表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/240

68区  決戦!高校駅伝!!  その6

挿絵(By みてみん)


2キロを通過すると先頭集団が5人になる。


先頭は相変わらず聖ルートリアと泉原学院が並走で引っ張っている。

城華大付属の宮本さんは、私のすぐ前を走っており、4番手だ。


なぜ宮本さんが前に出ないのかは、分からなかった。

城華大付属レベルになると、勝って当たり前。目標はあくまで全国での入賞と言うことなのだろうか。


つまりこの県駅伝も練習の一環でしかないと。


そんな私の考えが間違いだとと気付いたのは、中間点である3キロの看板が見え始めたときだった。


中間点を前に、泉原学院がすっと前に出て、単独トップにあがる。

それと同時に団子状態だった先頭集団が縦一列に変わった。


宮本さんは、その瞬間を見逃さなかった。


縦になると同時に、4番手から2番手へと位置取りを変え、泉原学院にぴったりと付いたのだ。


そこからレースは過酷さを増してくる。


縦一列になり、ペースが若干上がる。

先頭集団も4人となった。城華大付属、聖ルートリア、泉原学院、そして私だ。


他の3つは昨年の上位3チーム。それに私が挑んでいると言うわけだ。


中間点の通過が9分48秒。

やはりこの1キロのペースが上がっていた。


まだ体力的には余裕がある。

ここは無理に出る必要もないし、しっかりと我慢する場所だ。


そう言えば、昨日エントリーリストを見た限りでは、ここにいる4人のうち、私以外は3年生だった。3年生3人に挑む1年生。しかも創部1年目で初出場。


きっとテレビのアナウンサーもそんなことを言っているのではなかろうか。


テレビと言えば、母はきちんとこの駅伝を予約できたのだろうか。


今日、どうしても仕事が休めなかった父は、一週間も前から、母に録画をするように何度も念を押し、最後には母に「耳にタコが出来るくらい、聞いた。自分で操作出来ないなら黙ってなさい」と怒られていた。


私が高校で走ることを反対していた頃の父とは、まるで別人だ。


クラスの友達は、私と父の事情を聞いて「なんて身勝手な父親。そんなに反対して、今は手のひらを返したように応援して」と怒っていた。


でも、不思議と私は怒る気はなかった。

それを言った時に友達は「澤野っちは人が良すぎる」とやっぱり怒っていたが……。


理由は簡単だ。

今の環境が素晴らしいからだ。


本当に偶然だが、桂水高校で女子駅伝部に入れて良かったと心の底から思っている。


だからこそ、このメンバーで都大路を走りたい。

そのためにも、私が頑張らないといけない。


少し遠くに行っていた意識がまた戻って来る。

私は軽く深呼吸をしながらタスキを握った。


ここまで走って来た私の汗で、タスキは濡れていた。

その汗の分だけ、タスキに自分の思いが加わっている気がする。


4人が縦一列で走っているのは先ほどから変わって無い。

でも、お互いの差が少しずつ広がり始めていた。


2位を走る城華大付属宮本さんと3位の聖ルートリアの差が広がり始め、必然的に4位を走る私も一緒に宮本さんから離れつつある。


今ここで離されるわけにはいかない。

私は意を決して聖ルートリアを抜き、3位へと上がる。


そのまま宮本さんの横に並ぶ。

縦一列だった集団がまた一塊になった。そうさせたのは自分だが。


4キロを通過する時、後ろからの足音は聞こえなくなっていた。

沿道の観客が私達3人を応援してくれたのち、4秒くらいたってまた応援の声が聞こえる。


私はふと、ある日の練習を思い出す。


「湯川。さっき気になったんだが、タイムトライをやってる時に後ろを振り返るな。もちろんレース中もだぞ」

「え? なぜです?」

麻子は意味が分からないと言った顔で、永野先生を見ていた。


「後ろを振り返るのは、余裕がないと言う証拠なんだよ。追われたりする恐怖や、自分の体力に限界が近づいて来て、後ろが気になって振り返ってしまうんだ。でもこれは、後ろの相手を楽にするだけだ。『あ、こいつ余裕が無いな。頑張れば抜ける』って思われてしまう」

麻子は感心したように何度も頷きながら、永野先生の話に聞き入っていた。


「それでも後ろが気になる場合は?」

「まずは足音や呼吸が聞こえるか。聞こえるようなら、ほぼ真後ろにいる。駅伝だと観客の応援する声だな。自分への応援から次の応援までの秒差が、相手との大まかな差になる。もしもそのどちらも分からなかったら、後ろを気にすることをあきらめろ。ひたすら前を見て走るのみだ」


つまり4位に落ちた聖ルートリアとは約4秒差。

多分これからもう少し離れていくだろう。


3人のなかで順位変動が起きた。

宮本さんがついに先頭へと出たのだ。


前を行く宮本さん。その後ろに私と泉原学院が並んで付く。


やはり宮本さんは体力を残していた。

先頭に出ると少しペースを上げて、私達を引き離しにかかって来る。


もうすぐラスト1キロ地点。

そこまで無理をすることは無いと言われていたが、どう考えてもここで宮本さんを独走させるわけにはいかない。


私は少し強く腕を振り、ペースを上げて宮本さんとの差を詰める。

泉原学院はこのペースに付けなかったのか、私の横ではなく後ろに付く形となり、再び集団は縦一列になった。


もうすぐラスト1キロ地点と言うところまで来ると、急に観客が増えた。


そうか、この辺りは5区のスタート地点だ。


麻子もどこかで見てくれているのだろうか。

そう思って道路の向かい側にある中継所をちらっと見ると同時に、私を呼ぶ声が聞こえる。


「聖香! 頑張れ! あと1キロ!」

その声は道路の向かい側からでは無く、こちら側から聞こえた。


前を見ると、50m前に青いロングコートを着た麻子が立っていた。

わざわざこちら側に渡って来ていたようだ。


麻子の姿を見つけると同時に、私は手袋を外し、下投げで麻子に向かって投げる。


走りながらだったので、少しずれてしまったが、麻子は上手くキャッチする。

さすが元バスケ部だ。


そんな麻子を見て私は少しだけ微笑む。

それに応えるように、麻子が笑顔で「ファイト」と声をかけて来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ