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88区  桂水高校女子駅伝部大活躍  その2

挿絵(By みてみん)


しばらくすると、3000mに出場したメンバーが帰って来る。


「また桂に負けたし。これで0勝6敗だし。自分が不甲斐ない。本当にイラつく」

雨宮桂に負けたせいか、紘子は少し苛立った様子だった。


ここまで不機嫌な紘子を見たのは初めてだ。

あまりの機嫌の悪さに、誰もが紘子に声を掛けれない。


朋恵が頑張って声を掛けようとするが、何を言っていいのかわからず、紘子の後ろでおろおろしている。


しかしそんな紘子も、3000mの正式結果がアナウンスされ、表彰式に出かけるころには機嫌も直り、表彰台に上がった時には満面の笑みを見せていた。


紘子を間近で見ようと表彰台の真上にある観客席の一番下まで移動すると、雨宮桂と肩を組み笑顔でこちらにピースをしてくる。


それを写真に収める晴美。


それを見て、中学時代を思い出す。


私とえいりん、藍子も今にして思えば、こんな感じだったのかも知れない。


スタート前はお互い会話もせず、レース中は闘志をむき出しにして走った。


でも、表彰台に3人で上がると、和気あいあいとしていたし、今の紘子達みたいに3人で写真を撮ってもらったこともあった。


と、表彰台にいたもう1人の人間と眼が合う。

いや、正確に言うと睨まれていた。

藍子がじっとこっちを睨んでいる。


「勝負から逃げたのかしら」

声は聞こえなかったが、口の動きと表情で藍子の言っていることがわかった。


それにたして、「私に決定権はないの」とジェスチャーを出すが、伝わっていたのかは疑問だ。


その表彰式から2時間後。

800mの準決勝が始まる。


紗耶が出場した3組目。

まるで先ほどの予選を見ているような感覚だった。


ラスト1周の時点で紗耶を含め3人が一塊となって先頭集団を形成。

後ろとの差は大きく開いていた。


ただ、予選と違うのは、準決勝は3組2着プラス3。

つまり3人のうち確実に決勝に進めるのは2人だけなのだ。


ラスト1周の鐘が鳴り晴美がもうひとつの事実を告げる。


「やっぱり1組目に比べ400mのラップが3秒遅いかな。この組からのプラスは期待できないかも」


1組目は城華大付属の貴島由香が最初から先頭を引っ張り、全体的にタイムがかなり速かった。


4着目まで僅差で雪崩れ込んだため、1組目からプラスが2名出る可能性が非常に高い状況となっている。


その1組目よりもタイムが遅い以上、紗耶が決勝に進出するためには着順で2位にはいるしかない。


「紗耶、頑張れ!!」

「紗耶さんファイト」


バックストレートを走る紗耶に声を届かせようと、みな懸命に声を出す。


ラスト200mを切ったところで1人が飛び出る形となり集団がばらける。


紗耶ともう1人が一歩も譲らない2位争いを演じる。

ラスト100mになり、ホームストレートに入ると2人が横一列に並ぶ。


本当に2人とも一歩も譲らない。

私達もありったけの声で必死に応援をする。


お互い、横並びのまま同時にゴール。

ゴール上のスタンドで応援していても、どちらが勝ったか全く分からなかった。


「今の……どっちが勝ったんですか?」

不安そうに質問してくる朋恵に誰も返答出来ない。

本当に分からないのだ。


結果待ちのわずかな時間がものすごく長く感じてしまう。


と、オーロラビジョンに速報が出る。

それを見て晴美が真っ先に声を上げた。


2着に名前があったのは紗耶だった。

それも3位とわずか100分の1秒差。


「まぁ、たった100分の1でも勝ちは勝ちだな」

それだけ言うと永野先生は安堵の表情になる。

先生も気をもんでいたいようだ。


私達も自分のことのように喜ぶ。


おかげで紗耶が帰って来た時に、「いやいや、みんな盛り上がりすぎだよぉ」と苦笑いされた。


「でも、速報を見るまで本当に結果が分からなかったんだよぉ。こんなの初めてだよぉ。決勝に進出出来てよかったぁ」

と本音も漏れていたが。


「さて、佐々木記録は全部書いてるな?」

「はい。大丈夫です」


「よし、みんなお疲れ。今日の3000mと800mは非常にレベルの高い走りが出来たと思う。特に3000mは2、4、6位と非常に立派な成績だ。確実に昨年よりレベルアップ出来ている。ただ、城華大付属が1、3、5位だったことも事実だ。我々はあくまで駅伝部であり、目標は都大路出場だと言うことを忘れないように。それと藤木は、準決勝の接戦を良くものにした。明日もしっかりと頑張ってくれ。あと、那須川。初めての大会で色々と学んだこともあるだろう。それをこれからの練習に生かしてくれ。以上」


永野先生からの一言を聞き、みんな声を揃えて「はい!」と返事をする。


それから荷物をまとめ、由香里さんの車へと行き、荷物を乗せる。


「本当に迷子になったりしないかな」

晴美が不安そうに私を見る。

実は今日の練習を兼ねて、私だけ競技場から旅館まで走って行くことになっていた。


まぁ、距離にして6キロ程度だし、昨年の高校選手権と駅伝の時に由香里さんの車に乗って何度か往復しているので問題は無い。


みんなを見送り、軽く体操をして走り出す。


春にしては少しだけ冷たい風が汗を冷やし、とても気持ちの良い時間だ。


ただ、風が止んだ後でも、私の汗は冷えたままだった。

言い方を変えると冷汗とも言う。


原因ははっきりしていた。


4キロ辺りで道路工事のため全面通行止めとなっており、迂回するも本来の道がどれだか分からず、大体の見当で走っていたのだが……。どうも違ったようだ。


近くのコンビニで旅館の場所を聞こうにも、名前を知らないことに気付き愕然とする。


「ものすごく古い旅館で」と説明しても「この辺は古い旅館が多いからねぇ」と困った顔で返された。


さらには落としたら嫌だからと、携帯はバックに入れたまま。

まさに八方塞がり。


どうしたものかと思案していると、遠くに救いの神がいることに気付く。

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