笑顔を願う花
今日は休日。
この世界の働き方は週五勤務に残り二日はお休みだ。
いつもは休みの日になると家の庭いじりをしていたのだけど、最近はサンプル作りでほとんど庭師さん任せになっていた。
一応、出勤前の一時間くらいは庭の確認と、必要な子たちのお世話はして仕事に行くようにしてる。
自分の目で成長を確認したいしね。
それに必要なハーブを摘んで干さなければならない。
神殿は花に溢れているが、ハーブティーに必要なハーブが少ないため、自分の家から持参して作っている。
そのせいか、気づけばいつの間にか庭の一部がハーブまみれになってしまった。
もともとミントが好きで、ミントだけでひと区画が埋まるほどだ。
定番のペパーミントとスペアミントに、私のこだわりでアップルやパイナップルの甘い香り、オレンジやレモンの爽やか系、珍しいチョコレートミントまで種類がある。
デザートに入れたり水に浮かべたりと、使い方は工夫次第で色々あるのがいい。
ミントの生命力は強く、ミントの葉を一枚、庭に捨てたら気づけばミントだらけになっていた……なんて話もある。
竹を一本植えたらあっという間に竹林になっちゃったのと、同じこわさだよね。
なので、きちんと区分けされた場所で育てている。
もう一つの画角にはリラックス効果の高いカモミール、爽やかなレモンの香りのレモンバーム(メリッサ)、抗菌力のあるタイム、うちでは肉の臭みを消す時に使うセージやトマト料理に使うバジルなどそこにそこに植えていた。
他にも観賞用で育てている中でハーブティーにも使っているのは、リラックス効果が高いラベンダー、肉を焼く時に使うローズマリーは飲み物に入れると集中力が上がるのでよく使っている。
うちには作ってもらった温室があって、そっちは温かい地方で育つ植物がメインだ。
中でもハイビスカスに似た同属異種のローゼルは、ガクとホウからハイビスカスティーになる。
パッケージには赤い文字で「妊婦と乳児子育て中は飲用禁止」と、注意書きをつけるのも忘れない。
ローズヒップとハイビスカスティーが好きな人も多いからね。
そして今出てきたローズヒップ、薔薇の花の後にできる実のことでビタミンCが豊富で甘酸っぱい味がおいしい。
ハーブティーにするにはこちらも手間がかかるんだよね。
こういった植物の世話や、ハーブティー作りをしているうちに時間が消えていく。
ちゃんと休まなきゃいけないんだけど、これだけはしておかないとってことが多すぎて……。
仕事中に倒れたりしたら人に迷惑かけてしまうから、少しでも時間が空いたら横になって休むようにしているものの、最近体が重いような気がして少し不安だったりする。
本当は手伝ってくれる人を雇いたいが、飲食を扱っている以上、信頼できる人でないと任せられないせいで、なかなか見つからないんだよね。
しばらくはひとりで頑張るしかないかな?
よし!
これも大神官様の笑顔を見るため!
体調管理をしっかりしながら頑張るぞ!!
真近で見た大神官様の微笑みを思い出し、格好つけて片手で力こぶを作った。
思っていたよりもこぶが小さくても気にしない……。
今日は天気が雨なので、庭師の仕事は少ない。
だから空いた時間を利用して、木工職人さんのお店に来ている。
「おう、ネモフィラちゃーん!」
「こんにちは!」
木工職人の親方さんはちょっと変。
毎回私の名前を呼ぶとき、ネモフィラちゃーんって音が上がっていく。
それに以前石けんのサンプルとハーブティーを渡したんだけど、その後日、テーブルの下で手を出して、小さな声で「嫁に頼まれたんだけどさ、この間の石けんもっとくれよ」って言われたのだ。
その時、店には私と親方さんしかいないし、頼まれたんだから普通に言えばいいのにどうしてヒソヒソするのかがわからない。
そんな感じでいい人ではあるんだけど、色々とちょっと変なの。
「頼まれてた薄板を加工したラベル、出来てるんだがちょっと見て欲しい」
私が頼んだのは、植物の名前やメモなどを書き込んで土に挿すラベルのことだ。
親方さんが裏から箱を抱えて戻って来ると、その箱を開ける。
「これなんだけどよ。こういうの可愛いじゃん?」
そう言って出してきたのは確かにラベルだけど、ハートや星の形をしたラベルで、色もピンクや黄色に塗ってある。
親方はピンク色したハートのラベルを脇をしめ、両手でかわいく摘まんで私に見せてくれたんだけど……。
髭面のいかつい顔した、袖なしで丸見えの筋肉ムキムキのおっさんからそれをされると……ちょっと気持ち悪いと思ってしまうのは仕方ないよね?
本当にもう!
これで愛妻家だし、嫁さんかわいいし!
でも……ちゃんと結婚できたんだね。
失礼なことを心の中で呟きながら見せてもらう。
花の存在を損ねないように、木目が見える程度に薄く塗られていて場所によっては使えるかもしれない。
神殿には鉢物や、ひとつづつ植えているものもある。
そういう所に使うといいかもしれない。
「ありがとうございます。ちょっと使ってみますね。こちらの分は頼んだ分に換算して清算してください」
「こちらの分?」
「ええ……。え? これはまだ売れないんですか?」
「いや、ネモフィラちゃーんのために作ったんだぜ?」
「ありがとう……ございます? ん?」
「あ?」
親方の言っていることがわからず、頭の中にハテナがいくつも浮かぶ。
「えっと……、これ今日私に売ってくれるんですよね?」
「ああ、そうだ」
「売ってくれるってことは、頼んだ分とこの分のお金が発生しますよね?」
「いやこの分だけだぜ?」
「え?」
頼んでいた長方形のラベルはどこいった?
「いつも頼んでいる長方形のラベルの方はどうしたんですか?」
「これだ」
親方がもう一度ハートのラベルをかわいく摘まんで見せる。
だからそれはいいですって!
ってか、頼んだ方は作らずにこっちを作っていたのね。
「嫁ーっ! 嫁さまぁあああああ!」
二階に向かってそう叫ぶと、天井から足音がしてお嫁さんが姿を現した。
「またなんかやらかしたのっ?」
怒った表情で店に飛び込んできた嫁さんに、泣きそうな顔しながら事情を説明すると、嫁さんは親方のお腹に見事なコークスクリュー・パンチを入れる。
パンチをくらって床に沈む親方……。
コークスクリュー・パンチとは昔のボクシングアニメにもなった漫画のライバルが腕にひねりを与えながら威力の高いパンチするというもの。
この嫁さんも前世持ちなのだ。
アニメヲタらしい……。
床に倒れている親方をしり目に、頼んだラベルが完成したら嫁さんが、責任をもって神殿の方に届けてくれることになった。
お願い親方、ちゃんとお仕事してください。
あんまり嫁に負担かけちゃだめじゃないですか。
離婚されても知りませんよ?
変だけど、腕はいいんだよね。
嫁もいい人だし。
受け取った可愛らしいラベルの代金を払って、神殿に戻ることにする。
他に忘れ物とかないよね?
少し心配になってポケットから手帳を取り出す。
最近することが多くて、メモった手帳を持ち歩いているのだ。
もうこれがないと動けないくらいだよ。
私は手帳を確認しながら神殿へと戻っていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
私自身、花が好きで育てたり、花を使った手作りに興味があって調べたりしてた知識や感情を参考にこのお話を書いています。
庭師ちゃん(ネモフィラ)は私にとって花のような女の子になるように書いています。
すこしでも彼女が読み手さんの心を温められてたら嬉しいです。
良かった、今後に期待、ここが……などがありましたら気軽に感想などお送りください。
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※いただいた誤字脱字報告は色々と確認しながらゆっくりと修正させていただいております。




