初戦闘と第二世界
この作品を手に取っていただき、ありがとうございます。
この作品は、「もう一度やり直せたら」という想いから生まれました。
鬱で絶望していた主人公が、異世界で仲間と出会い、少しずつ生きる意味を取り戻していく――
そんな再生の物語を描いています。
拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
「さて、みんな揃ったわね」
メンソール、ルーダ、キャンシル、俺。そして――もう一人。
綺麗なブロンドの長髪にローブを纏った、俺と同じくらいの背丈の若い男が立っていた。
「昨日紹介できなかったけど、うちのギルドメンバーの一人。パンチラさんです!」
「パ・ン・テ・ラです!」
男が即座に訂正する。
「メンソさん、いつもそうやって呼ぶから定着しそうで怖いんですが」
「どっちでも同じでしょ」
「同じじゃないです!」
丁寧な口調で抗議するパンテラだが、メンソールは聞こえないかのように話を続けた。
「それで、リョウにはこの装備ね。空きがないから前衛のモンク装備一式」
手渡された籠手は妙に重い。金属の表面に、黄色い水晶のようなものが埋め込まれている。
「これ、何ですか?」
周りを見渡すと、メンソールたちの剣や杖にも同じような石が光っていた。
「第二世界で採れた魔石よ。国に100個くらいしかない貴重品だから、失くさないでね」
――100個しかない?
そんな貴重なものを、素人の俺に?
不安が頭をよぎる。それに、モンクって何だ? 第二世界って?
質問しようと口を開きかけたが――
「さ、行きましょ」
メンソールがさっさと歩き出す。
「えっ!?」
俺と同時に、隣でパンテラも声を上げた。
「ちょっとメンソさん。今の話を聞く限り、彼は初めてで、しかも何も知らないように聞こえるんですが……」
「そうよ。その通りだもの」
「はっ? いやいや、命に関わることなんですから、ちゃんと説明しないと」
「うるさいわね。しょうがないでしょ、昨日会ったばかりで時間なかったんだから」
パンテラは呆れたように黙り込む。
俺も何も分からないまま戦うなんて不安すぎる。それに、命に関わるって……。
「最初はスノーラビットくらいを相手にするわよ。習うより慣れろ。よ!」
妙に似合わないウィンクを飛ばされ、不安は一層増すばかりだった。
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城壁を出ると、草原が広がっていた。
その先には森や山が見える。周囲には残雪が点在している。
スノーラビットという名前からして、雪国なのだろうか。
「あの、第一世界と第二世界って何ですか?」
歩きながら、少しでも不安を解消しようと尋ねる。
「第一世界は今いるここで、第二世界は魔獣だけが住む別の世界です」
パンテラが振り返って答えた。見た目通り、丁寧な性格のようだ。
「100年前に大陸中央に穴が開いて、そこから行けるようになりました。開拓に何百万人もの犠牲を払って、ようやく手に入れたのがその装備の魔石です」
……何百万人。
それほど危険なのか。
「そんなに魔獣って強いんですか?」
「第二世界は魔素で満たされていて、魔獣はそれを使ってスキルを発動します」
パンテラが続ける。
「こちらの世界に出てきた魔獣は魔素がないため弱体化してますが、強い相手だと魔石の力で第二世界に転移して戦うしかない。向こうなら、こちらもスキルが使えますから」
なるほど。
弱い魔獣は第一世界で倒せるが、強い魔獣は第二世界で戦うしかない、と。
「それに……かなり強い魔獣だと、向こうから第二世界に強制転移させてきますしね」
強制転移――?
次々と湧いてくる疑問を整理しようとした、そのとき。
「おしゃべりはそこまで!」
メンソールの声が響いた。
「スノーラビット2匹。準備はいい?」
前方、草原の向こうに白い影が見える。
「リョウ、最初だけ教えるわよ」
メンソールが俺の肩を叩く。
「転移したら『マナ・ヴェール』って叫んで。5メートル四方の壁が出るから。あとは、ルーダの5メートル横について並走する。それだけ」
「え、それだけって……」
「あ、あと転移した位置に転移石が浮かんでるんだけど、それを破壊されたら全滅するから」
その言葉に衝撃を受け、動揺していると――
「転移するよ」
メンソールが装備の魔石に手をかざす。
瞬間、視界が歪んだ。
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気づくと、景色が変わっていた。
さっきまで草原だったのに、今は薄紫色の霧のようなものが漂っている。
空も微妙に色が違う。
そして、風景が途中でぷつりと途切れている。まるで世界の端のようだ。
「これが……第二世界?」
「魔素が濃いから、呼吸するだけで力が湧いてくる感じがするでしょ」
メンソールの言う通り、体が軽い。不思議な感覚だ。
「ほら、来たわよ」
前方から、白い毛並みの兎――というより、イノシシくらいの大きさ。
額には鋭い角が生えた化け物が2匹、こちらへ向かってくる。
赤い目が、俺たちを睨んでいた。
鼓動が早くなる。
初めての戦闘。果たして、うまく戦えるだろうか……。
「大丈夫。いざとなったら俺が守るから」
「私もヒールかけるから大丈夫だよ」
ルーダとキャンシルが言葉をかけながら動き出す。
「マナ・ヴェール!」
指示を思い出して叫ぶと、透明な壁のようなものが目の前に現れた。
同時に、体の周りも何かに覆われた感覚がある。
「ルーダの横、5メートル離れて走って! 魔獣を後ろに行かせないで!」
言われるがまま、ルーダの横へ移動する。
ルーダは剣を構え、1匹のスノーラビットと対峙している。
俺の前にも、もう1匹が迫ってきた。
魔獣は壁に向かって突進してくる。
ドンッ!
衝撃で足が止まる。
だが、魔獣も壁に阻まれて止まった。
(突き抜けられないのか……!)
それなら、と。
俺は思いっきり殴った。
ゴッ。
手応えはあるが、さして効いている様子はない。
魔獣は再び壁に体当たりを繰り返す。
「30秒で魔素が10溜まるから、籠手のカウンターが0になったら『正拳』って叫んで殴って!」
メンソールの声が飛んでくる。
籠手を見ると、確かに数字がカウントダウンされていた。
魔獣が目の前で暴れているせいで、時間が妙に長く感じる。
(……5、4、3……)
「正拳!」
叫んで魔獣に向かって殴ると、黄色い閃光が走った。
ボンッ!
魔獣の顔の一部が、はじけ飛ぶ。
やった……のか?
そう思った瞬間――
魔獣が何か叫びながら角を突き出してきた。
角が壁を貫通し、俺の体に突き刺さる。
「っつ!」
鋭い痛みが走ったが、見た目ほどではない。身体も無事だ。
ただ――目の前にヒビのようなものが、うっすら見える。
次の瞬間。
「ロックランス!」
メンソールの声が響いた。
目の前の魔獣の足元から尖った岩が突き出し、魔獣を貫いた。
魔獣が崩れ落ちる。
「こちらも終わったぞ〜。初めての戦闘はどうだった?」
横を見ると、ルーダがもう1匹を倒し終え、手を振りながら歩いてくる。
「めちゃくちゃ怖かった。だけど……」
元いた世界で、何年も感じられなかった達成感が込み上げてくる。
「魔素が溜まるまで最低3分は帰れないから、スノーラビットを回収しましょ。肉は美味しいわよ〜」
メンソールが魔獣に近づいていく。
キャンシルやパンテラも何か話しかけてくれたが、俺はしばらく握った拳を見つめたまま、何も言えなかった。
(……俺でも、やれることがあるんだ)
心臓がまだ早鐘を打っている。
怖かった。痛かった。
でも、この感覚は嫌いじゃない。
転移の光が俺たちを包み込むまで、俺はずっとその拳を見つめていた。
今回はパンテラが初登場しました。
パーティメンバー紹介:
メンソール:エレメンタラー
ルーダ:ナイト
キャンシル:ヒーラー
パンテラ:ブラックメイジ
リョウ:モンク
リョウも少しずつ戦えるようになっていきますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました!
次回は2月17日(火) 20:00に掲載予定です。




