235区 決戦!最後の高校駅伝!!その14
後、200mほど走れば競技場と言うこともあり、沿道には多くの人がいた。
「桂水高校頑張れ!」
「いいぞ、そのまま逃げ切れ!」
沿道の声は、間違いなく私に力を与えてくれている。
なにより、自分が走っている時に桂水高校と呼ばれるのが妙に嬉しい。
桂水高校に進学することは、自分の中でかなり不本意なことだった。
合格発表で自分の番号を見つけた時も喜びなんて無かった。
入学式の日に晴美と一緒に学校へ向かっていても、夢も希望も感じていなかった。
でも今は違う。
たくさんの仲間に出会えたし、楽しいこともたくさんあった。
悔しい思いもたくさんしたけど、それすらも良い思い出だ。
今は桂水高校へ来て本当に良かったと思う。
だからこそ、この桂水高校で、この女子駅伝部で都大路を走りたいのだ。
その夢が後500mで叶う。
競技場のスタンド下を潜り、私はトラックの中へと入る。100mのスタート地点へと出て来る。
ここから100m走り、トラックを1周すればゴールだ。
トラックの真近くに紘子が立っていた。
私と眼があった瞬間、紘子が大声で叫んで来る。
「聖香さん! すぐ後ろに城華大付属が来てます! 油断しないで!」
私自身のペースが落ちたのか。
それともえいりんがどこかでスパートしたのか。
原因は分からないし、そんなものはいらないと思った。
事実として、えいりんに再度追いつかれた。ただ、それだけだ。
「まったく。楽をさせてくれないんだから。まぁ、だからこそ、えいりんのことをライバルと呼べるのかな」
心の中で考えながら、えらく余裕を持っている自分に失笑してしまう。
後ろからは足音よりも先に、うるさいくらいの呼吸音が聞こえて来た。
私だって前へと進むたびに「ぜいぜい」言っているのに、それでも聞こえて来るあたり、えいりんも相当追い込んでいるようだ。
ラスト400m。
残りトラック1周となったところで、再び私とえいりんは並ぶ形となった。
えいりんは追い付いた勢いで抜かそうと考えていたのだろう。
そのまま私の前へと出ようとする。
だが、私だって簡単に抜かれるわけにはいかない。
並ばれると同時に、えいりんのペースに合わせて私はスピードを上げた。
スピードを上げると同時に、背中と腰に電気が走ったような気がした。
脚だけでなく体中が悲鳴を上げている。
お互い一歩も引かないまま100m走り、再び直線に出る。
今のカーブは私がインを走り、えいりんがアウトコースだった。
でも、次のカーブはどうだろう。
またもや同じ位置取りだと、えいりんにとってはカーブの膨らみ分だけ不利だ。
実際は大した差は無いのかも知れない。
でも今の私達には、ほんの僅かな差が命取りになる。
もしかしたら、えいりんはこの直線で動いて来るかもしれない。
一瞬たりとも油断は出来ない。
自分の呼吸音がかき消されるくらいに、えいりんは「はぁはぁ」言いながら私の横に並んでいる。
直線も後20mで終わると言う時に、冷たい秋風が私達を通り抜けて行く。
冷たい風に当たり、冷静になった私の頭の中である考えが浮かぶ。
これだけ並走していても、一切えいりんは仕掛けて来ない。
ラスト100mまで我慢して最後にスピード勝負に持ち込む気でいるのか。
それとも……。えいりんも体力的に限界で、これ以上は前に出られないのか。
昨年は藍子がラスト200mで先頭に出た。
だったら、今度は桂水高校が先頭に出てやる番だ。
私は地面を蹴る脚に力を入れ、ぐっと前へと出る。
予想したよりも簡単にえいりんの前へと出ることが出来た。
でも油断は出来ない。
昨年私達は1秒差に泣いたのだ。
これからゴールまで200m、一瞬たりとも気を抜くことは出来ない。
自分に強く言い聞かせ、カーブを半分まで来る。
残りは150m。ちらっと右側に眼をやると、3000m障害の水濠がトラックの一番外側に設置してあるのが見えた。
まさか自分が高校新を出したり、日本一になるとは思ってもみなかった。
本当にあれは、高校生活の中でも最高の思い出だ。
でも、それを一番の思い出にはしたくない。
一番の思い出はやはり、都大路出場にしたい。
そのためにも今頑張らなければ。
みんなはしっかりと頑張ってくれた。
その頑張りを確認するかのように、私は肩に掛けたタスキをギュッと握る。
カーブを曲がり、最後の直線に出る。
先ほどと同じように、紘子がトラックの真近くに立っていた。
「聖香さん! 頑張ってください! 後ろ2秒差です!」
紘子の張り上げるような声が、しっかりと耳に入って来る。
と、永野先生までもがトラックの近くまで出て来ていた。
「澤野! 頑張って! 後少しだからしっかり!」
応援してくれる永野先生は、いつもとは違った雰囲気だった。
まるで由香里さんと喋っている時のような感じだ。
それに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ。永野先生。私は絶対に負けません。だから、そんな泣きそうな顔しないでください」
そう思いながら、永野先生の横を通り過ぎて行く。
残り50m。えいりんの足音は聞こえない。
どうやら差は詰められていないようだ。
風が出て来たのか、ゴールテープがはためいている。
一瞬、先ほどの橋での出来事が蘇る。
「大丈夫。今度は風に負けたりしない。むしろ、私自身が風のごとく駆け抜けてやる」
そう自分に言い聞かせ、残った力を振り絞り、ぐっと腕を振って地面を全力で蹴る。
目の前にゴールが迫って来る。
ついにこの瞬間が来たのだ。
私は左手を高々と上げ、笑顔でゴールを駆け抜けた。
いよいよ明日最終回
明日は一挙5話公開です




