願い
「…………あの、どうして……」
そう、覚束ない口調で尋ねる私。……いったい、どうしてここに? だって、雨は先ほど降ったばかり……なのに、今彼がここにいるのは甚だ不可解で――
「……やはり、そういうことでしたか」
「……へっ?」
そんな困惑の最中、ポツリと呟く翠明さま。……そういうこと? それは、いったいどういう――
「……心から強く願うことで、実際に雨を降らせる能力がある……先日、貴女はそのように仰っていましたね。澄玲さま」
「……へっ? あ、はい……なので、きっとこの雨も私の願いにより……」
「……ですが、だとしたら今の状況に些か説明がつかないかと。何故なら、本来なら私は今頃とうにこの村を後にしているはずですし、澄玲さまご自身もそのようにお考えだったかと思われます。ならば、私が戻って来ることを願ってくださっていたとしても、もはや雨が降ることを願う理由はないものかと」
「……確かに、そうですね……」
すると、柔和に微笑みそう告げる翠明さま。……確かに、それはそうかも。仮に雨が降っても、もう戻って来ることはない――確かに、私はそのように考えていたのですから。……だとしたら、偶然? ……いえ、でも『この降り方』は私が願った際のものとほぼ同様ですし……いえ、それ以前にどうして翠明さまはお戻りに――
「……日照りで困っていた方々を救うべく、雨を願うことで本当に……もちろん、それか貴女の本心であることは疑う余地もありません。貴女は、本当に優しく暖かなお心の持ち主なので」
「……へっ? あっ、いえそんなことは……」
「……ですが、そもそもそれは誰の望みだったのでしょう? その時々の状況にて、最も雨を欲していたのはどなただったのでしょう」
「……誰の、望み……っ!! ……まさか」
すると、柔和に微笑みそう口にする翠明さま。……誰の、望み……それは、もはや考えるまでもなく、あまりにも明確で――
「……ええ、澄玲さま。恐らくですが……貴女のお能力はご自身の願いではなく、『他者の願い』に応じ雨を降らせるという能力です」




