表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/240

76区  予想外の新入生 その1

挿絵(By みてみん)


「暇だよぉ」

「確かに暇ね」

「本当に暇!」


入学式の次の日に行われる部活紹介。

昨年は説明を聞く側だったが、今年は説明する側だ。


ただし説明をすると言うのは、相手があってのこと。

その肝心の相手が誰も来ないのだ。


「昨年、県駅伝で2位になったのに。これは予想外だよぉ」

「世間はランニングブームのはずなのにね」

紗耶と葵先輩が本当につまらなそうな顔をしている。


「いや、知ってます? あのランニングブームって、あくまでマラソンとかのロードレースのことを言ってるのであって、駅伝は関係ないんです。きつい練習をして、責任のある駅伝をやろうと言う人ってあまりいませんよ」

私が苦笑いしながら言うと、葵先輩は、くすっと笑う。


「昨年は3人もいたけどね」

それを言われると、何も言えなかった。


そもそもなぜ人が来ないのだろうか。

駅伝部のある場所が悪いと言うのも、理由のひとつかもしれない。


毎年くじで決まるらしいのだが、今年の駅伝部は体育館の一番奥。

そのさらに隅っこだった。


でも、もうひとつ思い当たる理由がある。


「葵さん! メイド服は本当に辞めてくださいって! 来る部員も来なくなります。だいたいそれは、先輩のキャラじゃないですよ」

麻子の我慢もついに限界に達したようだ。


修学旅行で何があったのかは分からないが、葵先輩はすっかりメイド服を気に入っていた。今回の部活紹介も、「これはおもてなしの心を現した」と、熱く語っていた。


「いやいや、あさちゃん。意外にこう言うのは、あおちゃん先輩っぽくていいと思うんだよぉ」

紗耶はなんだか嬉しそうに喋る。


ちなみに晴美は美術部の方に出ているため、今日は私と麻子、紗耶それに葵先輩の4人だ。


「このまま誰も来なかったらどうします? 駅伝に参加出来ませんよ」

葵先輩に何を言っても無駄と悟ったのか、麻子は急に現実的な話を始める。


それは誰もが、頭の片隅にありながら、決して言葉に出来ない話題だった。

あっさりと話題に出す辺りが実に麻子らしい。


「そうなったら晴美が走るって言ってたけど……。そもそも永野先生も危機感が無いと言うか」

私がため息交じりに喋っている時だった。


「あの……すいません。駅伝部って走るだけでいいんですか?」

目の前に1人の生徒が現れる。


「お帰りなさいませ、お嬢様! 駅伝部へようこそ」

いつもより1オクターブ高い声を出しながら、パッと椅子から立ち上がり、さらには変な決めポーズまでして、葵先輩があいさつをする。


すかさず麻子が葵先輩を叩く。


「そうですねぇ、陸上部と違って短距離、投擲はやりませんよぉ。長距離を走ってばっかりです」

紗耶の説明を聞いて、その生徒は少し安心した顔をする。


見た目がすごくおとなしそうで、まるでフランス人形のようだ。

髪型も可愛らしく、肩まで伸びたストレートに左右一本ずつ細い三つ編みを作り、ワンポイントのアクセントを効かせていた。


「あの……私、中学の時は運動部でもなかったし、そもそも運動音痴で……。でも高校に入ったら体を動かしたいなって思ってまして。脚も全然速く無いんですけど大丈夫でしょうか……」

不安そうに質問して来る彼女に、紗耶は優しくにっこりと笑ってみせた。


「まったく問題ありませんよぉ。彼女はうちで一番脚が速いですが、泳げません」

私が指を指される。


「この人が走り始めた動機は、美味しい御飯をいっぱい食べるためでぇ……」

言いながら今度は葵先輩を指差し、

「この人にいたっては、なぜ走り始めたのか、未だに謎なんですよぉ」

と笑いながら最後に麻子を指さす。


「「「ちょっと紗耶!!」」」

私達全員の声が見事にそろった。


「先輩方、面白いですね。あの……私入部します。よろしくお願いします」

彼女はそう言って私達の前で一礼する。

その一言を聞き、葵先輩がお礼を言って入部届を書いてもらう。


「那須川朋恵さんですね。分かりました。それでは部室などを簡単に説明しますね」

葵先輩の説明を聞くと、那須川朋恵は再度お礼を言って帰って行った。


「とりあえず部員確保か」

「でもぉ……。あの子大丈夫かなぁ。これから鍛えるにしても、どこまで速くなるだろう」

「それは、ゆっくり考えましょう。まずは5人揃うことが大事よ」


葵先輩の一言に紗耶も、「そうですねぇ」と納得していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ