天候の行方
「……申し訳ありません、澄玲さま。もし差し支えなければ、もう一晩だけお泊めいただけたらと」
「ええ、もちろんです翠明さま。そして、謝罪の必要もございません。天候の行方は、天に在します神さまに委ねるもの――人為ではどうにもなりませんので」
「……寛大なるお気遣い、深く痛み入ります」
それから、翌日の夕さり頃。
そう、お言葉の通り甚く申し訳なさそうに懇願なさる翠明さま。ですが、謝罪の必要などありません。天候の行方など、本来であれば私達人間の意思では如何ともしがたいのですから。
……ところで、この天候ですが……いえ、きっと偶然でしょう。二日続けての雨など、別段珍しくもありませんし。
「……あの、度々申し上げますが、お気遣いなさらなくて結構ですよ? 翠明さま。来る旅立ちに向け、ゆっくりお身体をお休めいただけたらと」
「いえ、澄玲さま。ただお世話になるだけなど、あまりの申し訳なさゆえ息絶えてしまいそうですので。……それに、少しでも澄玲さまのお役に立てるのであれば、私はとても嬉しいのです」
「……そう、ですか」
それから、二週間ほどが経過して。
そう、申し訳なく告げる私に柔らかな微笑で告げる翠明さま。何のお話かと言うと――本来、この家の主たる私がすべき雑務を、彼が率先してなさってくださっていることで。
ちなみに、彼の言葉は私が頑なに宿泊代の受け取りを拒否していることに関してですが……ですが、お気になさることなどないのに。かのご家族からの施しゆえ生活には困っていませんし……そもそも、彼を引き留めてしまっているのは他ならぬ私なのですから。
「……あの、澄玲さま。やはり、そろそろお暇を――」
「――っ!! 駄目です! ……あっ、その……その、申し訳ありません。卒然、大きな声を。……ですが、この雨では危険ですので、お急ぎかとは思いますがどうかもう少し収まるまでは……」
「……澄玲さま……はい、畏まりました。寛大なるご配慮、大変痛み入ります」
それから、数日経た朝の頃。
そう、恭しく頭を下げ告げる翠明さまの言葉を遮る形で引き留める私。きっとお急ぎのところ申し訳ないとは思いますが、このような状況で先を行かせるわけにはいきません。もしも、万が一にも道が崩れてしまえば、あの方のように……それだけは、何としても避けなければなりませんから。
……ですが、もはやこのまま黙秘を続けているわけにもいかないでしょう。なので――
「……申し訳ありません、翠明さま。この状況は――翠明さまがお越しになったあの日以降、絶えず雨が降り続くというこの不可解な状況は、他ならぬ私のせいなのです」
「…………へっ?」
その日の宵の頃。
そうお伝えすると、呆気に取られた表情をなさる翠明さま。ええ、ご尤もな反応でしょう。本来、神さまに委ねるべき天候を、よもや人為的に操っていたなどと聞かされたら。
……ですが、これは紛れもなく事実。なので、詳細に説明すべく再び徐に口を開き――




