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145区  Let's 修学旅行♪その3

挿絵(By みてみん)


神社を後にし、バスは次の目的地に向かう。

そんなに遠くはないのだが、朝4時半に学校を出発すると言う強行スケジュールだったため、この間に私は寝落ちしてしまう。


晴美に起こされ、眠たい目をこすりながら歩く。

と、一瞬で目が覚めた。


「ねぇ、見てこれ。ふれあい動物王国だって。あ! カピパラがいる。カピパラだよ」

阿蘇ファームランドの中にあるふれあい動物王国。

なんとカピパラと触れ合えるのだ。


「聖香は、麻子が走ることにハマっていることを、どうこう言えないかな」

「だねぇ。まぁこうなることは分かっていたんだけどねぇ」

晴美と紗耶があきれ顔をしているが、今はそれどころでは無い。


5日くらい前の話だ。テレビでカピパラの特集をやっており、それを偶然みた私は、その魅力に取りつかれてしまった。


部活の時も、毎日のようにカピパラの魅力を話していたので,みんな私がカピパラ好きだと知っていた。


「歩いてる。カピパラが歩いてる。可愛い」

「聖香が可愛いとか言うと違和感がすごいわね」

横でぼそっと言う麻子の脇腹を、わりと本気で突っついておいた。


私は、その後も餌を購入して手からあげ、子供のカピパラを撫でてみたり、一緒に写真を撮ってみたりと存分にカピパラを満喫する。


もう、最終日までずっとここにいても良い気分だった。


近くのお店によると、カピパラのぬいぐるみが売ってある。

思わず私は両手で抱えるくらいの大きなサイズを買い、そのまま家へと配達してもらう。


「聖香……。大和先輩のことあまり言えないかな」

晴美が言うと麻子と紗耶が納得の声をあげる。

あぁ、ここに来て初めて葵先輩がメイド服にはハマった理由が分かるような気がした。


その後は阿蘇山に登り火口を見て、今日の宿泊所である、黒川の温泉宿へと向かう。


葵先輩が言うには、この初日の宿泊こそが熊本コースの醍醐味なのだそうだ。


 阿蘇山から少しだけ離れていることもあり、辺りが薄暗くなったころに宿泊所へと到着する。でもその薄暗さが宿の魅力をより一層引き出していた。


敷地内には木々がたくさん植えられ、灯篭の明かりが道を照らす。


辺りに音は無く、しんと静まり返った空気に同調するかのように静かにひっそりと、それでいてどっしりと構えた和風の建物が私達を出迎えくれる。


これが今日泊まる宿だ。


素人の私が見ても、絶対に宿泊費が高いだろうと言うのが分かる。


なるほど。熊本コースだけ他のコースより一泊少ないのも頷ける。


あくまで噂がだが、温泉宿の宿泊費が半端じゃなく高いので、日程を一日減らさざるを得ないそうだ。


私達駅伝部4人が泊まる部屋に入ると、ビックリしたことに部屋に露天風呂が付いていた。4人一緒に入っても十分にゆとりのある広さだ。


食事の時に他の人に聞いてみると、どの部屋にも付いているらしい。


この露天風呂に入りたいがために、生徒からの不人気さとは逆に、先生方は熊本コースの引率が熾烈な争いになるのだと永野先生が言っていたのを思い出す。


その時はただの噂話だと思っていたが、この宿を見る限り、事実のような気がしてならない。


夕食に出て来た料理も、宿の外観や雰囲気に負けないくらいに豪華だっだ。


「あたし達、明日死んだりしないわよね?」

あまりに豪華な食事を前に、麻子は変な心配をし始める。


食事のあとはもう自由時間だ。

やることはひとつしかない。


「風が冷たくて気持ちいい!!」

「いや、麻子。周りに木々が生い茂って、柵もあるけど、最低限は隠した方がいいかな」


生まれて初めての露天風呂で舞い上がる麻子を見て、晴美は苦笑いをする。


部屋に付いている露天風呂は、周りを木々に囲まれ、灯篭が3つあるだけの薄暗さが温泉の魅力をより引き出していた。


体を洗い、みんなで湯船に入る。


「あぁ〜気持ち良いわ」

まるでお年寄りのような声を出しながら、麻子は湯船から空を見上げる。


間違いなく今の「あぁ〜」には濁点が付いていた。


「あたし、将来は桂水市内でこう言うところに住みたいな。市内でも田舎の方って意味じゃなくてさ。ほら皇居があるじゃない。あんな風に桂水市内の真ん中に木々で囲まれた隠れ家を作りたいのよ」

「いや、麻子バカでしょ」

「失礼な聖香程じゃないわよ」

「あら? この前の定期テストはどっちが上だったかしら」


私が勝ち誇ったように言うと、麻子は口の辺りまでお湯に沈み、悔しそうな目でこっちを見る。


そう、努力が段々と身を結び始め、私はついに麻子よりも成績が上になったのだ。


ちなみに麻子も、入学当時と同じか、それより少し上の成績をキープしてる。

つまり、麻子が落ちたのでは無く私が上がって来ての結果だ。


「前から疑問に思ってたんだけどぉ、せいちゃん一年くらい前から急に勉強頑張りだしたよねぇ。一番最初のテストはボロボロだったのに。なんでかなぁ?」


紗耶からすれば、純粋に興味をもっただけなのだろう。

しかし私からすれば、かなり答えにくい質問だった。


いや、理由ははっきりしている。

高校教師になって長距離を教えたいからだ。


でも、それを言うと、どの科目の先生になりたいのか。

なぜなろうと思うのかを聞かれるだろう。


永野先生に憧れたと言う正当な理由はあるのだが、駅伝部のみんなの前で言うのはとっても恥ずかしかった。


とは言っても、話題を変えることも難しいそうなので、

「ちょっと将来やりたいことがあってね」

と大まかに言うと、なぜかみんなそれで納得してくれた。

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