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26区  使い古されたミステリーとその再利用  その3

挿絵(By みてみん)


「面白いじゃない。ちょうど練習が休みになって体力が余ってるし」

麻子が、膝までのスカートと衣替えで半袖のカッターになったばかりの制服、ローファーの姿のまま、その場で体操を始める。


「ちょっと、麻子。まさかとは思うのだけど」

「ええ。任してください葵さん。あたしが走って追いかけますから。後でまた連絡します。近ければ歩いて来れば良いし、ダメならタクシーでも良いですよ」


それだけ言うと、麻子は携帯と財布だけをポケットに入れて、颯爽と自転車を漕ぎ出した紗耶を追いかけて行ってしまった。


「どうします? コンビニで時間潰しますか?」

自転車置き場と反対側のコンビニを見ながら、私はため息をつく。

まったく麻子と来たら積極的と言うか無鉄砲と言うか。


コンビニに行くことに誰も反対はしなかった。

誰と無く歩き出すのとほぼ同時に携帯が鳴る。麻子からだ。


「あのさぁ。紗耶の家に着いたよ。駅から400mくらいしか離れてなかった」

麻子自身、何が起きてるのか理解していない感じだ。

正直、私達も意味が分からない。


「別に家から駅までは徒歩でも良いんじゃないかな」

晴美の一言が全てを物語っている気がした。


とにかく、コンビニに行くのを辞め、回れ右をして、麻子が走って行った方角へと歩き出す。麻子も私達を迎えに来てくれていた。


麻子と合流して、メイン通りから細い道に曲がる。

そこで麻子の携帯が鳴る。


「紗耶からメールが来た」

みんなが一斉に麻子の顔を見る。


「えっと……『ごめんねぇ。さっきまでずっと寝てたんだよぉ。朝はあまりにきつくてみんなに休むって連絡出来なかったよぉ。学校にだけは連絡したんだけど。明日はきちんと行くよ』だそうです」


全員が顔を見合わせる。

今日、紗耶は学校を休んだと言っているのだ。

じゃぁ、私達が部室で見て、今の今まで尾行していたのはいったい誰なのか。


なにか思うことがあったのか、葵先輩が携帯を取り出す。


「綾子先生に確認してみる」

すぐに永野先生は出たようだ。


葵先輩は今の状況を説明し、いくつか質問をしていた。

電話を切るとため息をつく。


「紗耶の担任に確認したら、やっぱり今日は欠席の電話は来てないって。それから紗耶、やっぱり今日はかなりおかしかったらしいわね。職員室でも話題になってたみたい。朝、自分の席が分からなかったり、移動教室の場所が分からなかったり、でも授業内容はきちんと理解してたみたい。それから、普段仲が良いクラスの友達と会話をしない。でも、紗耶と同じ中学から来た子とは普段以上によく喋ったりしてたんだって」


もうまったく状況が理解できなかった。

ひょっとして人間関係でなにかあったのだろうか。

いや、それなら麻子に送って来たメールの説明がつかない。


目の前にある難問に誰も答えを出せないでいる。


「もう、本人に聞くのが一番」

久美子先輩の一言が一番の近道だと私は思った。


麻子の案内で辿り着いた紗耶の家。

黒い屋根に白い壁、大きな窓にベランダ。見

た目はどこにでもある、ごくありふれた2階建ての建物だった。


ただ、大きさは普通の家よりもあきらかに大きい。

晴美と麻子が、「あたしの家より大きい」「私の家よりもかな」と、口を大きく開けて家を見上げていた。


みんなが『藤木』と書かれた表札の家の前で、お互いの顔を見て頷く。

それが家を訪ねてみると言う合図となった。


麻子が先頭を切って玄関まで行き、チャイムを押す。

中から声がして玄関が開き、紗耶が出て来た。

部室で見た通り、普段とは逆に前髪の右側をピンで留めている。


ただ、服は制服からTシャツとハーフパンツと言うラフな格好に着替えていた。


誰もが次の言葉が見つからないのか、沈黙が辺りを支配する。


その間沈黙は、意外な形で破られた。

奥から声がして、また1人誰かが玄関先まで出て来たのだ。


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