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132区  波乱万丈ロードレースその7

挿絵(By みてみん)


「って、3年前の私なら言ってたでしょうね」

それだけ言って永野先生が水上さんに微笑む。


「ごめんね舞衣子。今の私には、この子達と都大路に行くって言う大きな夢があるから……。だからいくら舞衣子の頼みでも、どれだけ好条件を出されても行くことは出来ないわ」


「つまんないの」

言葉の上だけでなく、本当につまらなそうに水上さんは頬杖をついてため息をつく。


「綾子が本気で私の所に来る気だったら、コッブの水を顔にぶっかけて、ビンタして説教してこの場でスパッと縁を切ってやるところだったのに」

「良かったわね綾子。水上さんの後に、私もあなたの頭を思いっ切り叩かなくてすんだわ」

由香里さんが手に持っていたメニューを元の位置に片付ける。


「まったく……。今の私には何も無いとか言っておきながら、しっかりと持ってるじゃない。桂水高校駅伝部監督、永野綾子さん」

水上さんはちょっとだけ嬉しそうな顔をする。


「でも、あたし本気で心配した。永野先生がいなくなるんじゃないかって」

「まて、湯川。私はそこまで信用無いのか? お前らをほってどこかに行くと本気で思ったのか?」


聞かれた麻子は、苦笑いしていた。

どうも本気で思っていたようだ。

まぁ、口には出さないが私も一瞬本気にしてしまったのだが。



ロードレースの翌日。

ぎこちない動作で自転車を漕ぎながら、晴美が待ち合わせ場所にやって来る。


どうやら、昨日の5キロで筋肉痛になったらしい。


「レースと練習はまったくの別物かな」

よたよたと自転車を漕ぎながら晴美が言う。


レースの翌日と言うこともあり、練習は軽めのジョグのみで終了。

でも、今日は練習が終わってからが本番だった。


「それでは今年の駅伝メンバーを発表する。その前に言っておくが、我々の目標は都大路出場だ。分かりやすく言うと城華大付属に勝たなければならない。今年は最大のチャンスだと私は思っている。そのためにも勝負するオーダーを組んだ。まず1区、若宮」


まぁ、1区はどう考えても紘子以外にありえなかった。

なんと言っても桂水高校駅伝部のエースだ。


「2区澤野」


はい? 私が2区? これは予想外だ。

正直、私は5区で決まりだろうと思っていた。


「3区、湯川。4区、藤木。5区、大和。補員に那須川。以上、このメンバーで今年こそは勝ちに行くからな。それと澤野と湯川。着替えたら職員室に来るように」

永野先生はそれだけ言って、グランドを後にする。


「なんとなく永野先生が言いたいことが分かるわ」

「そうだねぇ、前半で逃げ切るってことだよねぇ」

部室で着替えながら、麻子と紗耶が今のオーダーについて意見を交わす。


「葵さん、アンカーまで自分達でタスキを繋ぎます。だから、最後は先輩がゴールテープを切ってください。聖香さんの話だと、1区はアンカーのゴールに間に合うみたいなので自分競技場で応援しますし」


「わかったわ。頑張るね。それと、聖香と麻子、ありがとう。うちが5区を走れるとは思ってなかった」


「いや、葵さん意味が分かりませんから。別にあたし達が譲ったわけじゃないですよ。先輩が自分で勝ち取ったんでしょ? 先輩、3年生になってから頑張っていましたもんね。この前の選手権も3000m負けてしまったし、5キロのロードレースは辛うじて最後の最後で勝てましたけど、あれだって僅差でしたからね」


麻子が明るく笑うのと対照的に、葵先輩は一瞬すごく悲しそうな顔をする。

それでもすぐに笑顔に戻ると、「先に帰るわね。職員室に行くついでに部室のカギも返しておいて」と言って部室を出て行った。


麻子と2人で職員室に入ると、先生方も大半は帰っていたようで、いつもに比べると静かな雰囲気だった。


「ときに、湯川と澤野。お前らだけを呼んだのは他でもない。さっきのオーダーについてだ」

私達もある程度予測していたことなので、何も言わずに頷く。


「私が組んだあのオーダーの意味、分かってるよな」

「「はい!!」」


今までみたことが無いくらい、真剣にそして睨みを効かせて永野先生が私達を見て来るので、私も麻子もまるで戦場にいる兵士のように姿勢を正し、きりっとした返事を返す。


もちろん言いたいことは分かっている。

2区に私、3区に麻子を入れると言うことは私達2人でトップを取り、さらには差を広げて来いと言うことだ。


私達の返事を聞き、永野先生はいつもの笑顔に戻る。

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