表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛する貴方の心に幸せの小さな花と花言葉を添えて  作者: 桃川 ゆずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

温かな花

 今日は、神殿長や大神官様を含む神官たちの居住区への出入りを許可された日だ。


 私は貴族の娘なので通いとなっている。

 毎日朝早く家から馬車で貴族街の門をくぐり、市民区を抜け、神殿の正面玄関にある門に着く。

 時間にしたら三十分ちょっとはかかるかな?

 門を抜ければこの大神殿で有名な、見る者に感動を与え虜にする美しい庭園が見える。

 左は貴族専用、右は市民専用の庭園だ。

 左右の庭園に挟まれたサーモンピンクのレンガで作られた通路を行くと馬車専用の停車場があって、私はそこで馬車を降りて神殿の横を進む。

 早朝に神殿に入る用事はないからね。


 神殿の裏手に行くと、大神官様や神殿長たち神官さんの居住区の棟が見える。

 こちらも左右に男女で別れており、その間には明るい陽射しの降りそそぐ中庭が広がっている。

 庭園の奥には私が時々休憩しているピンクの薔薇が柱を彩るガゼボがあって、その先には花畑を隠す垣根があり、中では育成中の草花や、季節外れで下げた花の世話をし、季節になれば庭園や中庭にまた戻す。

 こうして常に花が咲き乱れ、花と豊穣の女神タリアを祀るにふさわしい庭が保たれているのだ。


 ちなみに庭園は大神殿の正面にあるので、一人だった大神官様を見つけたのは中庭の方になる。

 そのせいか中庭の世話に来ると、つい通路を気にしてしまう。

 儀式がないときの大神官様は、白いカソックに位を表す薄紫のストラを垂らしただけの、簡素な服装で歩いているからすぐに気づけるけど、大神官様はふだん自分の住んでいる居住区棟にある礼拝堂に籠っていることが多く、めったに姿を見ることはない。

 これじゃ通路に飾った花に気づいてくれているかどうかもわからないよね……。

 

 花といっても、飾っているのはドライフラワーだ。

 この通路は居住区から神殿へ行き来するのに必ず通る場所だから、白い法衣に花粉がついたり、参拝者の前に出るとき衣服に花の移り香が強いとよくないから生花は飾れない。


 だから石けんや、練り香水は控えめな香りがするように作っている。

 それにドライフラワーも今回に合わせて金木犀だ。

 オレンジの小さな花がたくさんついていて、濃い緑の葉がアクセントになって吊るしたときに目を引くだろう。

 実は今回のために、2つ追加で作ったものがある。

 1つは強い香りが好きな人のために、ポプリを作ってみた。

 ポプリは香りが強めで長持ちするのが特徴で、部屋着なら多少強い香りが移っても大丈夫だと思う。

 それに作った物の香りが混ざると気持ち悪くなる人もいるかもしれないから、今回は金木犀に統一した。


 次に2つ目、お試しで作ってみた金木犀のシャンプーだ。

 これは普通のシャンプーに金木犀の抽出液を混ぜただけの簡単なもので、一応金木犀の香りはする。

 ただ私も初めて作ったから、香りがどれくらい持続するのかわからず、作り続けるかは少し迷うところだ。

 とりあえずお試しだし、評価と人気度合いを聞いてから考えようと思う。


 これらすべてを持って、中庭から居住区の棟に入るための廊下を歩く。

 この廊下は吹きさらしだけど、アーチ型の屋根があるので雨風は防げる。

 それに吹きさらしのおかげで、歩きながら美しい中庭を見渡すことができるのだ。

 その通路を進み、男性専用居住区の入り口の扉の前に立つ。


 ちょっと仲良くなった神官さんの話だと、居住区は二階建てで、入り口の真正面に神官用の礼拝室があって、その上の二階に大神官様の執務室と私室があるのだとか。

 入り口の上には神殿長の執務室と私室があって、一階と二階の左右には扉が並び、そこが神官さんたちの私室になる。

 実際はどんな所なのかとても気になっていたから、今から見るのがとても楽しみだったりする。


 ゆっくりと両手で扉を開けると、白い大広間が目の前に広がった。

 床一面に青と金の模様が組み合わされ、花のようにも見えるそれは、神殿の象徴のように輝いていた。

 正面の二枚扉は礼拝室へと続く神聖な扉で、今立っている扉の前から白い縁のある落ち着いた赤色のジュータンが続く。

 よく見てみるとジュータンに赤い糸で、花の刺繍が細かく入れられている。

 きれいだけど、この長さを作るのは大変そうだ。


 礼拝室の上、二階の回廊が手前に張り出していて、下の広間を見下ろせるようになっている。

 ここから大神官様も下を見下ろしたりするのかな?


 その場所の真ん中に二枚扉があり、これが話に聞いていた大神官執務室の扉で、その少し離れた横にある一枚扉の方が私室の出入り口なのだろう。

 礼拝室の左右には階段があって、大神官様はあの階段を使って生活しているのだと考えると、なんだか急に落ち着かない気分になってくる。

 もしかして、執務室から出て来る大神官様に少しだけ会えたりしないかな?


 少しどきどきしつつ、教えてもらった倉庫の扉を開け、中から長机を出す。

 出入り口の左右にも礼拝堂と同じ階段があって、長机は入り口と階段の間にある壁にくっつけて置いた。

 次にその机をぞうきんで拭いて、薄黄色の布を敷き、鞄から花柄のケースを数個出して机に並べていく。

 次にケースごとに石けんや、ポプリ、カモミールを使ったハーブティ、練り香水やハンドクリーム、お試しのシャンプーのボトルも並べる。

 ちゃんと金木犀とオレンジのハーブティは他のから少し離すのも忘れない。

 全て並び終えたらケースに名前と説明のラベルを差し込んだ。

 これで間違えて持っていくこともないだろう。

 最後に金木犀の花言葉と効能の説明を書き、最後に自由にお試しくださいと言葉を添えた、金木犀の花を描いたお手製ポップもつける。

 長机の上はちょっとしたお店屋さんみたいだ。


 すでに石けんとハーブティの好評は得られているけど、それ以外は今日が初めてのお披露目になる。

 たくさんの人に貰われて行くといいなぁ。


「よし、出来た! ここまでよく頑張りました。私って偉いね!」


 自分で自分を褒めとく。


 ここは男子専用棟なので、女性の方に比べると人気具合がどうなるか不安になるけれど、この世界の男性は意外とフローラルな香り好きが多い。

 それに花の女神様に仕えているからか、ここの神官さんは花が好きだ

 男性でも神官さんは花の香が好きだと信じよう!


 次に金木犀のドライフラワーを使ったリーフを、礼拝堂の扉につける。


 花と豊穣の女神様なんだもの。

 こうして扉を飾ったらきっと喜んでくれるよね。


 最後に神官さんの私室の扉の間に、いくつか間を開けて黄緑のリボンで結んだ金木犀のドライフラワーを吊り下げる。

 すべての扉と扉の間にさげるとくどいし、初めての試みなので控えめにしとく。


 ちょうど礼拝堂の階段裏にある私室の扉の横に、ドライフラワーを付けようとした時だった。

 入り口の扉が開いて誰かが入ってくる。

 誰だろうと思って顔をそちらに向けると、風に銀の長い髪を揺らす大神官様の姿があった。

 大神官様は入り口にあった長机のアイテムに気づくと、興味を持ったらしく、その長くて細い指でハーブティや金木犀の石鹸とポプリを手に取っている。

 そして周囲を見回し、私と目が合った。

 その瞬間、喉から心臓が飛び出して来るんじゃないかと思って、とっさに息を止めてしまう。

 あの日からずっと会いたいと思っていたディオレサンス大神官様……。

 その大神官様に突然会って思考が止まってしまった。


「君がこれを? 貰ってもいいのかな?」


 ちょうどドライフラワーを吊り下げようとして、手に持っていたから私が置いたと思って聞いてきたのだろう。

 初めて聞いた大神官様の声は少し低めの心地いい声だった。

 私はドライフラワーを握りしめ、息を止めたままコクコクと頷く。

 とても声が出るような状態ではない。

 心臓が自分でもびっくりするほどどきどきとしていて、息を止めているからか喉が詰まって声が出なかったのだ。


 そんな私に大神官は、穏やかで優しい笑顔を向けてくれた。


「ありがとう。貰って行くよ」


 そう言って赤いジュータンの上を足音も立てず、滑るように歩いて私の後ろの階段を上がっていった……。


 確かに会えたらいいなぁって思ったよ?

 でも執務室から出て来ると思っていたから、出入り口から現れてすごくびっくりしてしまった。

 私は自分の胸を押さえつつ、止めていた息を大きくゆっくりと吐き出す。

 今もまだ胸がいっぱいで体が小さくふるえてしまう。


 まぶたに大神官様の笑みが焼き付いている。

 ……私にありがとうって笑いかけてくれた。

 あの寂しそうな瞳じゃなかった。


 嬉しい……。


 なぜかそう思ったとたん視界が揺れ、瞳が潤む。

 次の瞬間、涙がぽろりとひとつ零れ落ちた。


 どうして泣くんだろう?

 こんなに心は温かく感じるのに……。

 ……ああ、そうか、私、嬉しいんだ。


 庭師としての責任や、花の世話などの合間、自分の休憩時間なども使い頑張って作ってきた。

 その努力が報われたような気がして、嬉しさがこみあげて来る。


 手に持っていた金木犀のドライフラワーを見つめ、そっと胸に抱く。


 これであなたの心を少しは慰めることができるかな?

 私の育てた花が。

 私の作った物が。

 少しでもあなたを幸せにできればいい。


 私はしばらくその場所から動くことが出来なかった……。





 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 23日までに9話くらいまで更新したいと思っています。

 ちなみに余談ですが、私の脳内で大神官様の声は声優の阿座上洋平さんで再生されております。

 低すぎず高すぎずちょうどいい声がまさにぴったり!


 良かった、今後に期待、ここが……などがありましたら気軽に感想などお送りください。

 感想がなくても、ブックマやちょっとポイントを入れてくださっても励みになりますので、読んで良かったと思ったら足跡残していただけると幸いです。

※いただいた誤字脱字報告は色々と確認しながらゆっくりと修正させていただいております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ