音。
忘れられない、音がある。
語る事のできない、甘美な音色が。
語り継ぐ価値はあれど、それを表す術のない音が。
血のように体を巡って、鼓動のように奥底から鳴り響くそんな音が、私の中で反響する。
体内で響き渡る音色は、口なんてものでは奏でられない。
出口のない音。
映像も、臭いも、握った手の暑さも、すべて鮮明に思い出される。
呼吸すら無駄な音だと止めてしまった瞬間に、その音は私の体を突き破って入り込んだ。
息は吐けど、音は出ず。
魂に刻まれてしまった振動は鳴り止まない。
私はこの音と共に生きている。