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卒業制作を抱きしめて  作者: テオ
4/7

問題編04「問題提起」

未留は会長室の椅子に腰掛けた。

疑いをかけられないように扉は開け、

執務室にいる寿美麻から見えるようにする。


「ねえ、どう思う?」


扉に背を向け、

壁を見上げながら口を開いた。


「……警察を呼ぼう、未留」


ついてきた望華は床に座り、

ふうと溜め息をついた。


「こんな証拠もアリバイも不確かな状態では犯人も断定できない。もし推理によって犯人が分かったとしても、人を殺した犯人が易々と犯行を認めるはずがないよ。強制力も何もない集まりだから、結局は何も出来ない」


そう進言する望華に未留は頷くが


「ピースが足りないということ?」


その内容を無視した返答だった。


「……もう、一度言い出したら聞かないんだから」


望華は疲れたように

もう一度深い溜め息をついた。


「望華、分かったことを教えて」


「1人は間違いなく嘘をついている。けれどそれは当然だよ。自分に不利なことは言わないにこしたことないからね」


「……嘘?」


「そっ、明らかな嘘が1つ混じっていた」


「それじゃあ、その嘘つきが犯人?」


「……まだ分からない。まだ不自然なことが2つあって、どう判断すべきか悩んでる」


望華は首を振った。


「一つ目は、どうして花瓶なんかで殴ったか」


「咄嗟に凶器がなかったから?」


「中に何も入ってないならまだしも、水がタプンタプン揺れるような物で殴ろうなんて普通思わないよ……ん?」


望華は誰かが来た気配に口を閉じる。

振り返ると、入ってきたのは江戸だった。

望華の姿を見た彼女は苦笑し


「望華、私だよ。しっかし、未留。また望華に頼ってんのか?」


「私よりも望華は優秀だから」


「だからって、学部を率いる自治会長様が実は参謀任せってのも……なあ?」


同意を求めるように見るが、

望華は溜め息をつくだけだった。


「江戸、何かあった?」


「ああ、そうだった。浮気の荷物から出てきたから見せておこうかと思ってさ。寿美麻と漁っていたら出てきたんだ」


生徒会室にあった軍手を着けた江戸が

持っていたのは携帯電話だった。

尾羽ほどではないが古いタイプで、

3年は前のモデルだった。


「浮気の携帯。どうも寿美間が言うには携帯をカバンに入れる奴らしくてな、それで残ってたみたいだ。で、最後にこんなメールが着信している」


着信 13時15分

題名 無題

本文 1時半に視聴覚室にて待つ


「差出人は浮気の登録していない相手か」


アドレスのドメインを確認すると、

携帯の物ではなく

パソコンから送られたメールのようだった。

江戸は床に座る望華にも見えるように屈んで見せる。


「このアドレスから特定できれば……苦労はしないか」


「無理だよ。フリーメールのようだし、嘘の個人情報で登録することも可能だから。それに、このアドレスはまだ生きているとは限らないよ。使い捨てならもう消されているから」


「携帯からの転送メールという可能性は?」


「……確か、これはウェブからだけだった気がするよ。ほら前に一度、未留も使ってたの覚えてない? 結構、融通の利かないフリーメールだから。転送サービスや携帯用サイトはなくて未留は使うのを辞めたんだよ。当然、指定した時間に送信とかも無理だった」


そう口にした望華は、

何かを考えるように目を閉じた。


「浮気がこのメールを見て行ったとすれば、なにか思い当たる節があったんじゃねーか?」


メールで視聴覚室に呼び出され、

いきなり後ろから殴られて死んだという流れが自然だ。


「そういえば望華。さっき、気になることは二つあるって言ったけど」


先程、言いかけていたことだ。


「……そうだったね。それはあの卒業制作のクリアファイルだよ。どうして犯人は中身を持っていったのかなって思ったんだ」


「最初から中身が入っていなかったのかもしれない」


「うーん……多分それはないよ。分からないのは、どうして犯人がそんな手間をわざわざかけたのかなんだ」


「何か意味があるということ?」


もどかしげに望華は首を振った。


「意味があるのかないのか、だよ。残された状況が全て紐を読み解くことに繋がるとは限らないから。ひょっとすると動機に関わることかもしれない」


その言い方に引っかかったのか、江戸が訝しげに尋ねる。


「望華、ひょっとして、犯人が分かったのか?」


「多分、ね。ピースが揃ったから」


あっさりと頷き、未留に視線を向け


「ねえ、未留。最後に聞くけど、今この段階で、警察を本当に呼ばないの? きっとこの事件は司法解剖すればすぐに解決するはずだよ」


「けれど、呼ぶわけにはいかない」


「……そっか」


ふうと溜め息一つ、望華は口を開いた。


「明確な証拠はなくて、あくまでも考えた推理はあくまで可能性が高いというだけだよ。誰もが不確かなアリバイの上に立っているわけだからね。やろうと思えば犯行が可能な人物は複数いる。だけど、あえて1人に絞ろうとしたならば、犯人はあの人しかいない」


言葉を続ける。


「犯人は少しでも自分が疑われないようにしたかった。けれど、それが逆に足跡になってしまったんだ。覆水盆に返らずとは言うけれど、犯人はその水どうにか戻そうとして、逆に広げてしまった感じかな」


望華は立ち上がり、未留の傍まで行く。


「未留、犯人は――」



問題編 終了

解決編へ続く


これで問題編は終了です。

ここまでに必要なピースは揃っています。

解決編は後日掲載します

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