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凱旋と影

この作品を手に取っていただき、ありがとうございます。


鬱で絶望していた主人公が、異世界で仲間と出会い、少しずつ生きる意味を取り戻していく――


そんな再生の物語を描いています。


拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


第一世界へ戻ると、狭い洞窟の中にドラゴンが横たわっていた。

焦げた鱗の匂いと、血の鉄臭さがまだ充満している。ついさっきまで、俺たちを殺そうとしていた存在だ。


「これ、どうするんですか?」


どうやらこの世界では、ゲームのように異空間へ収納することはできないらしい。だから俺はパンテラに問いかけた。


「討伐証明で角や牙の一部は持ち帰って、あとは放置ですね。帰って報告すれば調査隊があとはやってくれます」


角や牙といっても大きいし、そもそも刃が通るのだろうか、と疑問に思う。ルーダは早速、鱗の隙間に刃を差し込んでいるが、なかなか鱗が取れず苦労しているようだ。


「強力な魔物って、魔石が採れるって聞いたことがある」


キャンシルがおずおずと呟く。


「文献上はね。でも実例は数えるほどよ。長年凝縮された魔素が結晶化する可能性はあるけどね」


メンソールが答えながらも、刃を入れて解体を始めていく。


「俺はドラゴンの肉が気になるな。どうせ腐っちゃうし、できるだけ食べようぜ」


ルーダも解体をしながら、脂があって柔らかそうな部位を物色していく。ドラゴンの肉は俺も気になるが、毒などないのか気になるところだ。

しばらく皆でワイワイと解体していくと、喉の辺りを解体していたキャンシルが喜びの声をあげる。


「あったーーーーー!」


皆も歓喜の声をあげて、キャンシルの周りに集まってくる。水色に淡く輝くクリスタルのようなものがキャンシルの手にあった。


「これはエレメンタラーの魔石ね。キャン、やったね!」


メンソールがキャンシルとハイタッチをしたり、抱き着いたりしている。

魔石は本来、魔素溜まりの奥深くでしか見つからない。移動する存在から採れるなど、前例がほぼないという。ドラゴンは――魔素溜まりそのものだったのだ。


魔石の価値は全員が一年遊んで暮らせるほどのお金が入るそうだ。一攫千金とはいえ、感覚的にはそれほど貰えないのだなと思ってしまうが、どうやら、魔獣が現れてから物流などが止まり、どこの国も厳しいらしく、これでもすごいことなのだという。


そうこうしている内に、ルーダも美味しそうな部位を見付けたらしく、大きな肉を担いでいる。


「さて、帰りましょ!」


俺たちは意気揚々とドラゴンの肉塊を後にしたのだった。


---


「ふぅ~やっと着いたわ~」


ドラゴンとの死闘のあと、長い旅路を経て、やっとの思いでここノクス皇国に帰ってきた。まだ来たばかりで思い入れはないのだが、不思議と故郷に帰ったような感覚に陥る。


「疲れているでしょうけど、まだ明るいですし、このまま報告にいきましょう」


パンテラが言う。

その前に、メンソールが真剣な面持ちで俺を引き止めた。


「……リョウ。戦闘の詳細について聞かれたりするけど、絶対に異能の話はしちゃだめよ」


あれから戦闘がいくつかあったが、それほど苦労しなかったこともあり、異能を発動する気配はなかった。


「それは、何でですか?」

「ホークみたく国の奴隷になるからよ。異能持ちは強力で、国の要となるからいいように使われるわ」


俺の異能――パンテラが名付けたエモーションリンク――が、どれだけの脅威になるか自分では全く分からなかったが、個人が持っている負の感情を引き受け、正の感情を増幅させるのは、戦場――特にパーティー戦が必須となる戦いでは、強力な異能だという。


---


俺たちは討伐証明のための角の一部と、魔石を持って軍部に向かった。

ここ皇国軍管理庁は、他のギルドのメンバーなどでごった返していた。受付にいって、報告書を提出し、角と魔石を机に置くと、ざわめきが止まり、次の瞬間、爆ぜるようにどよめきが広がった。


「これは……魔石ですか。一体どこで手に入れたんですか?」


受付が驚いたように問いかける。


「ドラゴンよ」

「ド……ドラゴン!?」


受付だけでなく、部屋にいた全ての人が驚きの声をあげる。魔石を取得してから第2世界の探索は楽になったものの、通常魔石の入手には多くの犠牲が発生する。この国で強力な魔物から魔石を採取できたのは、初めてのことだという。周りの驚きも納得できた。


「しょ……少々お待ちください。上長に確認してきます」


と言うと急いで出て行った。待っている間、色々な人から何があったのか、どうやって倒したのかなど、様々な声をかけてくる。


「お待たせしました! 私についてきてください!」


その後、軍施設の人間から根ほり葉ほり、尋問のように聞かれた。

スキルの数。ブレスの属性。咆哮の効果。

パンテラが丁寧に受け答えをして、異能についての話を巧みにぼかし、うまいこと帳尻を合わせた。パンテラは普段の丁寧で冷静な判断だけでなく、こういった交渉ごとも得意なようで、淀みない受け答えに感心しきりだった。

魔石は手袋越しに回収され、封印容器に入れられる。


「報告書は作成するように」


そう言うと、上長と呼ばれた男は足早に部屋から出て行った。


---


廊下に出ると、ホークが立っていた。

鋭い目。だが――その奥に、疲労とも焦燥ともつかない影が揺れている。


「……よくやったな」


声は低く、祝福の色はない。魔石の発見などに何の興味も示さず、険しい顔をしていた。


「終わった~遠征より疲れたわね。お金も入ったことだし、今日はパーティーよ!」


外に出ると、メンソールが伸びをした。

討伐したドラゴンについての報奨金は調査が終わってからということになったものの、魔石についての一部報奨金は即金で払われた。どうやら他のギルドの士気をあげる役目もかっているらしい。


「それにしても……ホークが何か変だったな」

「戦場に出すぎておかしくなってきたんじゃないかしら」


ルーダが言うには、ホークという男は命令遂行を忠実に実行し、冷酷なように見えて、ああいう偉業を成し遂げたりすると、自分のことのように嬉しがってくれたそうだ。最初の戦闘のことも、ミスをああいう風に責めるような男ではなかったという話をしていた。


「そういえば、リョウ。仲間なんだからもう敬語やめようぜ。パンテラさんはキャラだけど、お前は違うだろ」


私も別にキャラ作りで敬語なわけじゃないんですが、と隣でパンテラが呟く。


「……分かった。ルーダさん。これからもよろしく」


仲間と改めて呼ばれて、心の底から嬉しい気持ちが沸き上がってくる。前の世界では仲間が欲しくて仕方がなかったが、この世界で手に入れることができた。あの死闘の中で、彼らとの絆が一気に深まったようにも感じた。


この世界に居場所がある。

この世界でどうやって生きていけばいいのか、今の俺にはまだ分からない。

だが一つだけ確かなのは――次の冒険が待っているということだ。ワクワクする気持ちを抑えながら、俺は皆の後を追いかけて行った。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

これで第1章は完結です。


第2章では、新たな街での冒険と事件が待っています。

引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。


次回は3/1(日) 20:00に掲載予定です!

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