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53区  桂水高校女子駅伝部 1年生初陣!  その9

挿絵(By みてみん)


お風呂から上がり、ミーティングをして消灯まで自由時間となる。


私と晴美でテレビを見ていたのだが、CM中にふと葵先輩を見ると、なんと勉強をしていた。


さすが駅伝部唯一の理数科クラス。


「こんな時でも勉強なんですか? つい先日定期テストが終わったばっかりなのに」

「まぁ、来年は受験生だしね」


私が聞くと、葵先輩は来年の受験をすでに見据えて勉強していることを告げる。さすがだ。


晴美が「どこの大学を受けるんですか?」と聞くと、「まだ内緒。うちの中では結構前から決まってるけどね」と笑顔でごまかされた。


大会2日目は朝からバタバタしていた。

朝食を6時に食べ、7時には旅館を出発する。


葵先輩と麻子が出場する1500mの予選が9時からあるためだ。


「さぁ、今度は麻子のデビュー戦かな」

私の横に座っている晴美が、プログラムを見ながら、ちょっとだけ嬉しそうに言う。


大会中、晴美はマネージャーとしてフル活動をしており、私達のラップや記録を全て計測している。


マネージャーとしての成長ぶりに、永野先生も随分と上機嫌だった。


「あさちゃんも決勝に行けるかなぁ。あおちゃん先輩はあっさりと行けたけどぉ」


紗耶の言う通り、1組目を走った葵先輩は4着取りの3着目で問題なく決勝進出。ちなみに1位は貴島由香だった。あと、2組目の1着も城華大付属の選手。2年生の岡崎祐と言う人だ。


そして今から、麻子の出場する最終組、3組目だ。


「あれ……城華大付属の三輪さくらって人、棄権だ」

晴美がオーロラビジョンを見ながらプログラムに線を引く。


それから少しして、3組目のスタートを告げるピストルが鳴る。


麻子のタイムを計ろうと、自分の腕時計を押し、動いていることを確認するために画面を見た瞬間だった。


「あ! 麻子が扱けた!」

晴美が極めて冷静に、最悪の事実を告げる。


トラックに眼をやると、スタートラインからわずかに3mの所。


華麗に飛び込んだ競泳選手のように、両手を前に出して寝そべる無残な麻子の姿があった。


その姿を見た瞬間、私は気付く。


「そう言えば麻子って、こんな大人数でスタートするの初めてよね」

それを聞いて、紗耶と久美子先輩どころか、永野先生までもが「あぁ……」と納得する始末。


私の一言が聞こえていたのだろうか。「うるさいわね。ちょっと油断したのよ」とでも言うように、麻子は立ち上がり走り出す。


だが、一つ前の選手ともすでに15m程差が付いていた。


先頭が400mを通過する。


「前の2組に比べて、通過のラップが3秒も遅い。この組からプラスを期待するのは難しいかな」

晴美がプログラムに書き込んでいる各組のラップを見ながら言う。1500mは3組4着プラス2で行われていた。つまり麻子が決勝に残るには、着順で4着に入るしかないようだ。


でも逆に考えれば、この組が遅いペースで展開してるのは、麻子にとっては有利なのかもしれない。


追い付ける可能性があると言うことだ。


「澤野はちょっと別として。うちの駅伝部で一番才能があるのは、間違いなく湯川だろうな」


レースを見ながら永野先生がしみじみと言う。

なぜ私が例外なのかはよく分からなかったが、先生が言うことは正しいと感じていた。


先頭が800mを通過する時、麻子は先頭集団に追いついてしまったのだ。


先頭集団は麻子を含め6人となる。


「後必要なのは経験だな。あきらかに湯川、先頭に出ようとしてるだろ。予選は4着までは無条件で決勝に行けるんだから、ここは落ち着いて行くべきなんだがな」


永野先生の言う通り、麻子は先頭集団に追いついてもペースを緩めることなく、どんどんと前へと出て行く。


ラスト1周の鐘が鳴ると同時に麻子は先頭へと出る。

先頭に出ると、そのままの勢いで後続を引き離しにかかる。


それが合図となり、先頭集団がばらばらになっていく。


「すごいわね湯川さん。それにしても、駅伝部のみんなってすごく速いのね。これだけ才能がある人が偶然集まるって、すごいじゃない」


「いや、由香里。そこは私の指導力を褒めてくれる所じゃないの? 才能もあるだろうけど、それを伸ばしたすごい指導者がいるとは考えないわけ?」


永野先生はちょっと悔しそうに由香里さんの顔を見る。

「まったく思わないわ」と冗談顔で由香里さんは笑っていた。


残り200mで、一度麻子が先頭から2位へと落ちるが、すぐに先頭を奪い返す。


結局、そのまま麻子は先頭でゴールした。


しかもスタートで扱け、大きなロスがあったにも関わらず、葵先輩よりもわずかに0.2秒遅いだけだった。


ただ、体力は使い果たしたようで、ゴールした後、しばらくは動けないままでいた。


私達の所に帰って来た葵先輩と麻子にお疲れ様を言い、私はアップへと出かける。800mの準決勝のためだ。


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