王冠と緑の花(?視点)
すみません、色々ミスってしまいました。
ここはこれからの流れのポイントとなるお話で第三者視点となっております。
今見ていた書類をぐしゃりと握り潰す。
また自給率がさがっている……。
この国、グローヴァーリブ国は王族の崇拝を高めるため、女神信仰を排除した国だ。
父である国王が即位すると、自分の力を誇示したかったのか、女神信仰を否定して神殿を武力を持って排除した。
その結果どうなったか。
植物の育成障害が度々起き、自給率が緩やかに落ちるようになったのだ。
その落ち方があまりにも緩やか過ぎて、深刻な状態になるまで誰も気づかなかった。
今では麦や野菜などの植物の収穫が少ないせいで価格が高騰し、国民の生活にも影響が出始めている。
それなのに国王は、自給率の落ち込みと女神信仰の排除は関係ないと宣言し続けているのだ。
このまま価格が高騰すれば、いずれ民が飢える。
そうなればそれは王族への不満となり、暴動にも繋がるだろう。
その危険性に国王は気づいていないのだ。
この国の次期国王には、ほぼ第一王子がなるだろうと言われている。
それはなぜか。
兄である第一王子は父の愛した側室の子で、父は愛する女の子供である兄に後を継がせようとしているからだ。
だが側室は子爵令嬢で、後ろ盾が弱い。
それに対し、俺の母である正妃は公爵令嬢で優秀だ。
その息子である俺にも貴族からの期待は高かった。
正直次期国王の王座には興味が薄く、誰が座ろうとどうでも良かった。
その地位にふさわしい責任を負う覚悟があるのならやればいいと思っていたが、今はそう言っていられなくなっている。
兄は自分が国王になった際、父と同じく女神信仰を否定した王族主義を続けると言ってはばからない。
安全で敷かれた道を行くのが好きな事なかれ主義なのだ。
兄が王座につけば、この国は終わる。
父と同じように女神の力などあるはずがない。
自給率が落ちたのは偶然だ言うのだ。
この何十年間、ずっと自給率が落ち続けているというのに!
女神信仰に戻すべきだと進言すれば、ただでさえ父から疎まれている俺はさらに遠ざけられるだろう。
それにどうせ、証拠を出せと言うに違いない。
最近は国王の女神信仰の排除に疑問を持つ第一王子派の貴族も現れ始め、俺に接触してくるようになった。
このままでは国が乱れていくだろう。
接触してくる貴族たちを兄の為に排除するのは簡単だが、それでは国が立ち行かなくなってしまう。
何とか貴族たちを窘め、他に方法がないかと調べている最中だが、結果は思わしくない。
そんな中、さらに自給率が下がったと報告を受けたのだ。
つい苛立ってしまった。
「よお! シルヴァン」
声のした方を振り向けば、俺の乳兄弟でもあるトルティールが左手を上げてソファーの背もたれに寄りかかっていた。
彼は俺の乳母の息子で、幼い頃はいつも一緒にいた存在だ。
あっという間に背が伸び、大人になったトルティールは母親譲りの整った容姿を利用し、独身貴族を満喫しているのだとか。
「また、勝手に王族用の隠し通路を使ったのか」
「手続きがめんどくさいだろ?」
「ちゃんとアポを取れ。アポを!」
「期限わるいなぁ」
怒ってもトルティールは楽しそうに笑うだけだ。
「疲れた顔してるぞ?」
「当たり前だ。父も兄も自分の見たい物しか見ないのだからな。このままいけばいずれ処刑台に送られるのは自分達だというのに……、まったくわかっていないんだぞ?」
「第一王子は父親そっくりだからな」
「はぁ……」
俺がため息をつくとトルティールは少し困ったように笑う。
正直、女神信仰を排除するのは反対だった。
当時の俺はまだ子供で何の権限も持てなかったから仕方ないのだが、なぜ排除するより乗っ取れなかったのかと今でも思っている。
女神信仰は続けたまま、この国の神殿の力だけを奪えば良かったんだ。
だが、もうここまで来てしまった。
現状を改善する方法を考えるしかない。
そう思ってここ数年は、自給率低下を止める方法を探している。
面倒に思えても、俺は王族として育てられてきた。
この国の民を見捨てるわけにはいかない。
ここは俺の生まれ育った国だ。
もし、この問題を俺が解決したのなら、貴族たちは俺に従い、王冠は俺の頭上に輝くだろう。
いっそ俺が次期国王になった方がいいのかもしれない
大神殿がある隣国のルセファ国は常に豊作に見舞われ、食料をうちの国に輸出している。
ここ最近はますます豊作で、民の生活は豊かになっているのだとか。
隣同士なのに、うちとは大違いだ。
「そっちはどうだ?」
「俺? 俺は……順調かな?」
トルティールにはルセファ国の神殿に、神官として入り込んでもらっている。
情報を集めつつ、いずれ大神殿の方に移動できるように行動してもらっている。
このまま女神信仰を排除したままでも、何とか女神の恩恵を受けられないかと探りを入れているのだ。
俺はひと息ついて椅子の背もたれに寄りかかる。
机の右端の絵本は、なぜか王族しか入れない書庫にあったものだ。
なぜあの場所に一つだけ絵本が置いてあったのだろうか?
俺はこの絵本の存在を知らなかった。
では、兄の物?
そう考えていたら、ついそのまま部屋に持ってきてしまったのだ。
「急に絵本なんか見てどうした?」
「あ……いや、王族の書庫になぜかこの一冊だけが置いてあったんだ」
「一冊だけ? どれ?」
はやりトルティールも、書庫に一冊だけ絵本があることが気になるらしい。
俺の机の前まで歩いてくる。
「どんな話なんだ?」
「……西の方にパティサタール国という国があるんだ。その国の成り立ちを子供向けの絵本にしたものだ」
「なるほど」
トルティールにも見えるように、机の上に置いて、絵本のページをペラリとめくる。
そこには追放された王弟が水を求めて彷徨ったあげく、運の悪いことに砂漠へ着いた。
王弟には数十人の家臣が付いてきており、砂漠に辛うじて残っていたオアシスにその全員分の水は残っていなかったのだ。
王弟は女神に祈った。
自分は命を捧げてもいいから、ついて来た家臣たちは助けてやってほしいと……。
その願いは女神タリアによって叶えられる。
女神が姿を現し、王弟にひとつの緑の花を与えた。
この花を慈しみ、必ず幸せにするようにと言い残して女神は消える。
王弟は女神に言われた通り、緑の花を慈しみ、そして愛した。
緑の花は愛を受けて花開き、周囲が緑で溢れ、その場所は緑豊かなパティサタール国になったという物語だ。
絵本をパラパラとめくれば、見開きの真ん中に緑色した花があり、その周りを王弟と家臣たちがかしずいている絵が描かれている。
「砂漠を緑の国に変えた緑の花……どんな花なんだろうな?」
絵本をパタンと閉じて、また机の端に戻す。
この国に緑の花があれば、五穀豊穣の実が豊かに実るのだろうか?
「……おい、シルヴァン……」
「なんだ?」
「この絵本に書かれている緑の花……」
「それがどうした?」
俺が閉じた絵本を掴み、トルティールが絵に描かれた緑の花の指さす。
「緑の花は植物じゃない。ギフトの名前だ」
「……ギフト?」
「ああ、女神が与えたのは緑の花のギフトを持つ女だ。だから王弟は女を慈しみ愛し、幸せにしたんだ」
「……」
緑の花がギフト?
なぜトルティールがそんなことを知っている?
「なぜそんなことが言い切れる?」
「俺は神殿の使いで、大神殿の方に行った。そこで緑の花という名のギフトを持つ女と出会った……」
「……なんだと?」
トルティールのギフトは『鑑定』だ。
人の持つギフトの名を見ることができる。
この絵本と同じ名のギフトを持つ女がいる?
どういうことだ?
絵本の内容が事実だから、王族専用書庫に絵本が保管されていた?
これはただの偶然?
心の奥で何かがざわつく……。
「その女は大神殿で何をしていたんだ?」
「庭師だ……。今ルセファ国で一番注目されている大神殿専属の庭師だ」
緑の花のギフトを持つ女が……庭師……だと?
『緑の花が咲くと周囲が緑で溢れる』
そのフレーズが頭に浮かぶ。
もしやその女は砂漠すらも緑に変える力があると言うのか?
試してみたい……。
誰にも見つからず、たった一人の女をこの国に連れて来ることはそう難しくはないだろう。
「その女をこの国に連れてこよう」
「ここにか? だが緑の花は慈しみ幸せにしないと力が発揮できないんじゃないか? 無理に連れてくれば力が使えなくなるかもしれない」
「……」
確かに絵本にはそうともとれる言葉が書いてある。
……つまり女が幸せだと力が発揮されるのか?
それなら攫って言うことを聞かせても、力が使えない可能性があるのか……。
大神殿はルセファ国の中にあり、大神殿と問題を起こせば国も出て来る可能性がある。
しかも神殿は治外法権を持つ。
それによって独自に聖騎士団を持ち、神殿を守っているのだ。
聖騎士に見つかると神殿の権利と国の権利の両方から問題になる。
それでは色々とリスクが大きい。
「ならどうすればいい?」
「女が自らの意思でこの国に来ればいいんじゃないか?」
「自らの意思? 注目されている大神殿の専属庭師なんだろう? もっと賃金の高い仕事でも与えるのか?」
「……そこはもう少し調べてみるよ」
トルティールはうっとうしそうにライトグレーの前髪をかき上げながら、絵本を元の場所に戻す。
この男は高身長で細身の体躯を持ちながら、服越しにもわかるほど鍛えられた筋肉と、ゆるやかに波打つ前髪をかき上げる癖が少し下がり目のターコイズの瞳を際立たせ、見る者を引き付けてやまない。
唇の右下の黒子が笑うとまるで誘っているかのようにも見え、たいていの女は頬を赤らめてトルティールを見てしまう。
今までも狙った女はすべて落としてきたと豪語しているくらいだ。
「なぁ……トルティール。……結婚しないか?」
「は?」
王族の俺では平民の女とは結婚できないが、トルティールは下位貴族だ。
平民と結婚しようとかまわない。
「まさか……緑の花の女と結婚させようとしてるのか?」
「本当に結婚する必要はない。女を婚約者としてこの国に連れて来るなら、何の問題もないだろう?」
「……なるほど」
俺の考えていることがわかったのか、トルティールが口角を少しあげてほほ笑む。
「女を俺に惚れさせて、結婚のためだと騙してこの国に連れてくるんだな?」
「ああ……」
その答えに、トルティールが肩をすくめる。
「本当に出来るか?」
「できる出来ないとかの話じゃないぜ? この国に女を連れて来てやる。例え女が既婚者でもな……」
「……わかった。できるだけ早く女をこの国に連れて来てくれ」
「了解」
トルティールの瞳が楽しそうに輝く。
新しいおもちゃを見つけた時の、幼いトルティールの面影に重なる。
俺が一番信頼して、いつも俺を一番助けてくれる幼馴染。
緑の花のギフトを持つ女はどんな女なのかと想像すると、俺の目の前で王冠が輝いていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ほのぼの恋愛物と言っていましたが、少しスケールの大きなスパイスが入っている恋愛物となっております。
どうすれば読み手さんが楽しめるのか、うんうんうなって頭を回転させて頑張っておりますので、楽しんでいただけたら幸いです。
良かった、今後に期待、ここが……などがありましたら気軽に感想などお送りください。
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※いただいた誤字脱字報告は色々と確認しながらゆっくりと修正させていただいております。




