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それはきっとグッジョブ ( ^∇゜)b

 真里菜に乞われての闘い。らしくない。と嘯いてみたが気分は悪くない。むしろ、ぼやけていた景色が少しずつ明晰になっていくのに似た意識に、俺は根拠のない自信を感じていた。


「おにいちゃん……」

 エレーネが俺の服の裾を引っ張る。

「どうした?」

「少しずつ、戦闘圧が洗練されてる」

「戦闘圧?」

「うん。周囲に張り巡らす気合とか殺気のことで、間合いの測り方とか呼吸の安定度とか。内功――血液や経絡など体の中から発する気功が見違えるほど綺麗になってるよ」

「よくわからんな。自覚は無いし」

「あんたは難しい事考えなくていいんだって。それより、あと二人でいいから倒さないと」

「ホント、簡単に言ってくれるよな。一対二がどれだけ大変か解ってんのかよ」

「でもさ、響の能力って人数関係ないじゃん。十人でも二十人でも効果があるなら効果があるし、効果が無ければ効果が無いし。なら、人数が多い方が勝ったときに得じゃない?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや、簡単に言うなって。恥ずかしいことを言うタイミングとかに攻撃されるんだって。その時、一人なら攻撃を躱せるかもしれないけど、十人の攻撃を躱すのって殆ど無理だろ」

「そこをカウンターで」

「いやいや、ありえないから」

「まっ、そう言う訳で、次の相手、四人組で、申し込んじゃったから諦めてくれない?」

「ちょ……さっき、二人って言ったじゃんか。ホントお前わかってないね。二人でも厳しいってのに、四人ってありえない数字だから。無理だから」

 俺が睨みつけると、真里菜は睨み返してくる。

 くそっ、この性格悪の女め。闘えっつーなら、こっちが勝ちやすいようなマッチメイクをしやがれ。それがセコンドの仕事だろ。もし俺が試合を選べるのなら……、えっ、もしかして。

「俺が試合を選ぶことって可能?」

「そんな権利は無い」

 即座に否定したよこの人。もうやだ。

「携帯端末を奪えばいいと思っているんだろ。甘い甘い、スーパーで売られている納豆餃子饅頭のように甘い。マッチメイクのやり方を教えないからな」

 いきなりドヤ顔。

 力づくで――って選択肢はないな。しゃーない。ある程度、妥協しながらも上手くこちらの要望を受け入れるように仕向けるしかないか。俺が腕組みをしながら考え込んでいると、腹部を軽くつつかれた。

「エレーネと組もうよ。それなら二対四だから何とかなるよ。いざとなればエレーネが全員殺ってあげるから」

 恐ろしいことを平然と言うエレーネ。半分くらい冗談で言っていると信じたい。寒い国のギャグってのは理解するのが難しいんだ。発言自体には突っ込まないようにして笑顔で、

「そうするしかないよな。よろしく頼むよ」

 と返答する。

 現実的な選択をしていくことで人は大人になっていく。理不尽な要求を妥協で誤魔化しながら成長していくものなのだ。

「エレーネはもう十個の首輪を集めたから、全部、おにいちゃんにあげるね」

 ニコニコ顔をしている彼女の頭を撫でてから気合を入れ直す。さっきのスイス人はギャグでしかなかったが、今度こそはシビアなバトルになる可能性がある。エレーネの兄だったかのように、シャレにならない人間がゴロゴロしているバトルということを忘れてはいけない。

 大きく深呼吸をしてから、真里菜に視線を送った。


「オッケ。相手はアメリカンドリームチーム。野球、バスケ、アメフト、ボクシングの実力者が勢ぞろい。ってなわけで頑張ってよ」

 相変わらず気楽なもんだ。って、野球とバスケはともかくアメフトとボクシングはかなりヘビーな相手じゃないか?

「あっ、このボクシングの人、ヘビー級ボクサーみたい」

「えっ?」

「大丈夫、大丈夫。小柄だから181cm、100kg位の」

「小柄じゃねーよ」

「えっ、でも小柄って」

「はあっ? 小柄ってそれヘビー級での話だろ。真里菜は格闘技の基本を知らなすぎる。格闘の世界では体重が重い方が有利なんだ。確かにスピードでは軽い方が有利な場合が多いが、それより重さによるパワー増加の方が遙かに影響力がデカいんだよ。俺の体重50kgしかないんだから」

「根性ないなあ。それに、これはボクシングじゃないんだから。能力を上手く駆使した方が勝つ。それだけのこと」


 簡単に言いやがって。不満のある顔で睨みつけると、エレーネは首を傾げる。

「お兄ちゃん、安心して。腱を斬ったら重さも大きさも関係ないから」

 こっちはこっちでルールとか関係なさそうなことをさらっと言う。それ、どう考えても反則負けになるから。と思いつつも、こんな性格のエレーネがどうやって勝ってきたか少しだけ問い詰めたくなる。


「作戦を考えようぜ。今まであまりにも行き当たりばったり過ぎた。俺の能力とエレーネの能力を上手く組み合わせれば、効率よく戦えるはずだ」

 素晴らしい提案をすると、真里菜は人差し指を立てて俺に突きつける。

「その意見はもっとも。けどね。もう時間が無いんだわ。これが」


 そう言うなり、周囲の景色が次第にぼやけていく。やばい。既に敵は接近中か。一端、撤退しようかと思いきや、目の前にどデカいアメリカ人、四人組が立っていた。

 三人が黒人、一人が白人。ヘビー級ボクサーが一番デカいのかと思いきや、身長だけでは二メートルくらいありそうな大男がいる。やばいよそれ、セームシュルトさんじゃね―の。ちっとも面白みのない突込みを自分の中で繰り返す。


「よお、そこのちっこいの。そっちは二人か? ならば、四人ってわけにもいかないよな。一人で相手してやるよ」

 アメフトの服装の白人が、文字通り見下ろしながら話しかけてきた。


「ちょっと待て。計算が合わないだろ。二対二じゃねーと」

「何言ってんだ。子供相手に二人で闘ったらフェアじゃないだろ」

「ビビってんのか? なら、俺たちから四人に戦闘開始を宣言する」

「エレーネも宣言するよ」


 俺たちが戦闘開始の合図を出すと、アメリカ人カルテットはやる気無さそうに、俺を見た。

「仕方がねぇな。とりあえず、戦闘は受けてやる。でも、闘うのは一人ずつにしてやるよ」


 ネットで見たマイク・タイソンを髣髴させる。そんな邪悪な殺気を放っている男が一歩前に出て、ボクシングパフォーマンスを見せた。多分、能力は使用していない。けれども、異様な速さと不気味さを感じる。間違いなくパンチに力がある。あんなものかすっただけでK・Oされてしまうだろう。

「それじゃ、行くぜ」

 ダッシュしようとしたボクサーに向かって、俺は右手を出しながら待ったをする。


「怖気づいたか? 偶にそういう奴いるんだよ。殴られて半死になって首輪を取られるより、単純に降参をした方が痛くないだけマシって考えもある。実際問題、お前みたいな弱そうなのを殴るのはとてもじゃないが気が引くしな」

「嘘コケ。お前、脳震盪を起こした相手も簡単に斃れないように殴り続けていたじゃないか」

「あれは、テクニックだよ。実際問題。スムーズに首輪を奪うことができただろ」


 野次のやり取りをしている今がチャンスだ。


「あのさ、俺、ぶっちゃけ童貞なんだ」

 まずはジャブ攻撃だ。

「お、おう。それがどうした?」

 四人の意識はこちらに向かっている。顔を綻ばせるが、奴らにとって笑い転げるほどの恥ずかしさではないようだ。こっちも辛いところがあるが、一度に奴らを倒すには俺の、自らの恥ずかしいことを発言して笑わせ、窒息させるって能力を使用するしかない。

 連続攻撃をするしかない。

「しかも、皮被りって呼ばれていた」

「……」

「だが、このバトルのおかげで剥けたんだ」

「そ、それは良かったな」

「ああ。けどな、痛かったんだよ。三日間くらいパンツを穿くのが」

「く、それは辛かっただろ、くくく」


 よし、これで止めだ。

「しかも、こいつらに裸を見られて言われたんだ」

「な、何がはははは」

「チッコイね。って」


 何処まで、アメリカンカルテットが話を聴いていたかは判らない。とりあえず、奴らにとって恥ずかしい事だったようで笑い転げている。


「エレーネ手伝ってくれるか? いつ回復するか判らないから」

 そう言って背後にいるはずのエレーネを見ると軽く笑っている。鉄皮面と思っていたが、どの言葉にか羞恥心を感じたのだろうか? って、真里菜、お前、戦闘に混じってないから能力の影響を受けないはずなのに、どうして地面でゴロゴロ転がりながら嗤っている。


 殴りたい誘惑に駆られたが、首輪集めが優先される。俺とエレーネで三十秒ずつ待って首輪を奪い取る。嗤い転げたままのアメリカンカルテットはそのまま空間の歪みが解消されるとともに消えていく。


「いつまで笑い転げてるんだ」

 首輪を持った俺は真理奈に文句を言う。


「だってさ、響も笑わせてくれるけど、あいつら馬鹿だよね。四人同時に対戦を受けるから一緒に首輪を奪われちゃうんだって」

「馬鹿な方が楽でいいだろ」


 口を尖らせながら集めた首輪を見た。

 四つもあると願い事を考えるのも一苦労だ。ドラゴンボールだって、四つも五つも願いが叶えられたら、ウーロンもパンツ以外のアイディアを出さなきゃいけなくなって大変だったろうに。

 俺は、空を見上げながら呟く。


「どうするか」

「ちょっと待ちなさい。それこそ計画的に使わないと……。大きくするとか願うの禁止だからね」

「何をだ?」

「何って、それに決まってるじゃない。って、言えるわけないじゃない。この変態!」

「何が変態だよ。俺は大きくする必要なんかないぜ。それより、真里菜の胸を大きくしてくれ」


 単に、からかったつもりだった。冗談で、真里菜に言ったつもりだった。

 それなのに、一個の首輪が光りだす。


「ああ、あああ、ああああああああああああああ、、、、何? 何これ?」

 目の前の真里菜の胸が明らかに不自然に大きくなっていく。


「駄目だよお兄ちゃん。首輪を持った状態で余計なことを言ったら。願いが一個消化されて、お姉ちゃんの胸が大きくなっちゃった」


 ば、馬鹿な! 叫びたくなる気持ちを抑える。

 また、真里菜にぼろ糞に言われること間違いない。

 それよか、真里菜の胸を大きくする余裕があるのなら、俺の物を大きくするべきだっただろ。自分で自分を殴りたくなる気持ちを抑えていると、顰め面した真里菜が近づいてくる。


 そして、一言だけ言った。


「グッジョブ!!」


-----------------------------------> 続く


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