表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/240

6区  三大欲求のうち、一つだけがすごい先輩(♀)について

挿絵(By みてみん)


駅伝部に入って最初の土曜日。

基本的に土曜日は午前中が練習時間となっている。


無事に練習も終わり、部室にみんなで戻って来る。

そう言えば私自身、このあきらかに物置にしか見えない建物を部室と呼ぶことに違和感が無くなっていた。


慣れと言うものは恐ろしい。


まぁ、中にはブルーシートが敷いてあり、その上で着替えたりしているので綺麗ではあるし、広さも12畳くらいあり、シューズを置くための棚と古いスチール製の机がある以外は何もなく、快適ではあるのだが。


「お腹すいたわね」

「自分も葵に同感」


部室に入るなり、葵先輩と久美子先輩がお腹を押さえながらだるそうに言う。

と、突然葵先輩が私達の方を見る。


「ねぇ、せっかくの土曜日だし、みんなでお昼を食べに行きましょうよ。1年生の歓迎会を兼ねて」


その一言にみんな目を輝かせる。

そうと決まれば善は急げと、全員急いで着替え、学校から一番近いファミレスへと自転車を走らせる。


店内に入り、何を食べようかと吟味していると、葵先輩がボタンを押す。

すぐにウエイトレスがやって来て、葵先輩がオーダーする。


「えっと……オムライスカレー、たらこスパ、和風ハンバーグ単品、から揚げバスケット、野菜炒め盛り合わせ、チーズドリア、イタリアンピザ、卵焼き、すべてひとつずつでお願いします」

ウエイトレスが注文を繰り返し、厨房へとオーダーを伝えに行く。


「葵さんよく来るんですか? あたし、何にしようか決められなくて困ってました」

「同じく。まずは今の注文分を食べきって、まだ入るようなら追加しようかな」


麻子と晴美がそう言いながらメニューを閉じる。


「それ、勘違い。あ、1年は初めてか」

久美子先輩は自分で言って1人で納得していた。


「今頼んだ注文、みんなの分じゃないわよ。あれ全部うちの昼御飯だから」


その一言に私達1年生4人は目を丸くする。


そして次々に注文の品がやって来て、すごい勢いで葵先輩の体に収まっていくのを目の当たりにし、私達は自分の御飯を食べるのも忘れてあぜんと見ていた。


「ちょっとありえないかな」

「これはすごいかもぉ」

「葵先輩、それだけ食べて太らないんですか」


私が恐る恐る聞いてみると、葵先輩は「うん。だって毎日部活で走ってるし」と何食わぬ顔で答える。


いや。あきらかに摂取カロリーが消費カロリーを上回っている気がするのだが……。

私の計算違いなのだろうか。


「まぁ、うちが食べるの大好きなのは事実だけどね。そもそも中学で陸上部に入ったのも、毎日美味しい御飯をいっぱい食べたいからだし」


なるほど、走り始めるきっかけは人それぞれなのか。

それにしても、葵先輩がこんなにも大食いだったとは。

私より少しだけ背が高く、まさにランナーと呼べるような体型からは想像も出来ない。


なんだか先輩の意外な一面を見た気がした。



先輩達との食事会から三週間近く経ち、私達1年生もジョグと流しと筋トレだけの練習から、少しずつ先輩達とポイント練習も行うようになって来た。


「3人とも引退してからあまり走ってないようだしな。まずは体力作りからな」


永野先生はそう言って、1年生だけ最初のうちは別メニューを組んでいた。


この一ヶ月で気付いたのは、永野先生はあきらかに陸上経験者だろうと言うことだ。

私達に言うアドバイスなどは非常に的確で、何度も感心することがあった。


部活が終了し、着替えている最中に、それについて先輩達に聞いてみたのだが2人とも何も知らなかった。


「先輩達も知らないんですね。明日、永野先生に直接聞いてみましょうか」

「あら聖香。4月ボケかしら? 明日から学校も部活も三連休よ」


葵先輩の一言に私はハッとする。

そう言えば4月も淡々と過ぎて行き、気が付けば明日から5月の大型連休。


「高校生になってもう一ヶ月かぁ。あっと言う間なんだよぉ」

私も紗耶と同じ気持ちだ。

入学してすぐはドタバタして目まぐるしかったが、それを通り過ぎると日々充実していて、あっと言う間に時間が過ぎたように感じる。


「油断するとすぐに大学受験かな」

「部活的にも駅伝がすぐ来そう。もっと日々、努力しないと」

麻子がそう言ってため息をつく。

私から見ればかなり頑張っていると思うのだが。


「いや、十分やってる。すでに自分より速い」

久美子先輩が言っているのは、先日行った3000mのことだろう。


「そうだよぉ。高校から陸上を始めたのってあさちゃんだけなのに、もう部の3番手じゃない。わたしも先日負けちゃったんだよぉ」

紗耶が悔しそうに不満を口にする。


「紗耶、唇を尖らせて、まるでアヒルのようかな」

晴美の一言に全員が頷き、大笑いをする。

一瞬で部室の中が、夏の日差しを浴びたかのように明るくなる。


私は駅伝部のこの雰囲気がすごく好きだった。

このメンバーで都大路を走れたら最高だろう。

そう考えると、今まで以上に練習をしようと言う気持ちが自然と湧いて来る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ