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124区  県高校選手権、またもやあの子と対決その6

挿絵(By みてみん)


そして言われた19時。


私がロビーへ降りると雨宮桂はすでに来ており、革のソファーに腰を掛けて座っていた。


私はロビーまでやって来ても、雨宮桂に呼び出さた理由が分からずにいる。


「お待ちしていました。さて、澤野さん。コンビニにでも行きましょうか。奢りますよ」

ソファーから、えいっと勢いを付けて立ち上がり、彼女は私の手を引っ張る。

そんな彼女の見た目は高校1年生と言うよりは中学1年生くらいにしか見えなかった。


外に出るとまだ19時だと言うのに、空気はすっかり冷たくなっており、秋が深まって来ていることを身を持って感じる。


「今日の3000mなんだったの? ラストの1周だけ頑張ってたけど」

私は疑問に思っていたことを、ここぞとばかりに聞いてみる。


「あ、見てました? 今日は藍先輩と、ちっち……あ、工藤知恵のペースメーカーでしたから。紘が大会に出てこないことも知ってましたしね。監督からもラスト1周頑張るならって、許可をもらってましたから」

「そう言えば、あなたと紘子って仲良かったわよね」

「ええ。週に3回くらいは連絡してますよ。ちなみに紘が5000mで15分36秒を出したのも知ってます」


雨宮桂は喋りながら両手を広げ、歩きながらクルクルと回る。

見た目は中学生だが、行動は小学生以下のような気がして来た。


由香里さんの車で来た道とは反対方向だったため気付かなかったが、なんと徒歩10分の所にコンビニが出来ていた。


それもファミニーマートが。

個人的にファミニーマートは大好きなので少し嬉しい。


2人して中へ入ると、入店を知らせるチャイムが店に鳴り響く。


「あの……澤野さん? わたし、いつも思ってるんですけど」

「うん。多分私もあなたと同じことを思ってる」

2人して入り口で立ち止まり、顔を見合わせる。


「このチャイムってどう聞いても、陸上の試合でアナウンス放送の前に流れるチャイムですよね」

「だよね。よかった。そう思ってたの、わたしだけじゃなかったんだ」

顔を見合わせたまま2人で笑いだす。


店員が何ごとかとこっちを見たきたので、慌てて私達は奥へと進む。


雨宮桂は違う種類のプリンを2つ。

私はスポーツドリンクを買って店を出る。


「プリン♪ プリン♪ プリンがわたしを待っている♪」

なんとも意味が分からない歌を歌い、雨宮桂はご機嫌そうだ。


「プリン好きなの?」

「はい、とっても。試合が終わったらいつも食べるんですよ。疲れている時に食べるプリンは格別ですね」

「本当に好きなのね」

「はい! 紘が澤野さんを好きなのと同じくらい好きですよ」

言われて私は足を止める。

まさかその話題が出て来るとは思わなかった。


「あなた、どこまで知ってるの?」

「え? 全部知ってますよ。澤野さんが勢い余ってキスしちゃったことまで。あ、でもけっして紘がおしゃべりとかじゃないですからね」


慌てて雨宮桂が紘子をかばう。

別に私はそんなことを考えてもいなかったのだが。

なんとも友達思いだ。なんだかそれが妙に嬉しかった。


「そもそも、紘の気持ちは中学生の時から知ってましたから。中学の時、紘に進学先をどこにするか聞いたんです。そしてら桂水高校ってところにするって。わたし、広島の人間だから、最初陸上の強豪校だと思ったんですけど……。良く聞いてみたら、全然違いました。いや、今では十分に強豪校ですね」


一生懸命に喋る雨宮桂は、見た目の幼さも手伝って随分と可愛く見えた。


その後も、紘子からなぜその高校を選んだのか理由を聞いたこと。

文化祭前に部活のマネージャーに相談したこと、気持ちを伝えたことなども聞いたし、時には色々と相談に乗っていたことも話してくれた。


「で、結局わたしが何を澤野さんに何を伝えたいかと言いうと……。紘は本当に良い子なんです。世間だと女の子同士で好きになったりって、なかなか受け入れられなかったりすることも知ってます。でも紘は紘ですから。これからも紘のこと、同じ部活の後輩としてで良いんでよろしくお願いします」


さっきまであれだけおちゃらけていた雨宮桂が、深々と頭を下げて来たことに正直驚いた。


「心配しなくても大丈夫。それはあの時紘子とも話したから。何があっても紘子は大切な駅伝部の仲間よ」

私の一言に雨宮桂は頭を上げて、安堵の表情を浮かべる。


その顔はまるで試験の合格発表で自分の番号を見つけ一安心した受験生のような顔だった。


「よかったです。紘も澤野さんがそう言ってくれたと話してたけど。やっぱり心配で余計なおせっかいしちゃいました。もちろんこのことは紘に内緒にしておいてくださいね」

「ええ。親友思いのあなたに免じてそうしておく」


「ち……違います。紘が負けた時にそれを言い訳にされたら困るんです。あと、色々あって学校を辞められたら対戦自体が出来ないし」

「はいはい。そう言うことにしておいてあげる」


必死で言いわけをする雨宮桂は、あきらかに目が泳いでおり、苦し紛れに陸上的な理由を取って付けたのがバレバレだった。


本当になんとも親友思いだこと。


雨宮桂と別れて部屋に戻ると永野先生と紘子が到着していた。

今の今まで紘子の話をしていたので、なんとも変な気分だ。

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