20区 桂水高校女子駅伝部初陣!! その7
先頭を走る宮本さんはここでさらにペースを上げて来る。
藍子とはすでに5秒近い差が開いていた。
それでも宮本さんは油断することなく、顔をややしかめながらも必死に前へと進んでいる。
それを追う2位の藍子はそれ以上に必死だった。
ラスト1周になると、腕振りと脚の動きをコンパクトな動作に切り替えていた。
視線はあきらかに宮本さんを捕らえ続けている。
まるで、視界から消えると追えなくなってしまうと言わんばかりの気迫だった。
そして葵先輩もラスト1周を過ぎ、私の前を通過する。
「葵先輩、頑張ってください。前追えますよ」
ありったけの声で私は叫ぶ。
3人の集団は、1人が飛び出し、後ろから葵先輩ともう1人が競りながら追っている形となっていた。
今の段階で葵先輩が7位争いだ。
私の必死さとは正反対に葵先輩は冷静に淡々と走っている。
その走りを見た私自身、ちょっとヒートアップしてしまったっかなと冷静になれるくらい落ち着いた走りだった。
どんな時でも、冷静に落ちついて判断出来る葵先輩の性格がそのまま走りに出ている気がした。
それを見て私もゴールまで移動する。
先頭がラスト200mを切り競技場内はあちこちで歓声が上がり始めていた。
ラスト200mになっても宮本さんはまったくペースを緩めることなくそのままトップでゴールする。
2位の藍子も必死で追っていたものの、差を縮める事は出来ずゴールした時には悔しそうな顔をしていた。2位でも全く納得していない辺りが藍子らしい。
3位から5位までも順位は変わらず、聖ルートリア、泉原学院、城華大付属と続々と選手がゴールする。
葵先輩はラスト100mになって一瞬だけ単独7位にあがったもの、後ろの選手がそこから猛烈なスパートをかけ、順位が再度入れ替わり、8位でゴールした。
「葵先輩、お疲れさまです」
ゴールした葵先輩に声をかける。
5月下旬の暑さのせいか、それとも必死さの表れか、葵先輩は汗で全身が包み込まれていた。
「きつかったぁ。最後負けちゃったわ」
葵先輩の顔は清々しかった。
きっとすべてを出し切ったが故の満足感だろう。
オーロラビジョンに発表されたタイムも9分43秒44とかなり良い。
藍子のタイムが気になり私は視線を上に向ける。
9分33秒31。
そのタイムは藍子の飛び抜けた実力と、このレースでの必死さを表すのには十分なものだった。
「どう。澤野聖香?」
「恐れ入った。やるわね」
後ろから声をかけて来たのが藍子だと分かり、私は振り返りもせずに返事をする。
「どうも。あなたも早くこの場に上がって来なさい。直接対決で叩きのめしてあげるから」
藍子はそれだけ言うと私の後ろから去って行く。
葵先輩が給水をし、座ってスパイクの紐を解いていると、その横に誰かが座って来る。
その相手を見て私は驚いた。
なんと今優勝したばかりの宮本さんだった。
「葵、高校に入っても頑張ってるのね。昨年は見なかったから、どうしてるんだろうって思ってたけど」
「あ、加奈子先輩、お久ぶりです。相変わらず速いですね」
2人が普通に会話してるのにさらに驚く。
「あ、こっち中学の時の一つ上の先輩で、今は城華大付属3年生の宮本加奈子さん」
私に宮本さんを紹介してくれる葵先輩。
「で、加奈子さんこっちが」
「昨年、県中学ランキング1位になりながらも、城華大付属の推薦を蹴り、一時期は引退説まで流れたのに、どう言ったわけか桂水高校の陸上部に入部した澤野聖香。でしょ?」
葵先輩が私を紹介しよとすると、宮本さんがスラスラと語り出す。
「加奈子さん、陸上部じゃ無くて駅伝部ですよ」
そこに大きなこだわりがあるのか、葵先輩が即座に修正を求める。
いや正直に言うと、私も駅伝部と言う響きがかなり気に入っているのだが……。
「まったく。藍子だけじゃなく、澤野と市島がいれば今年は全国優勝も夢じゃなかったんだけどなぁ」
どうも宮本さんは私だけでなく、えいりんのことも知っているようだ。
きっと、私達の学年のことも調べているのだろう。
葵先輩がシューズを履き替えると、宮本さんに挨拶をして私達はみんなのいる場所へ戻る。
戻りながら、今のレースについてや、葵先輩の走りについてお互いの意見を交換をする。




