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203区  それは予告も無く突然に その5

挿絵(By みてみん)


しばらく泣くと自分の中で少しだけ変化が起きた気がした。


本当にどれくらい振りだろうか。

私はゆっくりとカーテンを開け外を見た。


久々に浴びる日差しは予想以上に眩しく、目が開けられなかった。

しばらくするとその眩しさにもなれ、景色が見えてくる。


マンションの6階から見える景色は、夏の太陽の輝きに照らされギラギラと輝いていた。


ふと空を見上げると、雲ひとつなく透き通るほどに綺麗な快晴だった。


「快晴の晴は、晴美の晴……か」

晴美が小学生の時によく言っていた口癖を独り言のようにつぶやく。


こう言うところにも晴美との思い出は残っているのだと気付く。

これから先、快晴の空を見るたびに私は晴美を思い出すのだろうか。


でも、悪い気はしない。


私は携帯を取り、電源を入れてみる。


一瞬、画面の故障かと思った。

日付が8月31日になっていた。

晴美が亡くなって一ヶ月近く経っていた。


随分と長く落ち込んだものだ。


たった数分前の自分に苦笑いをする。


でも、きっとこれはこれで必要な時間だったのだろうと、ぼんやりと考えていた。


携帯を再度見ると、山の様にメールが溜まっていた。

そのほとんどは駅伝部の部員からだった。


「元気ですか?」「なにしてますか?」そんな一言がみんなから送られていた。


と、紘子からのメールで私は手を止める。

インターハイの結果を知らせるメールだった。


内容を見る限り、紘子はインターハイで4位だったらしい。1、2位を留学生が。3位に城華大付属の雨宮桂。4位に紘子だったようだ。


何か返事を返そうかと思ったが、何を言っていいか分からなかった。


正直、他の部員にもなんと返してよいのか分からずに返事を躊躇してしまう。


メールをよく見ると、お盆辺りから誰も私にメールをしていないことに気付く。


きっと、みんなも何を送って良いか分からなくなったのだろう。

あるいは永野先生が何が言ったのかもしれない。


いや、こう言う時は麻子が言いそうな気もする。


そんなことを考えながらどんどんとメールを遡って行く。


晴美の通夜に出席し、私が携帯の電源を切った2日後にあるメールが送られて来ていた。


一瞬だけ、差出人の名前を見ても誰か分からなかった。

でも添付された写真を見て記憶が蘇る。


倉安尚子さん。


修学旅行の帰り道で出会った私にそっくりな人だ。


どうも娘の椎菜ちゃんが3歳になったらしく、ケーキを前に親子で撮影し私に送って来てくれたようだ。


私はふと気が向いて、倉安さんに電話を掛ける。

5回くらい呼び出し音が鳴った所で倉安さんは電話に出た。


メールの返事を返してなかったことを詫びると、「そんなことでわざわざ電話しなくても」と笑われた。


倉安さんとは普通に喋っていたつもりだったのだが、実際はそうでもなかったのだろう。


「聖香ちゃん、何かあったの?」

と、随分と不安そうな声で聞かれてしまった。


私は事情をすべて話す。

すると倉安さんから「今から会える?」と聞かれた。


晴美が亡くなって以来、私は一度も外に出ていなかった。

そのせいか外に出ると言う、いままで当たり前にしていたことすら、新鮮に感じる。


夏の日差しは暑く、容赦なく私を照らす。

まるで、晴美のいない現実はこんなにも厳しいのだよと言われているような気がした。


よく考えれば明日から学校だ。

でも、いきなり明日から学校に行けと言われても、正直キツイものがある。


もう少し落ち着いてから登校しようかなと思案する。


そう言えば今年のけいすい祭はどうなったのだろうか。

今年も駅伝部で何かやるのだろうか。

それにさっき麻子を怒らせてしまった。謝らなけば……。


色々なことを考えていたら、あっと言う間に待ち合わせ場所のコンビニへと着く。


私がしばらく外出をしていないことを伝えると、倉安さんが私の家の近所まで迎えに来てくれると言ってくれた。


今回ばかりは素直に甘え、近所のコンビニを待ち合わせ場所に指定したのだ。


私が到着するのと同時に、コンビニから一組の親子が出て来る。


倉安さん親子だ。


「聖香ちゃん。お久ぶり。元気……じゃないわよね」

「せいちゃん。げんき」

倉安さんが苦笑いする横で、椎菜ちゃんが真似をして私にあいさつをして来る。


それを見て自然と笑みがこぼれる。

よく考えたら、晴美が亡くなってから笑ったのは初めてのような気がした。


「すいません。おまたせしました」

「いえいえ。あたしも今来たところだから。ところで、あたし達お昼がまだなんだけど……。ファミレスとかに行っても良いかな?」


私もまだ昼御飯を食べていなかったので二つ返事で頷く。

まぁ、昼御飯どころか食事自体を最近はまともにしていなかったのだが。


倉安さんが椎菜ちゃんを後部座席のチャイルドシートに座らせ、私は助手席に座る。


「椎菜の好物があるから、あたしの家の近くにあるファミレスでも良い?」

倉安さんの提案は私にとって願ったりだった。

正直、この近所だと知り合いに出会いそうで落ち着かない。


車で走ること30分。目的のファミレスに到着する。

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