討伐前夜
この作品を手に取っていただき、ありがとうございます。
この作品は、「もう一度やり直せたら」という想いから生まれました。
鬱で絶望していた主人公が、異世界で仲間と出会い、少しずつ生きる意味を取り戻していく――
そんな再生の物語を描いています。
拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
焚火が宵闇を押し返す。
夜空には月と星。
昼間の暖かさが嘘のように、冷気が肌を刺した。
地球と同じような夜空だ。
死ぬことしか考えていなかった頃の自分なら、こんな星空も目に入らなかっただろう。
美しいと思える。それが少しだけ嬉しい。
「明日は討伐対象のワイバーン戦か。リョウはもう戦闘に慣れたか?」
ルーダはここまでの戦闘中ずっと気を使ってくれており、ナイトという職の関係で身を持って守ってくれていた。
死にたいと思っていた人間が、誰かに守られる価値がある。
そう思わせてくれることが、不思議で、胸の奥が温かくなった。
「ええ、おかげさまで。そういえばスキルって6個しかないんですか? 皆はもっと使っているような気がするんですが」
今までの戦闘で教えられたのは、全員共通で使えるマナ・ヴェールというものと、「正拳」を含むモンク特有の5つだった。
「スキルは職ごとに数十個解明されているのですが、基礎魔素量の関係で最初は6個しかセットできないんですよ。魔獣を倒して基礎魔素量が増えていけば、最大11個まで使えるようになりますよ」
そう言われてみれば、皆もそんなに種類は多くなかった気がする。
「他の職のスキルはセットできないんですか?」
「できないよ」
キャンシルが首を横に振る。
「魔石の色ごとにスキルが決まっていて、装備も魔石に相性があるからね」
それぞれ剣や杖、鎧やローブなど、職によって特徴があるのはそのせいかと納得した。
「スキルの数も違うよ~。魔石の仕組みが……なんだっけ、非線形方程式? それに置き換えられて、その解がスキル発動の条件なんだって~。でもそれ入力するの大変だから、スキル名で置き換えてるの」
キャンシルはそう言って、「仕組みはよくわからないけど」と付け加えた。
解明がされているといったのは、解が見つかったということか。職によってスキルの数が違うのもなんとなく理解ができた。
「あと、異能を持ってる人が極まれにいるよ~」
キャンシルが付け加える。
「うちの国にはホークっていう人がいて、ホークアイっていう戦場全体を見渡せる異能を持ってるの。彼がエースたる所以なの」
チームのリーダーとして最適な能力だ。
他にも持っている人がいるのかと聞こうとしたが、メンソールが話を遮った。
「明日の確認よ」
メンソールが焚火の向こうから全員を見渡す。
「ルーダはワイバーンの進行を阻止。リョウは左側面から攻撃。後ろと右側はパンチラが黒魔法を設置するから、指示がない限り近づかないでね」
黒魔法というのは、地面に魔法陣を設置して時間で発動したり、踏んだ時に発動するブラックメイジという職のものらしい。
「私とキャンはルーダとリョウが押されないように後ろにいるわ」
「ヒーラーはマナ・ヴェールの回復や強化などはできるけど、身体を治したりはできないから、マナ・ヴェールが破壊されたらすぐに離脱。3分経ってなければ、転移石近くで待機」
漫画やゲームのように、身体を治したり、生き返らせたりする術はないらしく、どんな戦闘でも緊張感が漂う。
「ま、ワイバーンはそこまで強いってわけでもないし、滅多なことにはならないわよ」
その言葉が、妙に引っかかった。
でも、気のせいだろう。
「それじゃ、見張り番残して寝ましょ」
野営には慣れてきたが、身体に疲労が溜まっている。
それでも眠れない。戦闘の後はいつもそうだ。身体が覚醒し続ける。
明日はワイバーン。今までとは違う。
もし、マナ・ヴェールが破壊されたら——
見張り番の役をかって出て、一人焚火を見つめる。
炎が揺れる。パチパチと薪が爆ぜる音だけが夜の静寂に響く。
明日の戦闘を考えていると、遠くから咆哮が聞こえた。
ワイバーンか。
音は、思っていたより近い。
いや——近いだけじゃない。
低く、重く、空気が震えるような咆哮。
背筋が凍る。
逃げろ、と身体が言っている。
焚火の炎が一瞬、強い風に揺れた。
風向きが変わったのか、それとも——
俺は立ち上がり、音がした方角を見つめた。
闇の向こうに、何かがいる。
読んでいただき、ありがとうございます。
討伐前夜の話いかがでしたでしょうか?
次回はワイバーン討伐戦が始まります。
次回、お楽しみに。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
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次回は2/18(水) 20:00に掲載予定です。




