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愛する貴方の心に幸せの小さな花と花言葉を添えて  作者: 桃川 ゆずり


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11/12

女神に捧ぐ夢の花

 流れ星の落ちる星空のもとで、淡く光る花びらが舞う。

 花びらの流れる先には、ディオレサンス大神官様がこちらを向いてひとり立っていた。

 私の手の中にはいつの間にか、すべて違う色をした不思議な花びらの花があった。

 私はその花を持ったまま、ゆっくりと彼のところへと進む。

 その間もひらひらと流れる花びらが、彼の銀色の長い髪の上を滑り落ちていく。

 私のクセのある淡い薄桃色の髪とは違う、真っすぐで艶やかな銀髪を気づけば目で追ってしまっていた。

 その輝きが少し羨ましく、一度だけ触れてみたいと思ってしまう。


 陽の光のような淡い金色の優しい瞳が私を見つめ、今すぐにでも彼のもとへ走り寄っていきたい気持ちをぐっと押さえる。

 振動で手の中の花が散ってしまわないようにと、慎重に足を進めていく。

 この花はどこにでも咲いていて、どこにも咲いていない幸せの花。

 きっとこの花がディオレサンス大神官様に幸せをもたらせてくれるから、私は彼の目の前に立つと、彼に花をそっと差し出す。

 彼はその花をまるで宝物かのように受け取ると、幸せそうな笑みを浮かべてくれた。

 七色の幸せな花が彼の手の中で輝き始める。

 ああ、これでもう大丈夫。

 幸せの花が貴方を幸せにしてくれるだろう。


 花畑で倒れてディオレサンス大神官様に助けてもらってから、後日、そんな不思議な夢を見た。

 夢なのに、今も私の手にあの花の感覚が残っている。

 あの夢のように、私は幸せの花をディオレサンス大神官様に、渡すことが出来るだろうか?

 そう考えた時、私はあることを思いついた。





 今日は、大神殿から一番近い修道院に来ている。

 ここは女神に身を捧げた者や、女性だけに囲まれることを選んだ者がいる場所だ。

 神殿の神官になるには、ある所定のギフト保持者に限られている。

 必要なギフトを持っていない者は、修道院に入ることで女神に仕えることを許されるのだ。

 だから修道院の庭には、たくさんの花に溢れている。

 けど庭師を雇う予算はなく、自分達で育てているのだとか。

 それなら石けん作りの花もちゃんと育てられるだろう。


 私は事前にアポを取っていたので、尋ねるとすんなりと中に案内された。


 前世では庭のコーディネートのことで、よく企画書を出してプレゼンしたから緊張はない。

 私は修道院の責任者である院長と副院長、経営管理の三人に、手でコツコツ書いた企画書を渡す。

 説明しながらサンプルを出して渡すと、彼女らは説明を聞きながら興味深そうにサンプルに触れている。

 その反応に、彼女らの好感触を感じた。


「ということを考えています。ここまでで何かご質問はありますでしょうか?」


 一通りの説明の後、そう聞いてみると、院長が身を乗り出す。


「つまり、ひとつの場所にそこでしか作られない物を作って差別化すると言うわけですね?」

「はい。どうしても香りの好き嫌いがありますので、やはり人気のある商品は売上が伸びる傾向があります。そこでこの企画に参加していただいた所から順に好きなレシピを選んでもらうことを考えております」

「 ……なるほど、ですが最初にこちらに話を持ってきたということは、私どもが一番最初にレシピを選択できるということでしょうか?」

「はい、この企画に参加いただけるのであれば、お好きなレシピを選択していただけますし、まず最初の成功例として他の方の参考になるよう、私が一年間サポートいたします」

「確かに、私どもの院はあまり生活に余裕がありません。ですから自分達で作って売ったものがそのまま収入になるのは、とても魅力的なお話だと思います。ここにいる修道者たちと話し合ってみますので、また後日、こちらからご連絡をいたしますわ」

「わかりました。何かありましたらいつでも大神殿の方へご連絡ください。あと、こちらにいくつかの石けんと、三種類のハーブティーが楽しめるように入れさせていただきましたので、皆さんでお使いください」

「まあ、ありがとうございます」


 私の差し出した箱を、院長は嬉しそうな笑顔を浮かべて取ってくれた。


 この企画で、本当に生活を支えるほどの収入に繋がるのかは、私もわからない。

 前世の私は庭を作るガーデンデザイナーが仕事で、花から作った商品を商売にしたことがないからだ。

 けれど、花をいじる仕事は朝早く始まるが、夜も陽が暮れれば終わりだし、雨などの天候の悪い日はほとんど仕事はお休みになる。

 私は夜や、天候の悪い日を使って、花を使ったハンドメイドをしたり、勉強したりしていた。

 三十三年間、ずっとそんな生活をしてきたおかげか、様々なことをしてきた。

 だから、一つがダメでもまだ他がある。

 少しでも生活が潤うように、何としても成功させてみせるつもりだ。


 貴族用と平民用の差別化も色々考えてある。

 貴族用なら多少コストがかかっても十分回収できるし、利益率もそれなりに高いはずだ。


 これからの問題として、もっと色々な精油がほしいなぁ。

 精油作りも任せて、必要な分を購入するって方法だと助かるんだけどな。


 あれこれ考えて歩いているうちに、いつの間にか製紙工場に着いていた。

 今日はまだまだやることがあるのだ。


 製紙工場は一つの建物の中で、前世でよく見ていた紙すきの方法で作られている。

 ここのおかみさんと木工の親方がいとこ同士で、紹介してもらったのだ。

 話は親方の方から通してもらっていて、今日は頼んだものを受け取りに来た。


「こんにちはー」


 入り口で何かを記入している年配の女性に声をかける。


「木工の親方さんから紹介していただきました。ネモフィラ・フィールデンと申します。本日はお願いしていた物を受け取りにまいりました!」

「ああ、あんたがネモフィラちゃーんかい」

「……」


 この独特の呼び方、親方と同じ!

 いとこってこんなところまで似ているものなの?

 ちょっとした脱力感を感じつつも、笑顔を浮かべる。


「もう頼まれていたものは用意しといたけど、あんなのどうするんだい?」


 カウンターの下から出した、籠の中に大量の紙の切れ端が入っている。


「花を包むのに使いたいんです」

「花をかい?」

「はい。この紙を花の汁で染織した紙に何か言葉を書いて、その紙で花を包んだら女神様の祭壇に捧げるんです」

「女神様の祭壇に?」

「紙には悩みやお願い事を書くのでもいいですし、女神への感謝の言葉や花言葉を添えて花と一緒に捧げれば、女神様も喜んでくださるかなって」


 そう、私が花畑で倒れた時、女神様が私の事をディオレサンス大神官様に伝えてくれたおかげで、私は助かったのだ。

 その感謝として女神様に、もっと花を捧げられないかと考えた。

 ただ花を捧げるのも悪くはないんだけど、あの日みた夢を思い出して、私はいらなくなった紙を花で染め、そこに女神に伝えたい花言葉を書いて花を一輪包んで捧げようと思いついたのだ。

 そこでふと、きっと女神様は私ひとりだけではなく、みんなから花を捧げられたら喜んでくださるんじゃないかな?

 そう考えたのが始まりだった。


「なるほど……。そりゃ女神様も喜ぶね」

「はい、こんなにたくさん用意してくださるとは思わなかったので、今回は買い取らせてください」

「ええ! いいのかい?」

「もちろんです。でも、少しまけてくださいね」

「あはは、もちろんだよ。買い取ってくれるだけでもこっちは嬉しいんだしね!」


 ほんの十センチくらいの切れ端でも、花を一輪包むのには十分な大きさだ。

 花で染めた紙と、籠に花を入れて礼拝室に置いておけば誰か女神様に捧げてくれるかもしれない。

 たくさんの人が女神様に捧げたら、きっと女神様も私を助けて良かったって思ってくださるよね?


 私は買い取った紙を持って花畑の所にある作業場に戻り、色の出る花をつぶして水で薄め、筆で適当に淡く染めていく。

 三種類の花から花汁かじゅうインクを作ってランダムに塗ったので、とてもきれいな紙になった。

 あとは並べて乾かすだけだ。

 今日は天気がいいから、すぐに乾くだろう。


 久々の二日連続休日なので、明日もお休みだ。

 明日は神殿の礼拝室にいて、信者さんにやり方を説明して花を捧げてもらおう。

 あ、今のうちに礼拝室に小さなテーブルを置くとかの連絡だけしておかないと!

 一輪ブーケを祭壇に捧げる許可はもらったけど、置く場所までは考えてなかった。

 まだまだやることがいっぱいだね。


 でも女神様に助けていただいたんだもの。

 助けた甲斐があったって思ってもらえたら嬉しいなぁ。





 結果、紙はいつの間にか神殿前の出店で売られるようになり、その近くには平民の家の庭に咲くような花から、道端で咲くような花までもが売られるようになった。

 花汁かじゅうのインクも作られ、それも売られている。

 もちろん値段は平民が支払うことのできる安価な価格だ。


 信者は貴族平民の区別なく、そこで紙を買い、インクで紙を染め、文字を書き、花を買って包み、神殿の祭壇に捧げるという流れが出来た。

 どうやら私財を使って紙を買って配った私のために、製紙工場のおかみさんがみんなに声をかけてくれたらしい。

 こうして紙に花言葉と願いを書いて花を包む礼拝が定着した。

 さすがに貴族は高級な紙を使い、自分の庭で咲く花を使っているようだが、女神様の祭壇の上には一輪ブーケがたくさん捧げられるようになったのだ。


 信者たちが出店の机の上で、楽しそうに一輪ブーケを作っている。

 私はその様子を微笑ましく眺めながら、花屋でお店の人に花言葉を教えていた……。






 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 実は削除してしまったのですが、庭師ちゃんが花言葉の本を出すことになるお話がありました。

 ですが、印刷が手作業なこと、花のイラストがないと花言葉を調べるのに少し不便なのに、印刷コストがかかりすぎてて本を出すのは現実的じゃないと思えて削除しました。

 そういう削除ネタなども今後、小話の方でアップできたらと思っています。


 良かった、今後に期待、ここが……などがありましたら気軽に感想などお送りください。

 感想がなくても、ブックマやちょっとポイントを入れてくださっても励みになりますので、読んで良かったと思ったら足跡残していただけると幸いです。

※いただいた誤字脱字報告は色々と確認しながらゆっくりと修正させていただいております。

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