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28区  顧問について 知ってみよう。聞いてみよう。

挿絵(By みてみん)


6月中旬の土曜日。

今日は午前9時から部活開始となっている。


自転車置き場に自転車を止め部室に行くと、鍵がかかっており、私と晴美が一番に来たことに気付く。


「これはちょっと珍しいかな」

晴美の言う通りだった。

大抵は葵先輩か紗耶が一番に来てるのだが。


休みの日は一番に来た人が職員室に行き、部室の鍵を借りて来る決まりになっている。


晴美と2人で職員室へと向かう。

良く考えてみれば、2人そろって職員室に行くのは入部届を出して以来初めてだ。


「失礼します。おはようございます」

職員室に入るが、中には誰もいなかった。

いや、永野先生までいないと言うのはどう言うことだろう。


永野先生の机まで行ってみるとパソコンは起動しており、スクリーンセイバーがせわしく動いていた。学校には来ているようだ。生物・化学準備室だろうか。あっちまで行くのは面倒くさいのだが……。


そんなことを思っていると、隣の会議室からなにやら音が聞こえる。


「永野先生?」

会議室のドアが開いていたので、そこから恐る恐る覗いてみる。


「さぁ、この展開をどう見ますか? 里村さん」


「そうですねぇ。今回の大会は後半に小さなアップダウンがありますからね。前半いかに力を使わないかが大切だと思います。それを考えると、水上さんは非常にいい位置にいますよ。さすがベテラン。今までの経験があるからこそ、こう言ったレース展開が自然にできるんだと思います」


「なるほど。水上は現在33歳。今回の日本選手団の中では女性最年長。所属するもみじ化学では主将として、昨年の実業団駅伝優勝にも大きく貢献しております。本当に経験は豊富なものがあります」


そう言えば今日は世界陸上の女子マラソンがある日だ。

私達が立っている位置から、ちょうどテレビの画面が見える。


その画面の前で、永野先生が食い入るようにテレビを見ていた。


いや、正確には後ろ姿しか見えないのだが、それでも集中して見ているのが分かるくらいだ。


「この選手、永野先生と同じ歳なんですね」

晴美は永野先生に向かって言ったつもりなのだろうが、先生はまったく返事をしない。


晴美が困ったような顔をして私を見る。いや、私にどうしろと。


「永野先生。部室の鍵持って行きますよ。先生!」

まったく反応が無い。もしかして寝てるのか。


会議室に入り、先生の横から顔を覗き込んでみる。


「うわ。な、なによ」

永野先生がその場で飛び上がりそうなくらいビックリする。

あまりの驚きに、変な声まで上げていた。


「何度も呼んだんですよ。てか、ものすごく真剣にみてましたね。やっぱり陸上好きなんですか」


私はふと、何か先生の過去が分かるかもと期待を抱く。

でも、返って来たのはごくありきたりの答えだった。


「駅伝部の顧問を苦と思わないくらいには好きだぞ。あ、もっと言うと駅伝部を一から作ってしまうくらいには好きだな」


つまりは、相当好きだと言うことなんだろうな。


気になっていた過去は聞けなかったが、それでも、永野先生の気持ちが聞けてすこし嬉しい気分になった。

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