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13区  それは空のように青く

挿絵(By みてみん)


大型連休が終わってしばらくたったある日。

私は晴美に連れられて美術室へとやって来た。


マネージャーと美術部を兼任している晴美は、慣れた足取りで中へと入って行く。私は晴美とは対照的で恐る恐るだ。


中学生の時は陸上部が終わった後、何度となく美術室に遊びに行ったこともあったが、高校になってからはこれ初めてだ。


と言うのも、桂水高校では「美術・音楽・書道」の中から一科目を選択すれば良いようになっている。


つまり美術を選ばなければ、そもそも美術室に来ることすらないのだ。


さらには美術室が管理棟の最上階一番奥にあるため、余計にでも来る機会が無い。


「聖香。こっち、こっち」

先に入った晴美が奥の方で手招きをしている。


他には誰もいない美術室の中を歩くと、ほのかに絵の具の独特な匂いが漂ってきた。中学も高校も美術室の匂いは変わらないらしい。


「どうかな。とりあえず下書きをしいてみたのだけど」

晴美がそう言って、大きなキャンバスを私に見せて来る。


そこには、かなり大まかに鉛筆で下書きされた絵が描かれていた。

まだ丸や楕円を組み合わせた下書きの状態ではあったが、ランナーが描かれているのが分かる。


「へぇ。さっそく取りかかってたんだ」

私はその絵を見ながら感心したようにつぶやく。


ことの始まりは大型連休が終わった次の日だった。

その日の晴美は、なにか悩んだような顔で部室に入って来た。


よく見ると手元には一枚のプリント。

不思議に思った麻子が訪ねてみると晴美はプリントを私達に見せてくれた。


それは、全国高校駅伝のイメージポスターの募集だった。


「私に走る才能が無いのは分かっているんだけど……。これなら私もみんなと一緒に都大路を目指せるかなって」


その時の晴美はすごく照れくさそうにしていた。

それでも、みんなに頑張ってみたらと進められ、今にいたると言うわけである。


「とは言っても、まだまだかな。そもそもイメージもいまいち固まってないし。なんだか毎日頑張って走ってるみんなに置いていかれている気分かな」


私に見せてくれたキャンバスを眺めながら晴美はため息をつく。


「いやいや、駅伝部だってようやく始動し始めたばかりだし、あせらなくても。もしかしたら私達が都大路に行くより先に、晴美のポスターが採用されるかもよ」


私の一言に晴美はちょっとムッとする。


「それはダメかな。私は三年連続で採用されるってことはまずないだろうけど……。聖香には三年連続で都大路を走ってもらいたいかな」


晴美の一言に「まぁ、そうなるようにしっかり頑張るよ」と私は言い、晴美が頷ぎながらキャンバスをしまう。その後、2人で美術室を後にして帰路へとついた。



「お前ら喜べ。やっとユニホームが出来たぞ。サイズは前に各人に書いてもらった通りになってるから、それぞれ取ってくれ」

部活終了後の部室に永野先生がダンボールを抱えてやって来たのは、5月も中旬を過ぎた頃だった。


4月に正式な部になった駅伝部にとって、これが初めてのユニホームだ。


みんな期待を胸を込めて段ボールを開ける。

「出来てからのお楽しみ」と、永野先生は一切デザインを教えてくれなかった。


手に取ったユニホームを見て、私は真っ先に空を連想した。

ランパンは青空のように青く、横に入った白いラインは雲のように白い。


逆にランシャツは雲のような白色がメインで、肩と背中から脇腹にかけては、雲の切れ目から覗いた青空のようなラインが入っていた。


胸には青色で『桂水』と校名が入っている。


「これは綺麗ね」

「ですよねぇ。本当にすごいんだよぉ」


葵先輩が目を輝かせながら嬉しそうに感想を口にすると、紗耶も笑顔で同調する。


さっそく各自ユニホームを着てみることにする。


久々のその着心地に、私は懐かしさが溢れだしていた。

なんとも心が落ちつく。


そんな感傷に浸かっていたのもつかの間。

後ろの方で麻子が大騒ぎを始めた。


「え? 陸上のユニホームってこんなに小さいの。太ももとか丸見えじゃない。恥ずかしすぎる。これ着て走るの? なんかちょっと動くだけで股とか脇の辺りがスース―するんだけど」


一応、ランシャツとランパンに着替えているものの、麻子は照れているのか、腕で体を隠すようにしていた。


「長距離はまだマシ。短距離になるとランパンとブラトップになる」

久美子先輩の一言に、麻子は「これよりまだすごいのがあるんですか?」と、軽くショックを受けていた。


その後も麻子は恥ずかしいと言う言葉を連発していたが、普段の性格にその言葉がまったく合っておらず、なんだか意外な一面をみたと言う印象が強く残ってしまった。


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