表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

悪夢

この作品を手に取っていただき、ありがとうございます。


この作品は、「もう一度やり直せたら」という想いから生まれました。


鬱で絶望していた主人公が、異世界で仲間と出会い、少しずつ生きる意味を取り戻していく――


そんな再生の物語を描いています。


拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


「クソっ……強制転移された!」


珍しく、パンテラが毒を吐いた。

周囲を見渡すと、所々が氷に覆われた巨大な洞窟だった。

天井は高く、奥行きも広い。

まるで何かの儀式場のような、不気味なまでに整った空間。

どうやら、戦闘用に用意されたかのような場所へと転移させられたらしい。


そして――その中心に、鎮座している存在。

先ほど相手にしたワイバーンよりも、一回り以上……いや、比較すること自体が馬鹿げているほど巨大だ。圧倒的な体躯。重厚な鱗。呼吸するだけで、周囲の空気が震えているように感じる。


「……ドラゴンなんて、歴史上でも一例しか確認されていないはずよ」


メンソールの声は明らかに硬い。

氷の洞窟にいるというのに、彼女の額からは汗が噴き出していた。

普段の彼女からは考えられない、動揺の色。


「とりあえず、相手のスキルを見極めながら進めるわ。今までと同じ配置で、慎重に行きましょ」


メンソールの言葉に、全員が無言でうなずく。

それぞれがマナヴェールを展開し、俺とルーダが並走する形でゆっくりと前へ進んだ。


――怖い。

今までは、仲間に守られているという実感があった。

助けられてきたからこそ、ここまで戦えていた。

だが今は違う。

目の前の存在感が、恐怖として直接、心の奥底から沸き起こってくる。

まるで本能が「逃げろ」と叫んでいるようだ。


「リョウ。安心しろよ」


ルーダが、俺の不安を見抜いたように声をかけてくる。


「俺が、最後まで守ってやるから」


……その言葉とは裏腹に、彼の顔は緊張で引きつっていた。

普段なら笑顔で話しかけてくるのに、今は顔に余裕が感じられない。

それでも、俺を安心させようと声をかけてくれる。


「リョウは少し距離を取って様子見。ルーダ、正面で足止めして」


メンソールの指示に従い、俺はドラゴンの横へと移動して距離を開ける。

ルーダは、深呼吸を一つしてから、ドラゴンの真正面に立った。


「――マドハンド!」


メンソールが言葉を発すると、地面が蠢き、無数の手が這い出してくる。

ドラゴンの巨体を絡め取るように、四肢へと巻き付いた。三十秒間、対象をその場に拘束するエレメンタラーの魔法だ。


「シールドディフェンス!」


続いて、ルーダが盾を構えると、魔力が盾に満ちていき、淡い光が盾全体を包み込む。


次の瞬間だった。

ドラゴンは小刻みに爪を振るって攻撃していたが、突然――


「グォォォォォォォォォ――!」


低く、地を這うような唸り声をあげると、身を縮め――突進。

凄まじい衝撃音。

マナヴェールに走る、嫌な音。

マナヴェールにヒビが入り、ルーダは盾ごと弾き飛ばされた。

だが、後方にキャンシルが展開していたマナヴェールがあったため、ルーダの身体だけが中央付近まで吹き飛ばされる。


「……一つ目は、吹き飛ばし効果付きの体当たりね」


メンソールが冷静に分析する。


「ブレスは確実に持ってる。魔獣のスキルは最大で五つ……残りは、せいぜいあと三つってところかしら」


基本的には二つか三つしかスキルを持たない魔獣が多いらしいが、ドラゴンともなれば話は別だ。その一つ一つが致命傷になり得る。


強烈なスキル攻撃に怯みながらも、高火力の攻撃を畳みかけるため、心を落ち着かせて待機する。

その間にキャンシルがルーダの壁をヒールで治していく。


――怖い。

拘束されているとはいえ、通常攻撃ですら恐怖を感じる。

それでも、正面に立ち続けるルーダの精神力の強さには、本当に感心するしかなかった。

九十秒。

長く、重く感じる時間が過ぎた。


パンテラの攻撃に合わせ、高火力スキルを叩き込むため、俺は距離を詰める。


「――バカ! スキル発動まで待って!」


メンソールの叫び。

同時に、ドラゴンの翼が大きくはためいた。薙ぎ払い。

衝撃が全身を襲い、俺は地面へと叩きつけられる。

マナヴェールに深い亀裂が走ったが、マナヴェールのおかげで身体に致命的なダメージはないものの、激痛に悶える。視界が歪む。


「――皆、今よ! いくわよ!」


パンテラが描いていた魔法陣が輝き、ドラゴンの背後ですさまじい爆発が巻き起こる。

その瞬間に合わせて、メンソールが空から小さな隕石を落下させ、巨体に叩きつけた。


「風刃脚!」


俺も蹴りを放つと、脚の魔石が光る。不可視の刃が、ドラゴンの鱗を切り裂いた。


――効いている。

少なからずドラゴンにダメージを与えている手応えを、全員が感じ取った。

先ほどまでの張り詰めた空気が、わずかに緩んでいくように感じる。

キャンシルのサポートも的確だった。

ダメージを受ければヒールで治してくれるし、防御魔法や後方に吹き飛ばされないような立ち回りなど、すべてが噛み合っている。戦闘がスムーズに進んでいる手応えを感じた。


ドラゴンは戦意を失ったかのように身を縮め、防御姿勢を取り始めた。

ここぞとばかりに、メンバーが攻撃を叩き込み始める。


しばらく時間が経ち、それぞれがほっとし始めたところ――


急に、ドラゴンが立ち上がった。


「――来るわ! ブレスよ! キャン、防御を最大に!」


メンソールの声が洞窟に響く。

キャンシルが防御魔法を展開し始めた、その刹那。


咆哮。


洞窟全体が揺れるほどの、圧倒的な轟音。

とんでもない轟音と共に放たれた咆哮は、音というより、意思そのものを叩きつけられた感覚だった。

まるで全ての世界を真っ黒に塗りつぶすかのように――

恐怖。

不安。

絶望。

それらが、一気に心を塗り潰していく。

膝が、がっくりと崩れ落ちる。

立ち上がるどころか、呼吸すらまともにできているのか分からない。いや、呼吸すらしているのか不安になるほど、打ちのめされている。


何とか周囲を見渡すと――

――誰も、動けていない。

自分だけではない。

声も出せない。

顔も上げられない。

誰一人として、声を発することも、顔を上げることもできないでいる。


咆哮をし終えたドラゴンを見上げると、まるで笑っているかのように、俺たちを見下ろしていた。

あれだけ的確に指示を出していたメンソールも。

勇敢にドラゴンの目の前で戦っていたルーダも。

ずっと冷静だったパンテラも。

後方から常に正確な判断でサポートし続けていたキャンシルも。

誰も何もできず、ドラゴンがゆっくりと動き出すのを、誰も止めることができずにいた。


俺自身も、絶望に塗り潰されていた。

走馬灯のように、様々な出来事が頭の中に流れ込んでくる。

その中でも特に強烈に思い出すのは――鬱状態だった、あの頃のことだった。

あのときの絶望も、半端なかった。

今回と比べると、どうだろうか。

絶望感の種類が、そもそも違う。

あのときは、現在から未来への絶望感でいっぱいだった。何も見えなかった。だけど今は――どうにか希望を見つけようともがきながら感じている絶望だ。


そう、この状況をどうにかして打開したい。

そんな気持ちでいっぱいで、頭の中はぐるぐる回り、血液が沸騰しそうなほど、鼓動が早まっている。

――そして、その想いが限界に達した瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


戦闘は時間制限付き協力プレイSRPGをイメージしています。


引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。


次回は2月20日(金) 20:00掲載予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ