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遣らずの雨  作者: 暦海


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8/9

心からの想いを

「…………他者の、願い……」

「……ええ、澄玲(すみれ)さま。そして、どうやらそのお能力(ちから)は貴女にほど近い距離にいる時のみ効力を発揮するようですね」

「…………」


 そう、穏やかに微笑み告げる翠明(すいめい)さま。……私自身ではなく、他者の願い……確かに、今のお話から判断するとその可能性は否めません。……ですが、彼はどうしてそれに――


 

「……先日、澄玲さまが私になさってくれたお話に関してですが……実は、その中に些か引っ掛かりを覚えまして。大切なご両親がご自身をおいて去っていくのを、ただ黙って見送る他なかった――貴女は、そのように仰っていましたよね?」

「……ええ。ですが、それがどうなさって……」

「……でしたら、何故その時には雨が降らなかったのでしょう。その時こそ、ご両親を引き留めるべく最も降雨(それ)を願ったはずなのに」

「……っ!!」


 刹那、脳裏に稲妻(ひかり)の如き衝撃が。……確かに、そうです。あの時、私は確かに願っていました。無意識などではなく、極めて明確に。ですが、あの時は雫一つ落ちて来ることはなく――



「……本当に、申し訳ありません。澄玲さま」

「……へっ?」

「……もはやお伝えするまでもないかもしれませんが、雨を願っていたのは私です。少しでも長くこちらに――少しでも長く貴女と共にありたいという、私の身勝手な願いです。……尤も、あのお話を聞くまではただただ僥倖とばかり思っていましたが」

「……っ!! ……そ、それはどういう……」

「……ですが、お話を聞き甚く心が痛みました。澄玲さまにご負担を掛けていたのは、紛れもなくこの私だったのだと。なので……どうか、明日こそは雨が降らないようにと一心に願い続けていました。それで、数日後……本日、ようやく上空に見事な青が広がり安堵を覚えました」

「……翠明さま」

「……ですが、遠ざかれば遠ざかるほど貴女への想いは募っていくばかり。そして、村を出る手前にてどうしても(こら)え切れなくなり、甚だ申し訳なくもこうして戻って来てしまいました。どうしても、貴女ともう一度だけでもお会いしたくて……」



 すると、自嘲のような微笑でそうお告げになる翠明さま。そんな彼の表情に、声音に私までも胸の痛む思いがして。……ですが――


「……すみません、それはどういうことでしょう?」

「……へっ?」

「最後の、もう一度だけでもお会いしたくて、の部分です。どうして、もう一度だけなのでしょう? 直接的な言葉ではないものの、私は貴方への気持ちを打ち明けたつもりでしたのに……」

「……ですが、澄玲さま。あれは、貴女がご自身の意思で雨を願っていたと誤解を――」

「――だから、この気持ちは私の勘違いだったと? そんなはずがないでしょう。貴方が去ったあの後も――そして、事実を知った今だって、私はこんなにも深く貴方を想っているというのに……」

「……っ!! 澄玲さま……」


 そう、じっと見つめ伝える。すると、弾かれたように目を見開く翠明さま。心做しか、その綺麗な瞳は些か潤んでいる気がして。……ふふっ、全く困った方ですね。


 すると、そっとご自身の胸に手を添え呼吸を整える翠明さま。そして、いつの間にやら虹の掛かった鮮やかな空の下、陽だまりのような笑顔で言葉を紡ぎます。



「――心から愛しています、澄玲さま。どうか、今後もずっと――生涯、私と共に生きてくださいませんか」






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