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愛する貴方の心に幸せの小さな花と花言葉を添えて  作者: 桃川 ゆずり


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12/12

揺らいだ心に咲く花

 先週は修道院に行ったので、今度は孤児院を訪ねる約束だった。


 この国の神殿の近くには、たいてい孤児院や修道院が建っている。

 女神様に仕える者として、少しでも女神を祀る神殿の近くにありたいという願いから建てられているからだ。

 私のいる大神殿にも、平民街の少し外れに並ぶような形で孤児院と修道院がある。

 両方に用事ができたときは、移動しやすそうで良かった。


 孤児院には、乳児から十六歳で成人するまでいられる。

 どんなに貧しくても、子供が一人くらいなら近隣の人々も協力して助けてくれるほど、地域での子育てが盛んだ。

 加えて、ルセファ国は豊穣の女神のお膝元で、自給率も高く国も豊かなため、子供が育てられずに孤児院に預けるというのは珍しい。

 孤児院にいるのは、たいてい両親を失った子供や、流れてきた移民の子供たちだった。

 経営の仕組みは修道院と同じで、国からの補助金や寄付金などに頼っているらしい。

 私の企画が少しでも助けになればいいと、ただ素直にそう思っていた。





 孤児院に着いて応接室に通されると、窓の外では子供たちが庭で楽しそうに遊んでいるのが見えた。

 年齢はさまざまだが、十四人ほどだろうか。

 どの子も痩せ気味で、子供らしいふっくらとした子がいない。

 そのことに気づき、心の奥が小さく軋んだ。


 国からの補助金は、人数に応じた年間分が一括で支払われる。

 途中で人数が増えても追加の支給はなく、もらった分の中で生活していかなければならないそうだ。

 子供の人数が増えればその分、一人当たりの手当てが減る。

 そんな深刻な状況では、最低限の生活必需品の費用を差し引くと、どうしても食費を節約せざるを得ない。

 そんなギリギリの生活なんだとか……。


 先日の修道院で聞いた話では、修道院に入りたい者は、決められた金額の持参金を持って入るという。

 その持参金が修道院の収入となる。

 その他に修道士たちは自身の財産もあるため、それほど生活は困窮していない。

 ただしごく少数ながら節約して暮らしている者もいて、私の話はありがたいと喜んでもらえた。

 だから、私は深く考えなかったのだ。

 孤児が初めから財産など持っているはずもなく、補助金と支援金しかない中で、子供たちが痩せてしまうほど困窮しているとは思いもしなかった。


 私は貴族の生まれで、家は子爵家。お金には余裕がある。

 欲しいものを買えなかった経験すらない。

 いつだって花のことばかり考えていて、それ以外には興味がなかった。

 だから修道院や孤児院が、なんとなく生活が豊かではないだろうとは思っていたものの、満足に食事も取れないなどとは、考えもしなかったのだ。


 ここに来るために菓子折りを持ってきたけれど、本当はお菓子ではなく、お肉など子供たちのお腹がいっぱいになるものを持ってくるべきだったんだ。

 私は何も知ろうとしなかった。

 花を使った手作りの品を作るとき、不足する手を補う人手として修道院や孤児院を思い浮かべていながら……。

 花に夢中で、自分のことばかり考えていたことが、ひどく恥ずかしい。


 院長が窓から少し外に出て、私の持ってきたお菓子を子供たちに分けたけれど、それは一瞬でなくなってしまった。

 みんな甘くて美味しいと笑顔で喜んでくれていたけれど、お腹の足しにはならなかったはずだ。


 私が庭師として稼いだお金をここに寄付する?

 ううん、それじゃ焼け石に水だ。

 それにここと同じ状況の所がどれだけあるのかもわからないのでは、何の解決にもならない。

 やっぱりこの生活を少しでも改善するには、私の方法は決して悪くないと思う。

 ただ相手は子供だから、商品のパッケージ梱包などの子供のお手伝い程度で、小銭を稼げればいいとしか考えていなかった。


 このままじゃだめだ。

 でも、子供ではやれることが限られているし、無理はさせられない。

 子供の安全だけはちゃんと守ったうえで、子供でも稼げるアイデアを考えなければ……。

 そうは思っても、急にいい考えなんて浮かばない。

 前世からずっと花のことしか考えてこなかった、自分の世界の狭さに情けなくなってしまう。

 どうしたらいい?


 必死に頭を回転させ、前世の記憶も思い返す。

 子供たちにできるお金の稼ぎ方……。

 バザー?

 クッキーとかは、材料費を考えると一個あたりの単価が安い分、利益も薄い。

 今回作ったものはアラニバ商会が直接、買い取ってくれることになっている。

 力仕事じゃなく、単純作業でできること……。

 私はサンプルとして持ってきたハーブティーを思い出す。

 ここに花を持ち込んで乾燥したあとにブレンドし、ネット袋に詰めてパッケージに入れるまでくらいならできるだろう。

 孤児院は貴族向けのハーブティーを販売すれば、それなりの利益が見込めるはずだ。

 でも、ハーブティーはいずれマネされてしまう。

 それではいつか現れる強豪に負けてしまうかもしれない。

 どうすればマネできない?


 必死に記憶を思い出しながら考える。


 ここだけの特別な何か……。

 花、メッセージ……花言葉……。

 ふと、前世で買ったパンのことを思い出す。


 福祉作業所……だったかな?

 たしか、地域の支援施設で、パンや焼き菓子の他に手芸品なども売っていたはず……。

 利益を求めるためではなく、社会との接点を持つ活動だと入り口の看板に書いてあった。

 健常者が障害のある人と関わり、手を差し伸べるきっかけを作る活動だったと思う。

 パンのビニールには「このパンは障がいのある方々が心をこめて焼いています」の文字……。

 これを子供たちに置き換えたらどうだろう?


『このお茶は孤児院の子供たちの手で丁寧に袋詰めされています。売上の一部は孤児院の生活費として使われます』


 これだと長いし、寄付が欲しいと匂わせられてないかも……。


『このお茶を買ってくださると、販売価格の一部が子供たちへの寄付になります。あなたのご購入が支えとなり、子供たちのお腹が少し満たされます』


 こんな感じの方がいいかも?

 貴族なら貴族が買う動機(“善行”+“誇り”)として、多少値が張っても買ってくれるはずだ。


 私は手に持っていた企画書をもう一度見つめる。


 今の考えが子供たちにとって本当にいいのか、それを院長に確かめなければならない。

 ゆっくりと息を吐くと、私は院長に向かって企画書を差し出した。


 大好きな花が、たくさんの人を幸せにしてくれると私は信じている。

 だからそのお手伝いができるように、まずは相手のことを知るところから始めよう。





 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 花しか見ていなかった庭師ちゃんが、子供を通して素直に自分のあやうさに気づくお話がどうしても入れたくて入れました。

 彼女の成長の積み重ねがとても大切だと思っております。


 良かった、今後に期待、ここが……などがありましたら気軽に感想などお送りください。

 感想がなくても、ブックマやちょっとポイントを入れてくださっても励みになりますので、読んで良かったと思ったら足跡残していただけると幸いです。

※いただいた誤字脱字報告は色々と確認しながらゆっくりと修正させていただいております。

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