心からの想いを
「…………他者の、願い……」
「……ええ、澄玲さま。そして、どうやらそのお能力は貴女にほど近い距離にいる時のみ効力を発揮するようですね」
「…………」
そう、穏やかに微笑み告げる翠明さま。……私自身ではなく、他者の願い……確かに、今のお話から判断するとその可能性は否めません。……ですが、彼はどうしてそれに――
「……先日、澄玲さまが私になさってくれたお話に関してですが……実は、その中に些か引っ掛かりを覚えまして。大切なご両親がご自身をおいて去っていくのを、ただ黙って見送る他なかった――貴女は、そのように仰っていましたよね?」
「……ええ。ですが、それがどうなさって……」
「……でしたら、何故その時には雨が降らなかったのでしょう。その時こそ、ご両親を引き留めるべく最も降雨を願ったはずなのに」
「……っ!!」
刹那、脳裏に稲妻の如き衝撃が。……確かに、そうです。あの時、私は確かに願っていました。無意識などではなく、極めて明確に。ですが、あの時は雫一つ落ちて来ることはなく――
「……本当に、申し訳ありません。澄玲さま」
「……へっ?」
「……もはやお伝えするまでもないかもしれませんが、雨を願っていたのは私です。少しでも長くこちらに――少しでも長く貴女と共にありたいという、私の身勝手な願いです。……尤も、あのお話を聞くまではただただ僥倖とばかり思っていましたが」
「……っ!! ……そ、それはどういう……」
「……ですが、お話を聞き甚く心が痛みました。澄玲さまにご負担を掛けていたのは、紛れもなくこの私だったのだと。なので……どうか、明日こそは雨が降らないようにと一心に願い続けていました。それで、数日後……本日、ようやく上空に見事な青が広がり安堵を覚えました」
「……翠明さま」
「……ですが、遠ざかれば遠ざかるほど貴女への想いは募っていくばかり。そして、村を出る手前にてどうしても堪え切れなくなり、甚だ申し訳なくもこうして戻って来てしまいました。どうしても、貴女ともう一度だけでもお会いしたくて……」
すると、自嘲のような微笑でそうお告げになる翠明さま。そんな彼の表情に、声音に私までも胸の痛む思いがして。……ですが――
「……すみません、それはどういうことでしょう?」
「……へっ?」
「最後の、もう一度だけでもお会いしたくて、の部分です。どうして、もう一度だけなのでしょう? 直接的な言葉ではないものの、私は貴方への気持ちを打ち明けたつもりでしたのに……」
「……ですが、澄玲さま。あれは、貴女がご自身の意思で雨を願っていたと誤解を――」
「――だから、この気持ちは私の勘違いだったと? そんなはずがないでしょう。貴方が去ったあの後も――そして、事実を知った今だって、私はこんなにも深く貴方を想っているというのに……」
「……っ!! 澄玲さま……」
そう、じっと見つめ伝える。すると、弾かれたように目を見開く翠明さま。心做しか、その綺麗な瞳は些か潤んでいる気がして。……ふふっ、全く困った方ですね。
すると、そっとご自身の胸に手を添え呼吸を整える翠明さま。そして、いつの間にやら虹の掛かった鮮やかな空の下、陽だまりのような笑顔で言葉を紡ぎます。
「――心から愛しています、澄玲さま。どうか、今後もずっと――生涯、私と共に生きてくださいませんか」




