42区 盛り上がれ文化祭!! その4
「おっと、これは速い。水着の子がダントツの一番で帰ってきました。そして、選ぶのは○のようです」
ステージに帰って来ると解説が入り、ちょっと恥ずかしい思いをしてしまった。ちなみに私が〇を選んだのは向かって奥側にあったからだ。一番で帰って来て、手前の×側にいると後から来る人達の邪魔になる気がしたのだ。
「さぁ、続々とみんな帰って来ます。残り3秒、2、1。タイムアップ」
やはり今回も何人か間に合わなかったようだ。
ちなみに私のいる○側に7人。×側に10人程人がいる。
私以外の生徒はみな息も絶え絶えになっており、私だけが平然と立っていた。
「それでは正解です。正解は……○です」
当たった生徒も外れた生徒も呼吸を整える方が先のようで、歓喜の声も悲哀の声も上がらなかった。見るに見かねた司会者が、唯一元気そうにしている私にマイクを向けて来る。
「どうですか、ここまで勝ち残った感想は?」
「あ、はい。運が良かったです」
「そう言えばあなた、ダントツの一番で帰って来ましたね。普段から部活で鍛えているのでしょうか。もし良ければ、お名前と部活を」
「えっと……駅伝部所属、1年6組澤野聖香です」
私が言い終わるのと同時だった。
中庭の隅から「聖香!!」と声が上がる。
「お、駅伝部の皆さんが応援してくれています。ところで、澤野さん。なぜ駅伝部なのに水着なんでしょうか。当初、ミス桂水も水着審査を入れる予定でしたが、今朝急遽中止になったのに」
その発言に私は思わず、模擬店の方を見る。
テーブル前に出ていた葵先輩がものすごい急いで逃げた。
葵先輩、知っていたのに黙っていたに違いない。
後で追及しなければ。そう思いつつ、皮肉たっぷりに「部活の先輩に騙されました」と言っておいた。
「さて、ここまで順調に進んできたミス桂水。当初52名いた参加者もあっと言う間に7名。それでは次のステージです。ここまで皆さんの知力と体力を競っていただきました。次は運を競ってもらいます」
あくまでもさっきの○×問題は知力だと豪語する司会者。
「と言うわけで、今からみなさんにクジを引いてもらいます。7名中当たりはわずかに2名。そう、その2名が決勝進出者です」
司会者が説明し終えると、係りの人が7つの封筒を持って来る。
外からでは中が分からないようになっていた。
私を含め7人がそれぞれ思い思いに封筒を取る。
私は一番左端の封筒を取った。
「それではみなさん。取りましたね。中にある紙に決勝進出と書かれていたら当たりです。当たった人は紙を高々と上げてください」
さっそく封筒を開けてみる。
7人中当たるのは2人。
確率的には30パーセントも無く、決して高い確率では無いのだが……。
「お、先ほど一番で戻って来た澤野さんが当たりを引いたようです。そして、もう1人は生徒会長だ」
言われて初めて、生徒会長がこのミス桂水に出ていたことに気付いた。
「それでは、知力・体力・時の運をすべて兼ね備え、決勝に残った2名に改めて自己紹介をしてもらいましょう」
司会者がマイクを私に近付ける。
「駅伝部所属、1年6組澤野聖香です」
「生徒会所属、生徒会長。3年3組、城亜紀子です」
私達の自己紹介に周りから拍手と歓喜の声が上がる。
「澤野さん、こっち向いて」と男子生徒の声まで聞こえて来るありさまだ。
「若いっていいわね」
私の横で生徒会長がクスッと笑いながらつぶやく。
なんだかとっても恥ずかしいのだが。
「さぁ、いよいよミス桂水も決勝戦。ここで勝てば、優勝です。優勝くらい自分の力で勝ち取って貰いましょう。と言うわけで、決勝戦の種目はこれです」
司会者が元気よく手を伸ばす。
すると、1人の男子生徒が机をステージ中央まで運び、別の女子生徒がそこへあるおもちゃを置く。
「みなさん。説明は不要でしょう。黒ひげ危機一髪です。ちなみに、今回は黒ひげくんを飛び出させた方を勝ちとします」
自分で勝ち取って貰うと言ってたわりには、今回も思いっきり運頼りなのではないだろうか。
「いいわ。あなたからどうぞ」
生徒会長の城さんが私に先行を譲ってくれる。
「おっと、生徒会長の余裕か。先攻は駅伝部の澤野さんのようです」
お言葉に甘えて私は先に剣を指すことにした。
えいっと目の前にあった穴に剣を入れる。
それと同時に、ポンッと勢いよく黒ひげくんが飛び出した。
その音に反比例するかのように、会場が静寂に包まれる。
「え……っと。なんと、一発で勝負がついてしまいました。生徒会長、なにも出来ず。これはまさに文句無し! 今年のミス桂水は駅伝部所属、1年6組の澤野聖香さんです。みなさん! 拍手!」
会場中から盛大な拍手が沸き起こる。
なんと言うか、これで良いのだろうか。
ほとんど運のみで勝ち上がってしまった。
そもそも、一番最初の○×で終わってもいいやと思っていたくらいなのに。まさに無欲の勝利といったところか。




