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136区  決戦!2度目の高校駅伝!その3

挿絵(By みてみん)


私がアップを終え、荷物置き場に戻って来ると、付き添いで来ている晴美が走ってやって来た。


「紘子ちゃん、無事にスタートしたかな」

晴美は言うと同時に携帯を私の顔に近付けて来る。

携帯にはテレビ中継の映像が映っていた。


「さあ、各選手がトラックから県道へと出て行きます。昨年はこの付近ではまだ団子状態でしたが、今年はすでに2校が飛び出しております。昨年度優勝のゼッケン1番城華大付属高校、同じく昨年度2位の桂水高校。2校とも1区を走るのは1年生。さぁ、これからどのようにレースを展開して行くのかが注目されます」


映像を見る限り、紘子の調子は問題なさそうだ。


私は晴美にお礼を言って更衣室へと行き、汗を全部ふき取ってユニホームへと着替える。


その上からジャージを着て、さらにロングコートを羽織る。秋も深まり若干寒さを感じる。スタート前に体を冷やすわけにはいかない。


更衣室から出ると、ちょうど最終点呼が始まるところだった。


まずは城華大付属が呼ばれる。工藤知恵がコートを開け、ゼッケンを見せる。

次に私が呼ばれ、係員にゼッケンを見せに行く。


その時工藤知恵とすれ違うと、向こうが軽く会釈をして来たので私もそれを返す。


ゼッケンを見せ終わり、時計を見ると先頭到着時刻まであと10分となっていた。


晴美の所に戻り、中に着ていたジャージを脱いでおくことにした。

10分間ならロングコートだけで十分だし、なによりゼッケンを呼ばれてからではジャージを脱ぐ暇なんて無い。


「紘子ちゃんがもうすぐ中間地点かな」

晴美が携帯の音量を上げる。


「さぁ、先頭の城華大付属高校雨宮が間もなく中間点を通過。タイムは9分27秒。2位桂水高校は若干差が開いたか。とは言うものの桂水高校も中間点通過は9分30秒。後続とはかなり差を広げています。今年の県高校駅伝は1年生がなんとも元気です。そう言えば昨年の1区で区間賞を獲得した澤野も1年生でした。。その澤野が2区に待ち構えている桂水高校。1年若宮、なんとしても良い位置で澤野にタスキを渡したいところ」


急に名前を言われ、恥ずかしさのあまり赤面しそうになる。

それをごまかすように荷物置き場から中継地点に行こうとすると、晴美も携帯をロングコートのポケットに入れ、立ち上がった。



2人して歩き始めると、係員が後5分で選手が到着することを拡声器で伝えて来る。


さっきの映像を見る限り、紘子の脚は良く動いていた。

雨宮桂とはそんなに大差なく来るとだろう。


私のやるべきことはただ一つ。

城華大付属と1秒でも差を広げ、先頭で麻子にタスキを渡すこと。


広報車が中継地点を通過して行き、中継地点の緊張は最高潮に高まって来る。


「はい、先頭が入ります。ゼッケン1番、2番」

城華大付属と桂水高校が同時に呼ばれる。

予想通り差は大きく広がっていないようだ。


晴美にロングコートを渡し中継所へ入ると、工藤知恵がすでに立っていた。


中継所で軽く体操をしながら待っていると、先導の白バイが入って来る。


1区はラストの1キロで小刻みなアップダウンがあり、中継所の手前は下り坂になっている。その下りに雨宮桂が姿を現す。遅れること約5秒、紘子の姿も見える。


2人は相当速いペースで走っているのだろう。

グングンとその姿が大きくなって来た。


「桂ラスト!!」

「紘子、ファイト!」

工藤知恵の大声に負けないように、声を張り上げて紘子を応援する。


まずは雨宮桂が中継所に入って来る。


「ちっち、あとお願い」

「任せて」

雨宮桂と工藤知恵は短い言葉を交わし、タスキリレーを行う。


すぐに紘子も中継所に入って来た。


「紘子、よく頑張った」

「聖香さんファイト」

紘子に声を掛けてタスキを受け取ると同時に、私は一気にギアを入れて走り出す。


「聖香、前と6秒差」

姿は見えないが晴美の叫ぶ声がする。


6秒差か。1キロ以内に工藤知恵に追いついて見せる。

私は晴美にお礼を言うように少しだけ左手を上げた。


タスキを肩に掛ける。

タスキは紘子の汗で濡れいた。


これがタスキの重みだろうかと一瞬考える。


紘子の汗と一緒に、紘子の走りと思いもタスキに染み込んでいる気がした。

そして昨日の夜に書いた全員のメッセージも一緒に。


このタスキに今度は私が思いを込めて麻子に渡すのだ。

ぎゅっとタスキを一度握り、自分がやらなければならないことを確認する。

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