表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/240

12区  意外な所で出会ったライバル  その3

挿絵(By みてみん)


えいりんのゴールを見ると同時に、私スタンドの一番下まで駆け降りて行く。


「えいりん!」

下にいるえいりんに向かって私は思いっきり大声で叫ぶ。

彼女もすぐに私に気付いてくれた。


「さわのん。来てくれたんだ。えへへ。優勝しちゃいました」

えいりんは嬉しさ半分、照れくささ半分と言った感じで笑っていた。


「さわのん!」

今度はえいりんが私に叫んで来る。


「今からロビーの前に来て! スタンドから外に繋がる階段を下りて100mのスタート側に歩いて行けば分かるから」

それだけ言うとえいりんはスタンドの下に消えて行った。

私は言われた通り、ロビーに向かって歩く。

幸い、どの県も陸上競技場の大まかな構造は同じらしく、迷うことなくロビーまでたどり着いた。えいりんはすでに来ており、私を見つけるなり駆け寄ってくる。


「やったよ! さわのん」

改めて報告して来るえいりんは、全身から嬉しさが溢れている気がした。


そう言えば、えいりんは中学生の時、トラックで県チャンピョンになったことは無かった気がする。


中学の時は6月、7月、10月にトラックの県大会があるのだが、そのうちの2回は私が。


もうひとつは一学年下の若宮紘子と言う子が優勝したはずだ。

まぁ、その子が優勝した試合、私は故障中で走ってないのだが。


「人生初の県制覇! まぁ、地元の山口県じゃなくて熊本でだけどね」

えいりんの一言に自分の記憶が正しかったのだと思った。

と、私はあることを思い出す。

えいりんの携帯番号を聞かなくては。


「でさぁ、さわのん。携帯の連絡先、教えてよ」

私が言う前に向こうから言って来る。

どうも、お互い考えていたことは同じだったらしい。


赤外線通信を使ってお互いの番号を交換する。

それが終わると同時に「ダウンに行かないと監督に怒られるから。また連絡するね」と早口で喋りながら、えいりんはどこかに走って行ってしまった。


仕方ないので私もバスと路面電車を使って姉のアパートに帰ることにした。


その帰り道、路面電車に揺られながらふと思った。


中学生の時はえいりんとなんども争った。

でも……、仮に今日のあのレースに私が出ていたとして、果たして今の私はえいりんと競り合うだけの力があるのだろうか。


その答えを考えようとすると、水槽に設置されたエアーポンプから出る泡のようにポコポコと色々な考えが浮かんで来るものの、すぐに消えていってしまう。


結局、姉のアパートに戻っても、次の日に実家に帰っても結論は出なかった。


三連休最後の夜、晴美から電話が来たので、その思いを話してみた。


「考えても仕方ないんじゃないかな。今勝てるか勝てないかより、次に勝負する時には絶対に負けないように練習を積み重ねるって決意する方がよっぽど有意義だと思うかな」


そう言われると、私はなにも言えなくなってしまった。



差出人:市島瑛理

題名:初メール

本文:

この前は応援ありがとう。久々にさわのんに会えてうれしかったよ。寮はなかなか忙しい(涙)また時間があったらメールするね


差出人:澤野聖香

題名:私も初メール

本文:

お疲れ。えいりんのレースを見て、大いに刺激をもらったよ。私はまだまだ練習不足だな


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ