんで弟?てっきりデートだと思ってたけど」
「あはは……、うちのもう一人の弟の友達がいっぱい来て、その厄介払いにね。デパートでヒーローショーがあるからそれが見たいってわけで」
「そうだぞ!ソーデンジャーが今日来てるんだぞ」
「ああ、あのエッグイ技の……」
ちょっと顔が引きつる大林くん。
ソーデンジャーは戦隊モノの一つ。電気をモチーフにしたヒーローで、段々と電圧を上げるという拷問みたいな必殺技を使う子供に大人気の特撮ものだ。
「一気に『喰らえ600万ボルト!』ってやりゃいいのによ、『まずは3000ボルト!』とか言うんだろ?」
「子供の流行りはわからないねぇ」
「なんでだよ!カッコいいだろ!バーンってなるのカッコいいだろ!」
やっぱりわからないね、と大林くんと顔を見て笑いあう。それでも明はソーデンジャーのカッコいいところを熱弁してくるものだからさらに笑ってしまう。
「カッコいいんだぞっ!」
怒ったような大きな声はそれでも笑うことを止められるわけではなくて、でも真剣だっていうことは伝わってきた。
「だから見に行くんだろ?」
大林くんが明の頭に手をのせて言います。
「あたりまえだ」
「じゃ、行くか」
ふてくされたような、まんざらでもないような感じで明が言う。そして私たちはデパートに向かうのだった。
▽
「ショーまで30分くらいあるね。どうする?」
「30分ってまた何するに微妙な時間だな」
3人でデパートに入った、まではよかった。けど例のヒーローショーまでの時間に何をするかノープランで入ってしまった。
本当は何も考えてなかったわけじゃない。僕だって服とか見たかった。けど、明もいれば時間も30分しかないのだから女子なら自ずとこの案がボツになることぐらいわかるだろう。
「なんか食うか?」
「なんかってなんだ?」
「ん〜、たい焼き?」
軽食のお店が並ぶ一角のお店を見て大林くんは言う。
「たい焼き好きなの?」
「てか甘いの好き。明も食うか?たい焼き」
「くう」
そして私たちはたい焼きを買ってヒーローショーの行われる屋上へと向かった。
「あれだね。ギリギリまで買い物したいお母さんばかりなのか結構空いてるね」
「明日もやるらしいからお父さん任せにしたいお母さんが渋って外に出てないんだろ」
「オレ前〜」
「走ると危ないよ」
いろいろお母さんのせいにしたり、椅子の羅列の間を駆け出したりとせわしない僕たち。
観覧の席は時間的にか土曜だからか、まだ前列に親子を集める程度にとどまっている。
「大林くんは前行かないの?」
「俺が行くと後ろの人が見えないから。肩車すると見やすいかもな。する?」
「怖そうだからいい」
「さいですか」
結局僕たちは端の方で待機することにした。
館内アナウンスでヒーローショーのことが流れると観覧席はすぐにほぼ満員になって、お母さんの偉大さを知ることになった。
▽
「おーい。ねーちゃーん、シューへー」
ショーが終わってヒーローが裏に帰ったので明が僕たちを席から呼ぶ。
「呼び捨てかよ」
「まあ子供だしね」
明は僕たちを見つけて席の間を駆けてくる。
「子供は名前で呼んでくれるのになー」
「なにさ。大林くんも僕のこと名前で呼んだことないくせに」
「じゃあ……『恵美』」
「……っ!済し崩し!それは済し崩し的だよ」
「でも呼んだぞ」
あっけらかんとした様子で言ってのける大林くん。彼は少しズルいところがあって……、ズルいです。
「ねえちゃん怒ってる?」
「怒ってない!」
僕は早足に歩き出す。
「シューヘー、ねえちゃんに何言ったんだよ。また背のことか?」
「いや、お前の姉ちゃんやっぱ可愛いなって」
「そう?」
後ろで大林くんと明がなにか言ってたけど、内容までは聞こえなかった。
▽
「いいか明。女の人はな、服を見るのとか化粧品を見るのとかが好きだ。そしてそれは長いと神様が決めた」
「おう」
「だからな、男はそれにつきあい、対応せねばならないのだ」
「おう」
「ま、お前の姉ちゃんの場合選択肢狭いからそうでもねえけどな」
「おう」
「怒るよ?」
あの後明が「姉ちゃん機嫌悪いなら姉ちゃんの行きたいとこ行こう」と言ってくれたので今しがたから服屋にいる。
「っても本当だしなー……、おっこれとかいんじゃね」
「言う割にノリノリだよね」
「明も姉ちゃんに似合いそうなの探してみ」
「どんなのがにあう?」
「そりゃ小さいのだ……ィテッ!」
脇腹に拳をきめてやった。明は「小さいの小さいの」とか言いながら走り出すし……。
「もー……」
「ナイスパンチ……。さすが加減知らず」
「僕今ね、割と本気で怒ってるよ」
「すいまっせんでした!」
「ハハッ、よろしい」
勢いよく謝ってくる大林くんを見るとなんだか怒るのがバカらしくなってくる。
「おーいこれとかかー?」
「おい、それベビー服じゃん。どこにあったんだよ?」
「明、さすがにそれは馬鹿にしてるよね?」
「ヒィッ……」
▽
「明、俺が持つとたい焼き小さく見えるだろ?」
「おう」
「でも姉ちゃんが持つと大きく見えるだろ?」
「おう」
「でも2つは同じ大きさなんだよ……ィテッ」
▽
「いやー楽しかった」
「そう言ってもらえるとありがたいね。今日は付き合ってくれてありがとう」
「ん」
帰りは一緒の電車に乗って一緒に帰る。窓から差し込む夕日が眩しい。
「でも1つ言うとしたら……」
「なあに?」
「恵美はいつ名前を呼んでくれるかなー」
「……ッ!それは済し崩しだったからで」
「今は?」
「ちょっ、近……」
「今は?」
なんてやりとり、他に誰も乗ってないからいいものの、誰もいないと強気な大林くんはやっぱりズルい。
「……修平」
「よしよし」
名前呼びだけで照れるなんて思春期は大変だ。少し火照った顔を冷ましたくなる。
「姉ちゃん顔赤い」
「……夕日のせいだよ」
うつむきながらそう言う以外なにも言えなかった。
おまけ
「喰らえ、3000ボルト!」
「ぎゃあーー」
「さあみんなー、ソーデンジャーを応援してパワーをあげてー。せーの!」
「「頑張れソーデンジャー!」」
「うぉぉぉ。力が湧いてきたー!よし4000ボルトォ!」
大林「刻むな刻むな」




