表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/240

35区  永野綾子についての物語  その1

挿絵(By みてみん)


「それじゃぁ再生するよ。準備はいいかな」

晴美が確認を取り、再生のスイッチを押す。


美術準備室に置いてあったテレビの周りに私達全員が椅子を持って来て、テレビを中心に半円になるような感じで座っている。


隣の棟が日よけになっているせいか、真夏だと言うのに準備室は涼しかった。


「あたし、綾子お姉ちゃんが走っているの初めて見ます。そもそもこの駅伝の時、生まれてませんから」

恵那ちゃんが脚をバタバタさせながら興奮気味に語る。


「さぁ、今年も全国高校駅伝競走大会の模様を、ここ西京極総合運動公園陸上競技場より生放送でお送りいたします」

アナウンスの声が流れ始め、スタート・ゴールとなる競技場が映し出される。


「それでは今年の有力校のオーダーを見て行きましょう。まずは1区にインターハイ3000mチャンピョンの水上を起用して来た牧野原高校。1区に水上、2区吉田、3区城、4区竹本、5区小林のオーダーです」


1区の水上と言うのは、世界選手権でマラソンを走った水上選手のことだろう。その後もいくつかの学校が紹介される。


「そして、昨年3位、今年は優勝を狙うと言っていた、山口代表、城華大付属高校。なんとインターハイ2位の永野を1区ではなくアンカーで起用して来ました。1区を走るのは昨年1年生ながら2区で区間賞を取った橋川。この選手も十分に力があります」


そう言えば、インターハイで上位だった永野先生を1区に起用しないと言うのは、どう言うことなのだろうか。


「駅伝って1区が一番早い人じゃないの」

麻子も似たようなことを考えていたようだが、若干ピントがずれていた。


「高校駅伝はわりとそう。でもいつもそうじゃない。箱根は花の2区」

久美子先輩の一言に麻子はますます考え込む。


「つまり、駅伝によって1区にエースを持って来る場合と、別にエース区間がある場合があるのよ。それにバスケはどうか分からないけど、駅伝は一番早い人を絶対にその区間に入れないといけないって決まりもないし。すべて作戦しだいってこと。この年の城華大付属は後半で追い上げるオーダーのようね」


私が説明すると、ようやく麻子は納得したようだ。


私達が喋っている間に、駅伝の方は1区の選手がスタートラインに並び、スタートを待っていた。そして、ピストルの音と同時に各都道府県から1チーム、計47人のランナーが一斉に飛び出して行く。


レースが進み3区に入った時点で、城華大付属高校がなぜ永野先生をアンカーに持って来たのかがはっきりと分かった。この年の城華大付属は層がかなり厚いのだ。


1区は水上選手が2位に12秒差で圧勝。

しかし、どうも2区以降がそこまで強くないらしく、2区の中盤で3位に後退。


逆に城華大付属は1区こそ5位だったものの、2区で3位にあがり、3区で2位へと順位を押し上げていた。


「さあ、第3中継所に2位でやって来たのは山口県代表、城華大付属。トップとの差はわずかに4秒。十分に優勝を狙える位置にいます。今、3区江村から4区1年生の石川にタスキリレー」


永野先生がアンカーにいる時点でこのタイム差なら余裕で優勝だろう。

そう考えながらも、私はさっきから何かが引っ掛かっていた。


でもそれが何かは分からない。

必死に、思い出そうとするが、そう思えば思うほど、深みにはまって行っている気がする。


そんな私の思いとは逆に、レースはあっさりと先頭が入れ替わっていた。


「スタートしてわずか200mで先頭が入れ替わります。城華大付属がついに先頭に出た。そのまま並ぶこと無く、ぐいぐいと差を広げて行きます」


城華大付属が先頭に立ち、そのまま快走を続け、画面左上の距離表示がラスト600mになった時だった。


私の中で引っ掛かっていたものが、パッと浮かんできた。


「ねぇ、おかしいと思わない」

私の突然の一言に、全員が一斉にこっちを見る。


1区がスタートして以来、誰一人喋ること無く見入っていたせいもあり、ものすごく注目を浴びている気がした。


「なにがおかしいのかな。聖香」

まったく意味が分からないと言う顔で晴美が私に聞いて来る。


「ほら、合宿の打ち上げの時に由香里さんが言った言葉。永野先生は9位でタスキを貰ったって言ってたわよね」

「それは由香里さんの記憶違いじゃないかなぁ。現に今1位で走ってるんだよぉ」


紗耶は、現実をしっかり見ようよと言わんばかりに、テレビを指差す。

麻子と久美子先輩、晴美もそれに頷く。


ただ、葵先輩だけは、

「でも、5位と6位とかならまだしも、1位と9位を間違うかしら」

と首を傾げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ