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不運探偵は今日もビビりながら推理する  作者: MOGI
File.1 十七夜高校密室事件
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File.1-4 現実もたまには密室が出来る

 守と未華はいつも通りの通学路を学校へ向かって歩いていた。昨日遅い時間までゲームに熱中していた守は起床してから無限の欠伸に襲われていた。その様子に未華は呆れる。


「また夜更かししてたんでしょ」

「仕方ねえだろ、何か嫌な予感というか胸騒ぎがしてたから気を紛らわせたかったんだよ」


 昨日、彩瞳を案内した頃から妙に落ち着かなかった。それは喫茶店の事件があるからだった。また同じ悪夢が始まるのではという懸念に守は翻弄されている。


「転校してきた煌さんだっけ? あの子が探偵やってるってだけでしょ。気のせいだよ、気のせい。それでずっと気に病んでたら生きていけないよ」


 勿論そう思いたいのは山々だ。


「ああ、そうだな」


 喫茶店の事件の後、守はかなり落ち込んだが未華の慰めのおかげで短期間で立ち直れた。今の言葉も自分に対する励ましの言動だということは十分に理解している。

 あまり自分のせいで未華に迷惑をかけたくない。心配しないようにとりあえず肯定することを選ぶ。


 学校が見えてくる。校舎が三つ並びその間を渡り廊下が繋がっている。遠目から見てもかなりの大きさの高校だということがわかる。

 そしてその隣にはこれまた広大な面積のグラウンド。守がいつも登校する時間帯は様々な運動部が朝練をしておりその喧噪でとても賑わっている。

 しかし、今日の喧噪は朝練だけが要因ではなかった。


「どういうことだ…?」


 校門の前に停まっていた救急車とパトカー数台が目に入る。他生徒も校門を通り抜ける度にその緊急車両群の方を見ながら訝しんでいた。


「何かあったのかな」


 守と未華も予期しない来訪に驚く。

 二人もパトカーの脇を通って校門を抜けて敷地内へ入った。


 守は下駄箱に靴を入れて上履きに履き替える。その時に横からよく知った声に名前を呼ばれた。


「乙鳥君」

「冥府瀬先輩…?」


 その主は生徒会長の冥府瀬。これまた予期しない人物の登場に再び動揺する。


「突然で申し訳ない」


「本当に突然すぎですよ」と言いかけてやめた。その理由は冥府瀬の表情が真剣だと理解したからだ。警察が学校に来ていることが関係しているとすぐに分かった。


「…何かあったんですね」

「ええ。ひとまず私についてきて。煌さんももう来てるの」


(え? 煌さんが?)


 また一つ驚いているうちに冥府瀬は踵を返して歩き出す。

 慌てて守は「ごめん未華。先行ってて」と未華に言って冥府瀬の背中を追う。


「転ばないでよ」


 未華の声に「分かってるよ」と言わんばかりに手を挙げてポーズで返事した。


 ~~~


 冥府瀬の後を追従してたどり着いたのは家庭科準備室の前だった。そして廊下には数人の生徒会メンバーとスーツを着た男たち。すぐに守はその男たちが刑事だということに気づく。奥には彩瞳が既に待機していた。


「事件を嗅ぎつけるのが早いね守。血に飢えた狼みたいだ」


 刑事のうちの一人が守に話しかける。三十代くらいの顎髭を軽く生やした男だ。


「連れてこられたんだよ。てかやっぱ事件なんだね零兄(ぜろにい)


 守が零兄と呼ぶこの男は、警視庁捜査一課警部の学文路零悟(かむろれいご)。守の父親の兄の一人息子、いわゆる従兄にあたる。喫茶店の事件の時も真相が判明した後に現場に駆けつけてきたのは彼だった。その従兄含めた捜査一課がここにいる。その事実で守は事態が深刻であることを悟る。


「…見ての通りさ」


 学文路は家庭科準備室の方に体を向ける。

 守もその隣から家庭科準備室の扉の方を見る。

 悪夢の再来。という表現が正しいだろう。

 部屋から上半身が廊下側に飛び出すように女子生徒が倒れていた。そしてその生徒の胸元は真っ赤な血で染色されていた。

 捜査一課がいる時点で予想はできたものの、現実に遺体を目の当たりにすると絶望に打ちひしがれるような、脱力感が押し寄せてくる。


「よ、冥府瀬先輩…これって…」


「殺人事件ですよね?」と聞こうとしたがうまく声が発せなかった。

 途中で消えた言葉の続きをくみ取った冥府瀬はゆっくりと答える。


「…ええ。これは事件。しかも彼女は何者かに命を奪われた」


 昨日の胸騒ぎ。それがこの事件の予感だったことを理解するのに時間はかからなかった。


「だが、簡単な話じゃないようだ」


 学文路が軽くため息をつく。それに冥府瀬も「ええ」と賛同する。


「どういうこと?」

「…遺体が発見されたのは今朝。第一発見者は生徒会長の冥府瀬さん、副会長の回里さん、生徒会の一人である夕湫君の三人だ。回里さんと夕湫君が偶然この部屋の鍵が閉まってることに気づき、冥府瀬さんがピッキングの要領で解錠して扉を開けてみたら……遺体が倒れこんできたと」


 幾千の推理小説を読破してきた守は淡々と説明される学文路の言葉を容易に理解できる。


「そんでだ。通報があってここに俺たちが到着してこの家庭科準備室をある程度調べたんだが、この部屋の唯一の窓は内側から鍵がかかっていた。被害者は鋭い、いわばアイスピックのような物で刺されているが、凶器は現場から発見できなかった。……言いたいことが分かるね?」


 まさか、と守は思う。現実世界にそんなことが起こっていいのか、と衝撃を受ける。


「扉も、窓も、内側から施錠されていて、凶器が現場にない…。つまり、み、密室殺人…」

「ええ。起きるはずのないことが起きてしまったの。不可能犯罪という名の惨劇がね」


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