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79区  料理の超人

挿絵(By みてみん)


「そうですね。自分もお腹空きましたし。なんか簡単に作りますね。朋恵、この前と同じようにテーブルお願い」

この部屋の主は、それだけ言うと、台所に向かう。


朋恵がベッドの下から折りたたみのテーブルを出し始める。

こんな所にテーブルを片付けていたのか。


別に姉のためとかではなく、純粋に知識として、紘子から片付け術を学びたいと思った。


だが、10分後には、それよりも料理術の方が先かも知れないと感じる。


テーブルの上には、チャーハンと野菜炒め、それにコロッケが並んでいた。


「昨日偶然コロッケをいっぱい作ったんですよ。さぁ、食べましょう」

食べましょうと言われて、手を動かしたのは当の本人と朋恵だけだった。

私達はあまりの手際の良さにあっけにとられていた。


「あの……料理冷めますよ」

朋恵が不安そうに見て来る。

それと同時に私達も、いただきますと言って食べ始める。


一口食べてはっきりと分かる。

紘子の料理の腕はかなりすごい。野菜炒めは噛めば噛むほど野菜の旨みが出て来る。チャーハンにいたっては、口の中で溶けそうなくらいに柔らかい。


「紘子。あたし、あなたの作った味噌汁が毎日飲みたい」

あまりの美味しさに、麻子はプロポーズまでする始末だった。


「いや、でも紘子ちゃんはすごいかな。料理は出来るし、頭も良いし、おまけに足も速い。これは男子がほっておかないかな」


なぜかにやにやしながら晴美が紘子にちょっかいを出す。

でも紘子は、いたって冷静だった。


「別に自分、男に興味ないですから」

「さすが、全中2位は言うことが違うわね。うちもそれくらいの気持ちで頑張らないと、足が速くならないのね」


口ではすごくまじめなことを言っている葵先輩だが、箸は3つ目のコロッケに伸びていた。


いや、コロッケは確か14個しかなかったはず。

今ここにいるのは全部で7人。

つまりは1人2個のはずだが……。


それとも理数科クラスの人にしか計算出来ない方程式があって、それを解くと葵先輩のコロッケの数は3つと言う答えが出るのだろうか。


「そう言えば……。先輩方は彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」

朋恵の質問に私達全員の箸が止まる。


「ともちゃん、わたし達は駅伝部なんだよぉ?」

「はい……。それは知ってます。あ、もしかして恋愛禁止とかですか?」

紗耶の一言に朋恵が少し声を強めて返す。


「少なくとも、駅伝部を立ち上げた時には禁止にした覚えは無いわね」

「えっと、今彼氏がいる人は正直に手を上げて欲しいかな」

晴美の質問に誰も手を挙げない。


私が周りを見渡すとなぜか紘子と眼が合った。


「と言うか、正直あたし今彼氏を作ろうと言う気にならないんですよね。高校に入ったら走ることに一生懸命で、夏休みは合宿とかあって、秋になったら駅伝に全力を注ぎ、残念ながら昨年は夢叶わず。だから今年こそはと言うこの時期に彼氏はちょっと。そんな暇があったら走ってたい」


麻子の発言に紗耶と葵先輩も同意を示す。

正直、私も似たような意見だ。


「でも1年生は素敵な男子がいたら頑張って欲しいかな」

「だから、自分男に興味は……」

「あの……相手にも選ぶ権利があると思うんです。私じゃ相手が可哀想です」


あ、これは駅伝部全員彼氏は出来そうにないな。

私は何となく、予感めいたものが頭に浮かんだ。


「永野先生はどうなんだろう。彼氏さんいるのかなぁ」

「紗耶? それを聞いていなかった場合、あなた死ぬわよ?」


麻子の冗談とも本気とも取れる発番に、紗耶も「たしかに怖くて聞けないよぉ」と納得をしていた。


御飯を食べ終わった後、紘子が洗い物をすると言うので、私達は部屋でゆっくりとしていた。


こう言う時の定番と言えば、部屋の散策だ。


「うわ、見てこれ。紘子の髪が長いんだけど」

麻子が驚きながら、私にアルバムを見せて来る。


そこに写っている紘子は小学生の低学年くらいだろうか。

姉と思われる子供と一緒にピースをしていた。


あなたはお姫様ですかと言いたくなるような、ひらひらとした長いスカート履き、髪は腰近くまであった。


「こう見えて、昔は大人しくて、スカート大好きで、本当に女の子女の子してましたよ。5年生になって地域の陸上クラブに入って変わりましたね。逆に今はこっちの方が落ち着きます。もう、その姿に戻ろうとは思いませんし」


洗い物を終え、紘子が戻って来て私達に教えてくれる。

紘子の説明を聞きながら、私はある物を見つけ手に取った。


「あ、私もこのCD持ってる。いいよね、さくらみやこ。私も好きだよ」


私の一言を聞き、紘子が「えっ?」と声を上げ、なぜか顔を真っ赤にして台所へ再度戻っていった。


それを見て、私の後ろで晴美がくすっと笑う。

私、なにかへんなこと言ったっけ? 自問自答をしようとすると、けたたましい悲鳴を上げてまた紘子がこちへ来る。


「いた! いたんですって! 流しの下に! 嫌、本当に無理だし」

「落ち着きなさいよ紘子。なにがいたの?」

「あぁ、今ので分からない辺り、麻子は台所にあまり立って無いのがばれるかな。こう言う時はゴキブリと相場が決まってるもんだよ。私も苦手なんだけど」


段々と声を小さくしながら晴美が説明する。

私もさることながら、どうも葵先輩と紗耶も苦手らしく、動こうとしない。

いや、動けないと言った方が良いのか。


「あの……。ひろこちゃん、これ借りるね」

朋恵は部屋の片隅置いてあった古新聞を手に取ると、それを丸めながら台所へ歩いて行く。


パン! パン! パン! パン! パン!


なんとも豪快な音が響く。


「えっと……。叩いた新聞に包んで捨てたから大丈夫だよ。てか、みなさん苦手なんですか?」

みんなが朋恵の問いに頷くしかなかった。

と言うより、ゴキブリが平気な朋恵と言うのがすごく意外だった。


「朋恵すごい。結婚してほしいかも」

麻子にいたっては、本日2度目のプロポーズをしていた。



差出人:澤野聖香

題名:ことわざで

本文:一寸の虫でも五分の魂って言うのがあるけど、ゴキブリは論外だよね


差出人:澤野聖香

題名:うん?

本文:さわのん国語苦手? 意味間違ってるよ? あと、ゴキブリって人類が滅んでも生き残れるくらい生命力強いらしいよ


差出人:澤野聖香

題名:え?

本文:ちょっと辞書で調べて来る!


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