表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/240

163区  高校総体と私が忘れていた大事なことその1

挿絵(By みてみん)


3000m障害用の障害物が届いた一週間後、県総体のメンバー発表が行われる。


「まず3000m。若宮、ブレロ、藤木」

なんとも意外なメンバー構成だった。


まぁ、アリスはまだ分からないでもないが、紗耶が3000mと言うのはなんとも珍しい気がした。


てっきり麻子が入ると思っていたのに。

麻子自身も意外だったらしく、名前を呼ばれなかったことを不思議がっていた。


逆に紗耶は、妙に落ち着いていた。


そう言えばいつからだろう。

紗耶は練習でかなり追い込むようになっていた。


もともとラストスパートが強い紗耶だが、最近はラストだけでなく中盤辺りから、まるでラストスパートのようにペースを上げて来ることがある。


今年こそは都大路に行きたいと思う、紗耶の決意の表れなのかも知れない。


「次、1500m。湯川、那須川」

 名前を呼ばれて、朋恵はおろおろし始める。


「あの……。私、1500m初めてなんですけど」


「大丈夫ですよ朋恵先輩。誰にだって初めてはありますから」

梓は優しくしゃべりながら朋恵の肩を叩き、朋恵を落ち着かせようとする。

まったく、どっちが先輩なんだか。


でも、こう言う梓の行動は、やはり葵先輩の妹だなと、妙に納得してしまうところがあった。


「あと、800mに大和妹」

「まぁ、うちも800mは初めてなんですけどね。中学生で出た2回の公式戦は、どちらも1500mでしたから」

梓がちょっとだけ恥ずかしがりながら朋恵に言うと、朋恵も梓の顔を見てクスッと笑う。


私が今回総体に出ない分、1500mへの出場が増えるのかと思ったが、3名の枠に対して麻子と朋恵だけだった。


「お前らまだ発表は終わてないぞ」

その一言にみんなの動きが止まる。


「今回は少しスピード練習を入れようと思ってな。2日目のマイルリレーにもエントリーしたから。一応、澤野以外の6人全員の名前でエントリーしている。私からは誰が何走とは言わない。当日にお前らが決めてよいぞ。スタブロとバトンパスの練習も空いた時間にやってくれ」


みんなが騒めきを起こす。

マイルリレーに出場とは想像もつかなかった。


正直、私も出てみたいと思った。

いや、申し込みはもう終わっている。


そもそも、日本選手権に集中するために総体を辞退したのだ。

ここで走ったら意味が無くなってしまう。ここはグッと我慢だ。


「ねぇ、ところでマイルリレーってどんなリレー?」

麻子が真面目な顔をして聞いてくる。


一瞬目まいがした。


麻子が走り始めて二年と二ヶ月。

まさかマイルリレーを知らないとは思わなかった。


「中長距離種目と駅伝はしっかりと理解してるわよ。でも短距離系は知る機会も少ないし」

麻子は必死で言いわけを始める。


「その前に湯川さん。アリス的に言わせてもらうと、1マイルが約1600mってのは一般常識だと思うんです」

アリスの一言を聞いて麻子は大きなショックを受ける。


そんな麻子に紗耶が優しく、4×400mで約1600mなのでマイルリレーと言うことを、分かりやすく教えていた。



早いものであっと言う間に県総体の日がやって来る。


今年は永野先生、由香里さん、私、麻子、紗耶、晴美、紘子、朋恵、アリス、梓と10人もいる。


一応由香里さんの車は10人乗りなのだが全員の荷物もあるため、永野先生と由香里さん、2台の車でやって来た。


ちなみに永野先生の車には私とアリス、朋恵が乗っていた。


「すごい! 競技場ってこんなに大きいんですね。アリス的にはもっとコンパクトかと思ってました」

競技場が見えてくるとアリスは随分と興奮していた。


「アリスちゃん……。去年の私みたいなことを言ってる」

ちなみにその前の年は麻子が言っていた。どうやら、毎年誰かが競技場を見て驚くと言うのは、桂水高校駅伝部の伝統となりつつあるようだ。


駐車場に着くとさっそく荷物を降ろし始める。

それは荷物を降ろし始めてすぐのことだった。


「澤野聖香!! あなたいったい何様のつもりなのよ!」

遠くから名前を大声で叫ばれる。


私が声の主の方を向くと同時に、周りにいる人もそっちを注目していた。


声の主、山崎藍子がこっちに向かって走って来る。

気のせいか、随分と機嫌が悪そうに見える。


「あなたねえ! いったいどう言うつもりなのよ! 説明しなさい!」

違った。見えるのレベルではなく、あきらかに山崎藍子は機嫌が悪かった。


「えっと……。まずは状況説明をして欲しいのだけど」

「あなたが昨年の県高校選手権の時に、勝負がしたいなら県総体で1500mに出て来いって言ったんでしょ! だからわざわざ1500mにエントリーしたのに! 肝心のあなたがいないってどう言うことなのよ!」


「あ……」

そう言えば、そんなことを言った気がする。

正直、言われるまで完全に忘れていた。


そうか、前にえいりんが荒れるかもと言っていたのは、このことだったのか。


「なんて言うのかな。ほら、よく言うじゃない。人生そう言う時もあるって」

「あなたとの対戦に関しては、そう言う時ばっかりなのよ! だいたい、私と対戦したいって気持ちがきちんとあったら、県総体に出場しないって選択肢が出て来るはずがないでしょ。その辺どうなのよ澤野聖香!」


しまった。火に油を注いでしまったようだ。


 まいったなぁ。「藍子との対戦はまったく考えて無かった」って言ったら収集がつかなくなってしまいそうだ。


と、城華大付属のジャージを着た人がこっちにやって来るのが見えた。


一瞬、知らない人に思えた。だ

が、それが間違っていることに気付く。


なんと、えいりんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ