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32区  私、泳げませんが何か?

挿絵(By みてみん)


合宿中日の午後。

私はプールサイドに座り、膝から下を水に浸けながらため息をついていた。


眼の前では、他の駅伝部員がまさに水を得た魚のようにプールではしゃいでいる。それを見ていると、彼女たちは水中生物なのかもしれないと本気で思ってしまう。


どう言う風の吹き回しか、合宿練習メニューには最初からこのプールの時間が割り振られていた。


それもわざわざ永野先生が水泳部の顧問に頼んで、この時間を空けてもらったらしい。


「聖香、早くおいでよ」

私が泳げないどころか、水に浮くことすら出来ないことを知っているはずの晴美が、笑顔で手を振って来る。


この夏の暑さに冷たいプールのせいで、晴美もテンションが上がりまくっているのだろう。


一応私も、学校指定の水着を着ているが、とても入る気にはなれなかった。


中学校までのプールだとふちが一段高くなっており、そこに座れば、お風呂に入るように肩まで浸かれたのだが、高校のプールにはそれが無く、泳げず浮けない私は、立って入るのも面倒くさく思えてしまう。


「なんだ? 澤野は入らないのか」

「入りたくても泳げないし浮けないんです」

「別に立ってれば良いじゃないか」


私の真後ろから声をかけて来た永野先生に、振り返りもせすに返事をしたが、なんだか悔しくなり、何か言ってやろうと先生を見てビックリした。


ライトグリーンのブラとパレオに着替えた先生が、私の後ろに立っていたのだ。


「あの……。まさかとは思いますが。入る気ですか?」

「当たり前だろ。そのためにわざわざ水泳部顧問の中島先生にお願いしたんだ。澤野。民間のプールの入場料って結構バカに出来ない値段を取られるんだぞ。それをタダで利用できるチャンスを生かさない手はないだろ」


私はあきれてなにも言えなかった。つまり、永野先生がプールに入りたいがために、この予定は組まれていたのだ。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、永野先生は軽く体操をして、あっと言う間にプールに入ってしまった。


「プール最高!」


その声でようやく他の部員は永野先生に気付いたようだ。


一瞬戸惑いながらも、すぐにみんな笑顔になる。なんだか、この状況だと入らない自分が悪いような空気さえあるのだが。


「せいちゃん。早くおいでよぉ」

「そうだぞ、澤野。アイシングと思って」

「聖香。思い出はみんなで作った方が楽しいわよ」


まったく。みんなこう言う時だけ積極的と言うか、団結心が強いと言うか。


これ以上は断り切れない雰囲気だ。

私はあきらめてしぶしぶプールに入る。


身長162センチの私ですら、脚がつくとギリギリ肩が水面に出るくらいに深さがあった。


私より背の低い麻子と紗耶、晴美はかなりギリギリだ。


一番小さい紗耶にいたっては、脚を付けると水面からは口元から上しか出ていない。


まぁ、そんなことお構いなしに全員はしゃいでいる。

嫌々入ったプールだったが、確かに水は冷たくて気持ちよかった。


「さぁ、遊ぶわよ」

葵先輩が私の手を引っ張って行くが、泳げない私は一瞬溺れそうになる。


それでも永野先生を含め、7人全員が時間も忘れてプールで遊び、この日の午後は終了となった。


ちなみに私達の誰よりも永野先生が楽しんでいた。

私は遊ぶと言うより、浸かっていたと言う表現が正しかった……。




「よし、全員着替えを入れたな? それじゃ出発だ」

助手席に晴美を乗せた愛車ラポンのアクセルを思いっきり踏んで、永野先生が先導を開始する。


合宿最終日、最後のロード練習。学校をスタートし、大回りをして桂水海水浴場までのロードジョグだ。


スタートしたのは午後4時半。

まだまだ暑さが厳しいが、最後の練習と言うこともありみんな元気だ。


それに海水浴場に行けば、永野先生の親友夫婦が経営している海の家でバーべキューを振舞ってくれるらしい。


そう言われて元気にならないわけがない。はずだった……。


「ちょっと! 海に向かってるはずなのに何で山を登ってるのよ!」

麻子が私の後ろから悲痛な叫び声をあげる。


実は「少し回り道をするから車に付いてこい」とだけ言われ、誰もコースを知らされていなかったのだ。


途中で晴美と永野先生が給水をしてくれるが、コースに関してだけは絶対に教えてくれない。


大きな分かれ道の近くで車を停めており、私達が来ると曲がって先に進む。私達はそれについて行くだけだ。いくら地元でもコースが分からないと精神的にかなり堪える。


それでも2時間半走ってやっと海に到着した。


「やっと着いた!」

「長すぎ」


珍しく大声で叫ぶ葵先輩と、それとは対照的に相変わらずクールと言うか無関心に近いような久美子先輩。その横で麻子と紗耶は走り疲れてぐったりしていた。


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