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episode16

 その日、家族が増えた。

 

「ほら、この子が新しい妹のミーシャだよ」


 ミーシャと呼ばれた小さな少女は、おびえたように父親の背中に隠れている。

 

 広間に座る沢山の子ども達。

 ギラギラと鋭い視線を向けてくる女達。

 そのすべてが彼女にとっては恐ろしいものだったのだろう。

 

 そんな少女を見て、父親はそっと髪をなでてやる。

 すると少女は少しだけ安心したように笑みを見せた。


 「ふーん、その子がそうなんだ」


 最初に口を開いたのは奥の方の席に座る金髪の少女。

 長い髪を指先で弄りながら、笑顔を見せる。でもその笑顔はどこか歪んでいた。


 「はじめまして。お父様から話を聞いていたわ。ずっと会ってみたかったの」

 「誰?」


 ミーシャは小さく小首を傾げる。


 「母親は違うけど、私は貴方の姉よ」

 「おねえ、さま?」 


 青い瞳が細くなる。

 その歪みにミーシャは気が付かない。


 「そう……。よろしくね、ミーシャちゃん」


***


 頭、痛い。

 ぼんやりとした思考の中で最初に思ってのはそれだった。


 何でこんなに痛いのだろう。

 そう思いながら、軽く目線を右にを動かす。


 ピンクを基調とした女の子らしい部屋。

 ここは、私の部屋だ。

 

 でも、どうしてここに。

 私は、確か……。


 「目が覚めたの?」


 聞こえた声に驚いて、私は逆側に目を向けた。

 

 「あっ……」


 目線の先。

 部屋に置かれた小さなソファ。

 そこに見慣れた金髪の女性が座っていた。


 「どうしてっ」


 思わず目を見開き、起き上がる。

 途端に、記憶が戻ってきた。


 そうだ、私はパーティーで……。


 「どうして、はこちらの台詞よ。私のパーティーの料理に薬を混ぜるなんて随分とおいたが過ぎるんじゃないの?」


 その言葉に私は息を呑んだ。

 

 「な、んで……どうして。お姉様が知っって」

 「やーね。私ってそんなお間抜けさんに見える?」


 固まる私にその人、三番目のお姉様はにこやかな笑みを見せた。


 「貴方が他の兄弟に色々してることなんて承知済みよ。私にも何かしてくるかも、なんて簡単に想像できるでしょう。でもいつ来るか待ってるのも面倒だし、こちらからその場を提供してあげたのよ。そしたら貴方ってばこんなに簡単に食いついてきてくれちゃって。逆に可笑しくて笑っちゃったわ」


 何それ。

 その場を提供? 

 

 「あのパーティーは、わざと?」

 「えぇ。貴方が仕掛けやすいように馴染みのある別邸を選び、お客も厳選したつもりよ? とっても好条件だったでしょう」


 確かに妙に動きやすいし、お姉様を陥れるのには好条件なお客ばかりそろっていた。

 まるで、私に仕掛けてくださいとでもいってるようだと思ってけれど、本当にそう思われていたとは。


 「そんな……」


 頭が真っ白になった。

 私は、お姉様の手のひらの上で踊らされていただけだというの?


 なんて、なんて情けない話だろうか。

 馬鹿みたいに調子に乗って、このざまとは。

 どうして気が付かなかったのだろう。

 上手く行き過ぎていると、躊躇しなかったのだろう。

 どうして、どうして、どうして、どうして私は!


 「うふふ、そんなに落ち込まないでミーシャ。仕方がないのよ。貴方って昔からそう。少し考えれば分かるようなことに気がつけないの。でも仕方がないのよ。馬鹿なんだから」


 笑うお姉様。

 心が砕けていく、何もかも……全部。


 「ふふ、馬鹿な貴方に優しいお姉様がもう一つ教えてあげるわ」


 お姉様は楽しくして仕方がないといったように笑った。


 「今回のことねぇ、全てお父様にお話ししたの」

 「お、とうさまに?」

 「そう、貴方がスワンを使って悪いことしてたの全部ぜーんぶお父様にばれちゃったの!!」


 お父様に話した?

 お父様にばれた?

 だから何? だって、だってお父様は。 


 「お父様は私たちに無関心でしょう。何をしたって口出しなんて」

 「あら、本当にそう思っていて? 馬鹿ねぇ、さすがのお父様だって家の存続にかかわることには口出ししてくるわよ。貴方、自分がどれだけこの家に損害をもたらしたか分かっているの?」


 お姉様の声が、ガンガンと頭に響いた。 

 私が今までしたことが次々と蘇っていく。


 お父様が動く。それは、つまり。

 

 「ミーシャ! 貴方追放よ! だってこんなにこの家に被害をもたらしたんだもの! 可哀想なミーシャ。貴方はもうミーシャ・バストラスじゃない。ただの醜いだけのミーシャなの! あぁ、いい顔よミーシャ。貴方にはやっぱりその顔が似合ってる。その絶望して苦しくて苦しくて仕方がないって顔。醜い貴方に一番お似合いよ。幸せな貴方なんて許せない!」


 すでに私の耳にお姉様の声など届いていなかった。


 追放の二文字だけがグルグルと思考を支配する。

 追放。つまり家を追い出されるということ。

 そして私はただのミーシャになる。


 だたのミーシャ。

 バストラスの名を失った私に残るものなんて何もない。

 あぁ、本当に……私は。

 

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

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