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153区  季節外れの新入部員と葵先輩の卒業その1

挿絵(By みてみん)


修学旅行から一ヶ月程度たった日曜日。

今日は全国高校駅伝がある日だ。


昨年、誰にもばれなかったことを良いことに、今年もまた永野先生は会議室に全員を集め、駅伝を観戦しようとしていた。


「綾子先生。なんですかこれは?」

葵先輩が疑問に思うのも無理は無い。

なぜか葵先輩の前には、大量のお菓子が袋ごと山の様に積まれていたのだ。


「ああ。大和の合格祝い」

「いや、合格祝いって……。最終発表は来月ですよ。この前2次の面接を受けたばかりなのに」

「じゃぁ、一次試験合格祝いだな」


永野先生の一言にため息をつきながら、葵先輩はお菓子の袋を私達にも配ってくれた。


そのお菓子を食べつつ、駅伝を見る。


「来年は鍋でもやりますか?」

お菓子を食べながら麻子が提案をする。


「よし分かった。じゃぁ、湯川は1人で留守番だな」

どうも麻子は、永野先生が何を言っているのか分からなかったらしく、きょとんとしてる。


「来年はここで見るんじゃなくて、都大路を走らなきゃだめかな」晴美に突っ込まれ、ようやく意味を理解したようだ。


今年の高校駅伝は、先頭が目まぐるしく入れ替わる。


1区では、城華大付属の雨宮桂が前半から積極的に先頭を引っ張り、2位に3秒差を付けて区間賞。


しかし、2区でえいりんが7人抜きをして熊本の鍾愛女子がトップに出る。


修学旅行でえいりんと親しくなっただけあり、2年生4人は熱心にえいりんを応援していた。


えいりんはレース中、前方にいる選手に追いつくとたまに真後ろや、斜め後ろにぴったりと付いてから抜かすことがあった。


解説者の解説によると、今日の2区はやや風が強いらしく、えいりんは風が吹く時に上手く前の選手を風よけに使っているらしかった。


「まるで風がいつどの方向から来るか分かっているかのようです」

解説者の一言が妙に印象的だった。


えいりんでトップにたった鍾愛女子高校も、3区に入りあっさりと抜かれてしまう。


4区、5区でも先頭の入れ替わりがあり、終わてみれば優勝は愛知県。2位は鹿児島となった。


城華大付属は昨年の6位から4位へと順位を伸ばし、えいりんのいる鍾愛女子高校は2連覇達成はならず3位と言う結果だった。


高校駅伝を見終わると、もう年末だなと感じる。

今年は珍しく年末に姉が実家に帰って来た。


とは言っても、3日程滞在してすぐに熊本へと帰ってしまったが。


その時に、クリスマスプレゼントと言うことで、姉の通う大学のパンフレットと過去問題集を貰った。


「大型連休の時も峰木さんが渡したらしいけど、こっちは最新版ね。赤本はあくまで参考に。あとパンフレット見ればわかるけど、うちの大学、センター試験利用も出来るからセンター対策もきちんとやること。それと、理科の教員免許は私のいる生物科だけじゃなくて、化学科でも取れるから、どうしてもうちの大学に来たいのなら、センター利用時に併用で出すって手もあるわよ」


姉がこうして真面目にアドバイスをしてくれるのは、何とも珍しい気がした。


この時はものすごく感謝していたのだが、姉が帰った後に母から

「ちょっと聖香。手が空いてたら麻衣の部屋を掃除しておいてくれない? まったく……。なんで3日しかいなかったのに、ここまで汚れるのかしら」

と言われ、「本当になぜここまで散らかるのか」と言うくらい汚れた部屋を掃除させられた時には、感謝の気持ちもすっかりなくなっていた。


年が明け、寒さが厳しい中でいつも通りの生活が始まる。

その噂を聞いたのは、新年最初の部活の時だった。


「金髪碧眼の女の子? 何それ? 幽霊かなにか?」

「いえ……。私も噂で聞いただけなので」

「理数科でも噂になってましたし。友達が、冬休み初日の部活で見たって、メールして来ました」

「にわかには信じられないんだよぉ」


朋恵と紘子の話によると、冬休みに入ってから、校内で金髪碧眼の少女を見たと言う生徒が何人かいると言うのだ。


それも私服だったり、桂水高校の制服を着ていたりと人によって服装が違って見えるのだと言う。


私を含め他の部員には、到底信じられない話だ。


そもそも、幽霊だとしても、なぜ金髪碧眼なのだろうか。

普通に黒髪で良い気もする。


それに目撃情報によると、その子は校内をふらふらと歩いていたのだと言う。


もうこの辺りが、いかにも創作物の幽霊話を連想させてしまう。


結局この話は、部活中の世間話程度に扱われ、終了するはずだった。


しかし、予想外のことが起きる。


冬休み最終日の部活でのことだ。


今日の練習メニューは、学校の裏山にある林道を利用したクロスカントリー。

クロスカントリーが終わり、グランドに戻って来た時に、朋恵があることに気付く。


「あの……。部室の前に、金髪の女の子が立っているように見えるのですが。気のせいですか」

私は、朋恵が数日前に出た話題で、話を盛り上げようとしているのだと思った。


「朋恵。嘘をつくならもっとばれない嘘を……」

言いながら部室の前を見て、私の言葉が止まる。

いたのだ。本当に金髪の女の子が部室の前に立っていた。


それも桂水高校の制服を着て。


グランドの反対側に私達はいるため、顔までははっきりと分からない。

それでも髪の色が金色であることはしっかりとと分かる。


一瞬、今日は美術部に顔を出している晴美のいたずらかと思ったが、背格好が晴美とはあきらかに異なっていた。


「あのぉ。わたしにも見えてるんだけどぉ」

「いえ、紗耶さん。自分にも見えてますし」

「うちにも見えるわね。ってことは、ただの人間なんじゃない?」

一番後ろにいた葵先輩の一言に、「えっ?」と私達全員が振り向く。


そしてもう一度部室を見ると……。女の子は消えていた。

誰もが言葉を失い、その場で止まってしまう。


これは……。ひょっとすると、本物の幽霊なのだろうか。


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