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episode2

 「これはこれは、バストラス様。ようこそおいで下さいました」


 その日私はお父様に連れられて奴隷商まで来ていた。

 店に入った途端、太った豚のような男が笑顔でお父様に話しかけてくる。

 

 お父様の隣に並ぶと、余計に酷い。

 私といい勝負かもしれない。


 「お久しぶりです。今日は娘の誕生日プレゼントを買いに来たんですよ」

 「プレゼントに奴隷、ですか?」

 「えぇ、娘がほしいと言ったので。ほら、ミーシャ、挨拶なさい」


 そう言ってお父様は私の肩に手を添える。

 私の顔を見た豚男は一瞬顔を歪めたがすぐに気持ち悪い笑顔に戻った。


 「これはこれは、可愛らしいお嬢さんだことで」

 「……ミーシャ・バストラスです」

 「はじめまして、ミーシャお嬢様。私はドルトン。今日はどのような奴隷をお探しかな?」


 わざわざしゃがんで私に視線を合わせながら言ってくるのが嫌だ。

 可愛らしいなんて社交辞令はそれなりに可愛くて愛嬌のある子に使うから有効なのであって、誰が見ても醜い私などに使っても嫌味にしかならないとどうして分からないのだろう。


 「おススメはあるかい?」


 私の言葉を待たずして、お父様はドルトンに尋ねた。

 すると、ドルトンは素早く立ち上がり奥の方へと案内する。


 「今のおススメはこちらの娘ですね。手に入れるのにかなり苦労したんですよ」

 「ほぉ。……これは美しいな」


 ドルトン一押しだというその娘は、緑の髪にしなやかな裸体の女だった。

 彼女は当たり前のように美しい顔をしている。


 妖精族の末裔だとか、ドルトンが力説するのをお父様は興味深げに聞いていた。


 その様子を横目に私は顔をしかめる。

 辺りを見回してみても、男も女もみんな綺麗な顔の奴らばかり。


 これじゃあ意味がない。


 「あの……」

 「ん? あぁ、なんです、ミーシャお嬢様」

 「もっと醜い子はいないのですか?」

 「は?」


 ドルトンは醜い顔を余計に醜くしながら、気の抜けた声を出した。


 「ここにいる奴隷は綺麗すぎます。もっと醜い子がいいです」

 「……ミーシャ、綺麗じゃない奴隷なんて一緒にいてもつまらないだろう?」


 お父様も意味が分からないというように言ってきたが私は首を横に振った。


 「綺麗な子では落ち着きません。もっと醜い子がいいんです」

 「……まぁ、ミーシャがそう言うなら」


 お父様は少し不満そうであるが、しぶしぶ了解してくれた。

 

 「えっと、ミーシャお嬢様。奴隷は一体どのような用途に使うおつもりで?」

 「ようと?」

 「はい、例えば労働に使うとか遊び相手に使うとかいろいろありましょう?」

 「……遊び相手にしたいです」


 そうですか、と言うとドルトンは違う部屋の扉を開けた。

 そこには私と同い年くらいの子ども達がひしめき合っている。

 泣いている子もいれば、怯えている子、無感情な子もいる。


 こんな幼くして奴隷商に売られるなんて、いろいろ深い理由があったのだろう。

 まぁ、私が知ったことではないけど。


 「ミーシャお嬢様の遊び相手にするのならこのくらいの歳が良いでしょう。少し見て回ってはいかかですか?」

 

 ドルトンのその言葉に頷いて私は子ども達を見て回った。

 子ども達は不思議そうな目で私を見てくる。


 どいつもこいつも、綺麗な顔ばっかり。

 確かにさっき見た人たちには劣るけど、それでも私よりはずっと綺麗だ。

 

 奴隷って綺麗な子ばかりなのかな?

 そんなことを思いながら、歩いていると窓の向こうに興味深い光景を見た。


 一瞬、ゴミかと思ったが違う。

 窓の向こう、外の馬小屋の近くに繋がれているのは人間の男の子だ。


 「ドルトンさん」

 「はいお嬢様。気に入られた子はおりましたか?」


 名を呼べばすぐに飛んでくるドルトンに窓の向こうを指差して尋ねる。


 「あの子をもっとよく見せて下さい」

 「あの子……? いやいや、お嬢様。あれは売り物ではございませんよっ」

 

 私の指の先を見て、ドルトンは焦ったように言う。


 「ダメなんですか?」

 「ダメといいますか……ミーシャお嬢様。近くで見ぬと分かりませんがあれは酷い顔をしております。しかも体中痣だらけですし、文字も読めなければ言葉もろくに話せません。お嬢様の遊び相手になれるような子ではございませんよ」


 呆れた物言いをするドルトンだったが、私は心に喜びを感じていた。

 そう! そういう子を探していたのよっ!


 私は窓の向こうの男の子を見る。

 遠目からでも醜いその子は、私と並んだとしてもきっと私より劣るだろう。


 「お父様! 私あの子がいいです」


 一人で他の奴隷を鑑賞していたお父様に駆け寄って、男の子を指差す。


 「いや、ですからお嬢様! その……バストラス様。あれは売り物ではないのです」

 「……なぜだ?」

 「あまりにも教養が身についてなく、また状態も悪いので……」

 「それでもいいです。お願いします、お父様。あの子がいいんです!」

 「うーん」


 お父様は顎に手を当てて、考えるそぶりをした。

 そんな姿すら、とても美しい。


 あぁ、私もこんな風に美しく産まれてきたかった。


 「ドルトン、あれを普通に売ればいくらだ?」

 「え、あぁ……そうでございますね」


 ドルトンはチラリと男の子を見た後お父様に耳打ちする。

 それを聞いてお父様は一つ頷くと、こう提案した。


 「ではその額の2倍、いや3倍だそう。あれを売ってくれ」

 「しょ、正気でございますか!? あんなのにそんな……」

 「それでも予定していて額の半分にもならん。私はもっと高い奴隷を買ってやるつもりだったのだが……まぁ娘のプレゼントだ。娘の欲しいものをやりたい」

 「はぁ……」


 ドルトンは理解できないという顔をしていたが、金に目がくらんだのか売ることを決定した。


 「ではご購入の契約はあちらで……」

 「あぁ、そうだ。ついでにあの緑髪の娘も購入しよう。あの髪は見ているだけで私を楽しませてくれる」

 「は、はい! 承知いたしました。いや、バストラス様には本当に頭が上がりません」


 ペコペコと頭を下げるドルトンを引き連れてお父様は別の部屋に行ってしまった。

 

 何だか娘思いのよい父を演じているように見えたが、綺麗なもの好きのお父様があんなに簡単に醜い奴隷の購入を許してくれるはずがない。

 どうせ、お父様はあの緑髪の娘が気に入ったから私の奴隷が安いに越したことはないと思ったのだろう。

 まぁ、いい。お父様のすることに文句を言う気はない。

 

 それに、とても素敵なプレゼントを買ってもらった。

 私は窓の外からその子見る。


 名前、何にしようかな?

 洋服は、お兄様たちのお下がりをこっそり拝借しよう。

 あぁ、その前にお風呂ね。ドロドロだもの。お風呂に入れてあげなくちゃ。


 それから、それから……


 思考は止まらない。

 

 あぁ、なんて楽しいの。

 

 私は鎖で繋がれた醜い子をうっとりと見つめていた。


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