雨宿り
さて、改めてですが――烏の如く艶やかな黒髪に、深く澄んだ瞳。そして、絹のような白い肌を備える見目麗しき男性で。自分自身、いわゆる面食いだとは思っていませんが、それでも思わず見蕩れてしま……まあ、それはともあれ――
「……ええ、もちろんです翠明さま。この雨の中を歩くのは大変お辛いでしょうし、何よりこの先は危険が伴います。なので、是非とも休まれていくのが宜しいかと。私は澄玲と申します」
「心深きご親切、甚だ痛み入ります澄玲さま」
そう告げて、家の中へとご案内を。この先の道は些か柔らかくなっており、通常の状態ならば差し支えないのですが、これほどの雨だと土砂崩れが生じる可能性も皆無とは言えません。なので、そういう意味でも承諾しないという選択肢はありません。
すると、恭しく頭をお下げになった後、柔らかな微笑でお入りになる翠明さま。そのご様子にふっと鼓動の高鳴りを覚え、さっと目を逸らします。
……いえ、流石に問題ないでしょう。ただ、頗る感じの良い方だと思っただけ。ただ、それだけのことなのですから。
「……とても、美味しいです」
「……お褒めに与り恐縮です、翠明さま」
それから、一時間ほど経て。
パチパチと火の灯る囲炉裏の前にて、ぱっと破顔しそう伝えてくださる翠明さま。有り合わせの食材でご用意したに過ぎないのですが、喜んでいただけたのなら何よりです。……それにしても、本当に美味しそうに――さながら幼い少年のような笑顔で召し上がってくださるので、こちらも甚く作り甲斐があるというものです。
その後、しばし他愛もないお話を交わしそれぞれ就寝へと入る私達。久方ぶりの――それも、頗る好感の持てるお客さまで、私自身とても心地の好い時間でした。なので、一抹の不安はありますが……ですが、きっと大丈夫でしょう。ええ、きっと――




