25区 使い古されたミステリーとその再利用 その2
徒歩だと駅前の商店街やショッピングセンターに立ち寄るかも、と言う不安もあったが紗耶はまっすぐに駅へと向かっていたらしく、あっさりと見つかった。
紗耶になんて聞いてみるかを晴美と考えていると、葵先輩がとんでも無いことを思いつく。
「このまま声をかけずに尾行してみましょうか」
葵先輩の意見にみんな驚きを隠せない。
「葵の悪い癖がでた。好奇心旺盛すぎ」
久美子先輩が半ばあきらめ気味にため息を漏らす。
自転車で一定の距離を保ちながら、紗耶を尾行する私達。
これを尾行というのかと言われるとかなり微妙なところではある。
はたから見ると、放課後に喋りながらだらだらと帰宅している高校生にしか見えなくもない。
でも、考えようによっては、テレビでよく見るような電柱の陰に隠れながら尾行をするより、よっぽど良いかもしれない。
その時、先を歩く紗耶が携帯をカバンから取り出す。
「そうだ。紗耶の携帯に電話してみようか。どんな反応をするのか気にならない?」
麻子の顔は、まるでいたずらをする子供のような笑顔だった。
「まぁ、多少は紗耶と距離もあるし大丈夫とは思うけど?」
葵先輩が喋り終わると同時に、麻子は電話をかけていた。
ここで私達は信じられない光景を目の当たりにする。
確かに麻子が電話をかけているのだが、紗耶は普通に携帯を操作し続けていた。
「ネット中は繋がらないんじゃない?」
「いえ、葵さん。紗耶の携帯はネット中でも着信を取れるんですよ。一昨日、その話をしたばかりです。それに呼び出し音は鳴ってます」
これにはみな首を傾げるしかなかった。
麻子の携帯の履歴をみても確かに紗耶に発信している。
考えても答えはでないし、そうこうしているうちに、紗耶は駅に着いてしまった。
駅の駐輪場に自転車を止めて、改札口へと急ぐ。
ちょうど紗耶が券売機で切符を買い、改札口で駅員に切符を見せていた。
「しまった。紗耶がどこまでの切符を買ったかが分からないわ」
「大丈夫ですよ。葵さん。左から2番目のボタンを押しているのを見ました」
葵先輩が戸惑うも麻子がフォローする。
なんだか刑事か探偵にでもなった気がして来た。
私達も4つある券売機に別れて向かい同じ金額分の切符を購入する。
「てか、ちょっと変かな。なんで切符買うんだろう紗耶」
「いや、家に帰るためでしょ? 別に普通なんじゃない?」
私は晴美の言っていることが理解で出来なかった。
別に紗耶がとった行動に違和感はないと思ったのだが……。
でも、久美子先輩があることに気付いた。
「普通、電車通は定期」
それを聞いて「あっ!」と思わず声を上げてしまう。
言われてみれば確かにそうだ。
毎日切符を買うはずはない。
定期の方が金額的にみても安いはずだ。
考えられるのは、今日は定期を持って無いと言うことだ。
では何で持って無いのか? さすがにそこまでは分からなかった。
それが分かったら、多分今日の違和感もすべて解決出来ている気がする。
「いた。ホームの場所はいちおう紗耶の家がある方角か」
改札口を通り、麻子がすぐに紗耶を見つける。
幸いにも桂水高校に電車で通ってる生徒も多数いるため、私達がホームにいても違和感はない。
現に紗耶を含めた駅伝部のメンバー以外にも、10人くらいは桂水高校の生徒がいた。
騒いで紗耶に気付かれても困るので私達は大人しく電車を待つ。
10分も待つと電車が来る。
30分に一本しか電車が来ないので、これでも割と早く来た方だ。
4両編成の電車の3両目に紗耶が乗り込む。
買った切符からして、降りるのは紗耶の実家がある桜庭駅だろうと判断したのと、変に同じ車両に乗って気付かれてもと思い、私達は2両目に乗る。
「良く考えたら電車って久々に乗ったかな」
「自分もそう」
「言われてみればそうね」
晴美の一言に先輩方も、そう言えばと言う表情になる。
逆に私は大型連休時に熊本まで行ったので、あまりそんな感覚は無かった。ただ、紗耶の実家方面に向かうのは確かに久々の気がする。
たった2駅分と言うこともあり、なにごとも無く桜庭駅に到着する。
隣の車両をみると紗耶が扉の前にいるのを確認出来た。
やっぱりここで降りるようだ。
ちょうど紗耶の降りる扉の前に出口に繋がる階段があるのもラッキーだった。顔を見られること無く尾行が出来る。
電車が止まり、扉が開くと乗客が一斉に降りる。
紗耶は真っ直ぐに階段を登って行く。
私達も見失わないように後を付いて行く。
改札口を通り駅から出て、みんなが唖然とする。
なんと紗耶がすぐ横にある駐輪場から自転車を取り出していた。




